P.30

     *


 店の前で雪ちゃんを待ち一緒に入る。

 蓮子さんの微笑みが迎えた。

「あら、雪ちゃん、久しぶり。ホントにナイス・プロポーションだね。辰則くん、ノーマークだったってくやしがってたよ。でも、ワタシ的には前のカンジが好きかな」

「戻りかけてます。食欲解禁したし。シンデレラおしまい。ホットドッグください」

「そうそう。受験生は脳にブドウ糖あげなきゃ。奥、使っていいよ」

 奥とは整理棚に囲まれた一角だ。非公開のテーブルがある。店内からは完全死角で、蓮子さんがライターの仕事をしたり、常連の営業さんが昼寝に借りたりする。言わば、お馴染み様専用隠しテーブル。そこでイチャイチャしなさい、ってことかも。 

 せっかくのご配慮だけど、雪ちゃんはカタイ。二度目のキスは無理かもだけど、手くらい握ろうかな。

 熱あつのホットドッグがやって来た。パクつく。細切りキャベツがシャキシャキ。粒マスタードとケチャップのハーモニーも最高だ。

 雪ちゃんのほっぺがプクプク動く。おいしい顔を見るのは楽しい。

 遅れて飲み物が来た。ボクはアイスコーヒーだけど雪ちゃんはイチゴパフェ。もう、どうにも止まらない。

「太っても、いいんだよね」上目づかいで確認する。

「前のレベルまでだよ」

「それはわかってます」ひひひ。左手にドッグ、右手にパフェの二刀流が始まった。 

 源田社長とのやりとりを話すと、雪ちゃんは複雑な表情をした。

「言おうと思ってたの。ウチのお母さん、源田さんのこと知ってた。若い頃、同じ職場に居たんだって。びっくり。二人とも舞島建設の事務員だったの。源田さん、男に騙されて借金背負わされて、自殺までしかけたって。それを社長、舞島先生のお父さんが借金を肩代わりして助けたの。一生かかっても返しますって、源田さんは商売を始めたんだって」

 なんとなく憎みきれない気がしていた。人には、その人だけのストーリーがある。

「用立ててもらったおカネは、きちんと利息をつけて返した。たいしたものだってお母さん言ってた。そのかわり人が変わったって。源田さん、流美ちゃんの事情を知って、本当に儲けさせようとしたんじゃないかな。そんな気が、ワタシはしてる」

 賭場みたいなLUCKSも、海外サイトを介して、ギリギリ違法ラインを超えないようだ。

 地獄から這い上がった人は、すげえ。

「流美ちゃん、どうなったかな。なんかコワイ顔してたけど」

「アネゴは強情なところがあるからなあ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る