第14回 空色杯(500文字未満の部)

mirailive05

アイビーの眼差し

 それは偶然見つけた。

 小学校からの帰り道、わたしがなんとなく遠回りしていつもと違う道を通ると、アイビーに覆われた洋館が建っていた。

 そこから除く窓から、同い年くらいの男の子がこちらを見ている。

 男の子が会釈をする。わたしも何となく返してアイビーの洋館を後にした。


 その後何回かそういうことがあり、その日は珍しく男の子のいる窓が少し開けられていた。

 会釈をされ、会釈を返す。

「学校は楽しいですか?」

 不意に声がかけられた。綺麗だけど儚げな声。

「まあ、普通」

 聞くと、病気で学校には通えないそうだ。

 何気ない学校での日常を、男の子は楽しそうに聞いていた。


 また数日後にアイビーの洋館の前を通った。

 でも閉められた窓に、男の子の姿はなかった。

 体調を崩してしまったのだろうか、私は深く考えずに後にした。


 梅雨が明けて小暑。

 夏休みに入っていろいろと用事があって足が遠退いていたけど、久しぶりにアイビーの洋館の前を通った。

 屋根のついた黒塗りの車が出て行くところだった。

 家の人に聞く。 

 わたしは男の子が亡くなったことを知った。


 あれから再び小暑が来た。

 少年のお墓にお花とお線香を供える。そしてアイビーの葉を一枚。

 来年、私は中学生になる。



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