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 蓮子はすこさんはとてもハナシのわかる女性だ。何かのライターをしながら、小さな喫茶店を営んでいる。年齢は母よりすこし上。友人の政木まさき 辰則たつのりに連れてこられた店だが、すっかり馴染みになってしまった。

 雪ちゃんとも何度か来た。千切りキャベツと粒マスタードたっぷりのホットドッグが、めちゃおいしいと彼女は喜んだ。 

 空港へ送ったハナシをひと通り聞くと、蓮子さんはコロコロ笑った。

「若くていいわね、そんなこと思い悩むなんて」

「蓮子さんも思い悩んだりしました?」

「したした。光治くん、恋の結晶作用とか知らないでしょう」

「けっしょうさよう?」

「ザルツブルクあたりの、塩を掘り出すあなに枯れ枝を投げ入れる。すると、塩の結晶が付いてダイヤモンドで飾られたように見えるの。枯れ枝がダイヤの枝になっちゃう。それが結晶作用。思い込みがどんどん相手を美化して、実物以上に見えちゃうのよね。恋は盲目ってやつ」

「そうか。恋は、枯れ枝をダイヤの枝に見せるのか」

「今の子は読まないね、スタンダールなんか」

「名前も知らないや。じゃあ、スキンヘッドが結晶作用でロン毛に見えるワケ?」

 蓮子さんは手をたたいて笑う。「違うちがう。そのお二人さんは恋が成就してるから、結晶作用はたぶん終わってる。きっとお互いの人柄がとっても好きで、その人柄の宿る顔かたちも好きなんだろうね。好きになるコースが逆なの」

「あー、逆なのかあ。たいがい顔かたちから入るもんね」

「顔かたちコースはさあ、新婚旅行とかで実体に気づいたりすると、厚化粧の結晶が粉々に砕けちゃう。帰りの空港で即離婚なんてね」

「人の価値って何でしょう」

「難しいね。カタチも人格も能力も、何に惹かれるかは人によって違うし。まあ、美男美女さんたちは、例えて言うなら、なのよ」

「おカネもち、って?」

「ルックスというおカネを、他人ひとよりたくさん持ってる」

「ふうん」

「だから、そのおカネでたいていのモノは手に入る。ちょっと気に入らなければ、取っ替え引っ替えできる。恋なんて簡単だと思ってる」

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