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「へえ。美男美女、いいなあ」

「でも、そういう人たちの恋って、軽いと思う」

「軽い、ですか」

「だってそうでしょ。簡単に取り替えられるんだもん。軽いよ」

「そこまで考えたこと、なかったなあ」

「当たり前でしょ、高校生なのに」

 二人組の常連さんが入ってきたから、このハナシはおしまいになった。もっと聞きたかったけど。

 残りのコーヒーを流し込み、カウンター席を立つ。

 蓮子さんの笑顔に送られて、喫茶RENを後にした。


     *


 高三対象の補習授業は月曜から水曜の午前中にある。水曜の授業が終わった後、辰則と中庭のベンチでコーラを飲んだ。

 ひいらぎが青々と枝を拡げ、真上からの陽光を遮る。吹き込む風が汗ばむ躰に心地よい。

「アマユキ居なくて寂しいだろ」からかうように辰則が言う。

 天藤あまとう 雪子ゆきこは、略されてアマユキになるのだ。

「受験勉強には離れてる方がいいかな。居てたら、きっとデートばっかしてる」

「キスくらいしたのか」

「キスは、した」

 恋が成就した日の、雪の中でのファーストキッスを思い出す。二人とも舞い上がっていた。ところが、キスはあの一回きりなのだ。雪ちゃんは、そんな状況になりかけると、柳に風と受け流す。

 夏休みに海外へ行ったのだって、考えてみれば、ボクたちのを避けてのことかもしれない。ひと夏の経験、などと言うではないか。夏というのは危険な季節なのだ。まあ、そんなカタイところもボクは好きなのだが。

 思い出してニヤけていたかもしれない。けっ、と辰則が反応した。

「キスの先はどうよ?」

「うーん、卒業してからになるんじゃね」

 辰則は天を仰ぐ。「お幸せでケッコウ」

「おまえさ、野球部引退して欲求不満たまりまくりだろ」

「くっそお、カノジョくらいつくっておくんだった。勉強以外なんも無い毎日なんて耐えられねえ」

 苦笑しながら眺める先に教室の窓がある。授業が終わった後も、窓際の席で、アネゴ──金子 流美るみが教科書を開いている。

 スケバンにも高三の夏は巡ってきたのだ。

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