・5-3 第55話 「データ:1」
多脚戦車の機能が停止したことで動力が失われ、アームのロックも外れたのだろう。
ガチャン、という音と共に、捕らわれの身となっていたコハクは解放され、彼女はすたっと上手に着地した。
「は~っ、びっくりした! 」
その口から
「おいおい、勘弁してくれよ。
どれだけ肝が冷えたと……」
あまりにも緊張感がない言葉に思わず全身から力が抜け、穣司はその場にへたり込んでしまう。
「おーい! 大丈夫かい!? 」
「コハク、無事っ!? 」
その時、後続のディルクとヒメが駆けつけてきた。
おそらく通風孔を抜けるのに手間取っていたのだろう。
「うん! 大丈夫だよ~。
ちょっと怖かったけど、ジョウジと、兄さんが助けてくれたから! 」
「ほっ。よかった~」
「元気そうで、なにより」
三人は抱き合って喜びあっている。
「それにしても、どうして……」
その様子を微笑ましく思いながら、穣司は頭上を見上げていた。
地下に、どうしてこんな場所があるのか。
かつて地球上に存在した、階層都市とそっくりの構造物が。
そして、そこでいったい、何があったというのか……。
騒動が起こる以前に抱いていた疑問が再燃し、困惑が広がって来る。
「いや~、驚いたなぁ。
一度、全部探索し終わったと思ってた
無事な妹の姿を見てほっと安心した様子のハスジローが多脚戦車から降りて来て、隣に腰かけながら言う。
彼も極度の緊張から解放されて、少し疲れが出てしまったらしい。
(そういえば、ハスジローさんは放浪のケモミミ。
あっちこっちで人間の痕跡を調べてるんだったな)
その経歴を思い出した穣司は、少し話を聞いてみることにした。
「なぁ、ハスジローさん」
「ん? なんだい? 」
「この惑星には、こんな場所が他にもたくさん、あるのかい? 」
「う~ん?
たくさん、っていうほどじゃないかな。
珍しいと思う。
だけど、いくつかあるのも間違いないし、みんな土の中に埋まっているから見つかってないだけで、こんな風な場所はいっぱいあると思うな」
「いっぱい、あるのか……」
それは、意外な事実だった。
ケモミミたちが暮らしている惑星には、筋の通らない、謎な部分が多い。
明らかに人類文明による影響があるのに、その痕跡がほとんど見つけられないことや、自然な生命のサイクルからは逸脱しているケモミミたちの生態。
衣服は奇妙なほど現代的なのに、火の使い方さえ知らず、まるで文明誕生以前のような暮らし方をしている。
ちぐはぐだ。
だが、これでひとつ、謎解きに近づいたかもしれない。
ほとんど見つからないと思っていた人類文明の痕跡。
もしかしたらそれは、実際にはありふれたものであるかもしれない、ということが分かったのだ。
ない、と思っていたのは、それらがすべて地下深くに埋もれてしまっていたから。
ただ目につきやすい場所にないから気づくことができなかったというだけで、本当は、まだ見つかっていない
(まるで、誰かが隠したみたいに……)
そんな言葉が頭をよぎる。
かつてこの惑星には、たくさんの人類の活動の痕跡があった。
階層都市があったということはそこに大勢が居住していたということであるし、その生活を支えるための様々な施設も存在したということになる。
おそらくは、宇宙船なども当たり前にあったのに違いない。
それらはいったい、どうして姿を消してしまったのか。
ここで暮らしていたはずの人々に何が起き、そして、彼らはどこに姿を消してしまったのか。
破壊の痕跡がまざまざと残されている
ここでは大勢の人々が亡くなったはずなのに、その遺体がどこにも残っていないのは明らかに異質だ。
まるで、惨劇の後、誰かが丁寧に遺体を集め、埋葬でもしたかのように。
(いったい誰が、そんなことを……)
生き残った人類たちがどこかに姿を消す前に、同胞たちの亡骸を弔って行ったのかもしれない。
そうだとしたら遺体が見つからないことには説明がつくが、しかし、彼らはなぜ、自分たちの文明の痕跡を地下深くに埋めて、隠してしまったのか。
「そうだ! 」
「おわっ!? 」
唐突に立ち上がった穣司に、ハスジローは驚いて引っくり返る。
「ど、どうしたのさ、ジョウジさん!? 」
起き上がりながら恨めしそうな視線を向けて来るが、かまっている余裕もない。
目的は、ハスジローに破壊してもらった、制御ユニットがある辺りだ。
コハクを救出するために止むを得ずぐちゃぐちゃに破壊されてしまった場所。
もう通電していないことを確認した穣司は、手持ちの工具などを利用しながら解体作業を進め、徐々に内部に近づいて行く。
「……あった! これだ! 」
やがて彼は、四角い箱状の回路を取り出していた。
多脚戦車の制御を行っていたコンピュータのメモリ。
一見すると滑らかな表面形状を持っている長方形の平たい四角柱だったが、内部には複雑な回路と半導体が組み合わされている。
なにより重要なのは、その中にはデータが入っている、ということだった。
ひとりでに起動した、ということは、この多脚戦車は最近まで電力が維持されていた、ということに違いない。
つまり、この回路はつい最近まで機能を維持しており、中身も無事な可能性が高い。
そこからデータを取り出すことができれば、いろいろなことが分かるはずだ。
ここでいったい、何が起こったのか。
誰が遺体を埋葬し、人類文明の痕跡を地下深くに埋めたのか。
もしかするとこれが、今回の探索で一番の収穫になるかもしれなかった。
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