第21話 悪魔
小さき命?もしかして俺のことか?
しかし、この声はどこから聞こえているんだ?
こんな地の底にいるのは俺と火龍こいつくらいなもん……。
もしかして、
『さっきの声は、ひょっとして火龍お前か?』
「はい。人間よ。あなたのおかげでこの忌々しいものから逃れることができました。ありがとうございます。」
『元気になったみたいで何よりだ。』
しかし、随分と礼儀正しい龍だな。
龍は生物としての格が高いことからてっきり他の生物を見下して威張り散らしていると思っていたが意外だ。
「確かに同族には小さな命達を侮る者もいますが私と彼らは対等です。確かに私たちは他の生物よりも優れているのは間違いありません。ですが私たちは何かを破壊することは得意ですが小さき命たちのように何かを生み出すことはできません。数多の生き物たちが破壊と創生を繰り返しながら互いに共存することで世界は成り立っています。彼らにもそれをわかってほしいのですが……。」
龍がこんな考え方をするなんてな。まるで人間みたいだな。
「それに私、物語に目がないのです。最近は特に演劇にはまっていまして、特に戦争している敵国の王子と姫の恋物語がお気に入りで愛し合う二人を戦争が引き離すところなんかは切なくてもう涙で前が見えなくなったりして。だからこんなにも素晴らしい演劇を生み出す人間たちは特に尊敬しているのです。」
好きなものを早口で語るこの感じ覚えがある。前世でアニメ好きの友達が好きな作品について語っている時にそっくりだ。間違いない。この火龍かなりのオタクだ!!
通りでやけに人間味のある龍だと思った。
ん?っていうか今俺喋ってなかったよな……。火龍こいつもしかして俺の考えが読めるのか?
「当然です。神に最も近い龍私にはあなたの考えを読むなんて造作もないことです。そんなことより、オタク?とは一体なんですか?それに、魂は人間とよく似ていますが身体は随分珍妙な姿をしていますし……。あなたは一体何者ですか?」
めっちゃ怪しまれている。
どうやら、この火龍は魂の形で種族を見抜けるみたいだし、適当に誤魔化すなんてことも出来そうにない。
とはいえ俺は前世は他の世界で生まれた人間で死後、この世界に転生したって言っても信じてもらえないだろうし。
どうしたものか…‥。
「まあ!あなた。転生者だったのですか。しかも異世界出身の。」
『あ……。聞こえた?』
「はい。」
『あんたが心の中が読めることすっかり忘れてたわ。ていうか、転生者って聞いたら、普通怪しんだり疑ったりするもんだろ!!』
「私も何百年も生きていますし転生者はそれなりに見てきました。異世界出身者も何人か会った事ありますし特段驚きませんよ。まあ、そのような珍妙な姿の方に会うのは初めてですけど……。」
『そうか……。それで、その異世界転生者は今も生きているのか?』
俺と同じ世界から来たとは、限らないが生きているならぜひ一度会ってみたい。もしかしたら、同じ時代から来た日本人かもしれないし。
「最後に会ったのは200年前だけど、あの人はエルフだったから多分今も生きているんじゃないかしら。」
『俺以外にも別種族に転生した異世界人がいたのか!』
「ええ。人間以外にもエルフやドワーフ、獣人、魔物に転生した者もいましたよ。」
それじゃあ、ひょっとしたらエルフの転生者以外にも生きている転生者がいるかもしれないな。一度異世界人を探す旅をしてみてもいいかもしれないな。
「そんなことより、私、異世界の物語に大変興味があるんです。もし良かったら、あなたの記憶をちょっとだけ覗かしてくださいませんか?」
『別にいいけど。』
火龍の圧でついついOKしてしまった。
すると、何かが精神の中に入ってくる感覚がした。おそらく火龍が俺の記憶を読んでいるのだろう。
なんだかこちょこちょされた時みたいに全身がムズムズしてくすぐったい。あまり長くは持ちそうにない。
おれはなんとか笑いを堪えながらムズムズ地獄を耐え、龍が精神から出ていくのを待った。
『はぁ…もういいか?』
「えぇ。大変素晴らしい体験でした!あなたのいた世界では、こんなにも色々な媒体で様々な物語が紡がれていたのですね。アニメや漫画も大変良かったですが私はその中でも特にドラマが気に入りました。中でもキムタクの演技は素晴らしいですね。そして何より彼はかっこいい!!」
火龍は、蕩けた顔で俺にキムタクがいかに素晴らしいかというのをマシンガントークで力説してくる。
どうやら、すっかりはまったみたいだな。
種族も世界も関係なく虜にするとは。さすがはキムタクだ。
「こいつはどうなってやがる!」
空から声が聞こえたので上を見ると頭に立派な二つの角を備えた男が黒翼を羽ばたかせていた。
『誰だ?あいつは?』
「私を拘束した忌々しい相手です。」
話に夢中になっていて、火龍を拘束したやつがいたのをすっかり忘れていた……。
そうか、こいつが‥…。
黒い翼に二本の角、大きな尻尾を備えた見た目。絵画に描かれている悪魔の姿そのままじゃないか。
悪魔 ランク未測定 邪神によって生み出された邪神の眷属であり、魔力を扱うのに非常に長けた種族。
未測定なんて初めてみたぞ。火龍でもランクの測定ができていた。
世界図書館で測定できないやつなんて初めてみたぞ。
それに邪神の眷属だと嫌な予感がプンプンする。
「警報アラートが鳴り止まないから何事かと思って様子を見に来たが……なぜ貴様の拘束が解けているんだぁ!クソトカゲ!」
「バカですねえ。私があんなものにいつまでも捕まっている訳がないでしょう!」
「いや、それはあり得ない。邪神様の魔力だ。いくら貴様でも、自力で逃れられるわけがない。おそらく手助けした奴がいる。」
悪魔と視線がぶつかる。俺は咄嗟に火龍の背に隠れる。
「おいそこのおかしな姿の。邪神様の魔力の拘束を解いたのは貴様か?」
ばれていたか。しかもめちゃめちゃキレてるし。
悪魔は、眉間に皺を寄せ鋭い目つきで俺を睨んでいる。その目は明らかに怒りで満ちていた。
『ああ。火龍が暴れて噴火やら地震やら大変だったからな。あの黒いモヤは解除させてもらった。』
「全く余計なことを。貴様といい兎人供といい我々の邪魔ばかりしおって。おかげで計画はめちゃくちゃだ!もう許さん!!許さんぞーー!!!!」
悪魔は、おどろおどろしい魔力を撒き散らし、発狂している。体も二回りくらい大きくなってより邪悪な見た目になった。
計画を邪魔されて随分とご立腹の様子だ。
しかし、兎人だと……。なぜその名前がこいつから出てくるんだ?
まさか!村が襲われたのは偶然ではなくこいつらによって意図的に引き起こされたものだったのか!
正直、邪神の関係者に遭遇したら、めんどくさそうなことに巻き込まれそうだし、最悪逃げようと思ったが兎人族の村を黒熊が襲ったのが単なる偶然ではなく悪魔が人為的に起こしたと聞いたからには逃すわけにはいかなくなった。
こいつをとっ捕まえて計画とやらを吐かせないと。もしかしたらまた村を襲うかもしれないし。
とはいえ俺はマグマの近くじゃあ自由に動けない。
マグマから離れて戦おうにも崖を登らなければならない。
しかし一瞬でも悪魔こいつに背を向ければその瞬間に攻撃され、マグマに真っ逆さまだ。
悪魔を捕まえるには火龍に飛んでもらうしかない。
『火龍。こいつを捕まえたい。手をかしてくれないか!』
「あなたの考えは分かっています。ですがすみません。私は協力できそうにありません。」
『!』
「手を貸したいのは山々なんですが、陣痛の痛みで動けそうにないんです。……もうすぐ生まれそう!」
『マジで⁉︎』
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