第20話 火龍
俺は暗い中でも迷うことなく階段に向かって歩みを進めた。
俺は、魔力感知を使っているため暗闇の中でも迷うことがない。
そうこうしているうちにあっという間に階段の前についた。
階段は壁に沿って上に伸びている。
見上げると青空が見える。この階段を登れば外に出られそうだ。
だが下を見ると一切の光も無い暗闇が広がっている。
もし階段から足を踏み外して暗闇に落ちてしまったら命はないだろう。
緊張感が湧いた俺は、さっきよりもより慎重に歩みを進めた。
すると、再び地面が大きく揺れた。
バキッ!!!
『うおっ!!』
揺れで体勢を崩した俺は足を踏み外し、暗闇の中に放り出された。
まずい。死ぬ。
慌てた俺は、咄嗟に腕を伸ばしなんとか階段にしがみついた。
そして腕の力で体を引っ張り上げなんとか崖を上り切った。
『ふぅ〜。なんとか助かった。』
しかし、変化が解けてしまい枝の姿に戻ってしまった。どうやら、姿が極端に変わってしまうと変化が解けてしまうらしいな。
なんて思っていると、
ギャァァァアアア!
という叫声で俺は、身動き一つ取れなくなった。
『なんだこの尋常じゃないプレッシャーは……。』
暗い空洞がみるみる明るくなり、赤い光が徐々に近づいてくる。
赤い光が俺の眼の前を通過した。
赤い光の正体は地中から吹き出したマグマだった。
『痛っ!』
突然痛みが走った。
痛みのする部分に目を向けると、足先が抉れて欠けている。
どうやら、マグマに僅かに触れて足先の樹皮が焼き切れてしまったみたいだ。
『危っぶねーー!!もう少し登るのが遅かったらマグマに焼かれてお陀仏になるところだった!!! 』
おそらく、熱操作でマグマの温度が下がる前にマグマに触れたため体が燃えてしまったのだろう。
今のレベルじゃ空気中の温度は自由自在だが火やマグマなどが体に触れる前に温度を下げることは不可能みたいだ。
そんなことより地震とか噴火とかさっきから一体何が起きているんだ?
それに黒熊の叫声とは比べものにならないあの叫声はなんだ?
気になり叫声の聞こえてきた暗闇の方に最大限、魔力感知を広げる。すると地底で巨大な魔物が暴れているのが見える。
どうやら、あの魔物が地震や噴火の原因みたいだ。見たことのない魔物だな。
調べてみるか。
すると、驚くべき正体がわかった。
『……あれが火龍か!!』
火龍。
黒熊の10倍ほどの大きさで2本の大きな角から出ている炎を全身に纏っていて、体の中には凄まじい密度の魔素を保有している。
……あの時くらった黒熊の殺意も息が詰まるほどのプレッシャーだったがこいつは別格だ。あの時よりかなり成長したと思うが敵意のないただの大声だけでその場から一歩も動けなかった。おそらく敵意を向けられた途端に死ぬだろう。それくらい生物としての格が違う。確かにラパンたちが狼狽えていたのも頷ける。あれをみて、一体誰があれと戦おうなどという気になるのだろうか。
だが、少し変だ。
プレッシャーがどんどん弱くなっている。体内の魔素も急速に減っているみたいだ。
それにさっきは、身じろぎ一つできなかったのに今は動けるようになっている。
さらに火龍はぐったりと寝転んでしまった。もしかして弱っているのか?
ん?
火龍に何かモヤみたいなのが巻きついているようにいるように見える。
もしかしてあれが原因か?
邪神の魔手 呪いの一種。邪神の魔力で対象を拘束する。対象の体を蝕みやがて死に至らしめる。
邪神だと! まさかこんなところでまたあいつの名前を聞くとは……。こっちはあいつのおかげで存在ごと消されるところだったから正直関わりたくはないが。
火龍が暴れたらまた噴火や地震が起きて大変だ。麓の街にもたくさんの被害が出るかもしれない。
それに邪神の呪いなら呪いを無効化する俺の兎神の加護でなんとかなるはずだ。
火龍が再び暴れる前にさっさと呪いを解除しよう。
掴める崖の出っ張りを探しながら暗闇を慎重に降っていく。
そうして、魔眼で火龍が見えるところまで降りてきたが、
『ここまでだな。』
地獄のような熱気は熱操作でなんとかなるが、流石にマグマには触れられない。触れた瞬間体が消滅し火龍の体に着地しようかとも思ったがそれにはあの体に纏っている炎をなんとかしないと。
そうだ。
体の周りに水を纏って蒸発したところから熱操作で調節すれば、なんとかなるかもしれない。
他に策もないし、俺はすぐに行動に移した。
『……なんとか無事に火龍の背中にたどり着いたな。』
上手くいって良かった。
もし失敗したら、体が燃えて消えていたところだったからな。
あとはこの黒いモヤを火龍から剥がせば、邪神の呪いを解除できるはずだが……。
どうやって解除すればいいんだ? このモヤを引っ張ればいいのだろうか?
まあ、呪いの解除の仕方なんてわからないし、とりあえずやってみよう。
『せーの。』
黒いモヤを力いっぱい引っ張った。
すると、火龍の体から徐々に黒いモヤがちぎれていく。
よし、これなら。
そう思い、引っ張り続けているとモヤは火龍の体から離れ俺に触手のように巻きついた。
火龍が無理と見るや今度は、俺を呪い殺すつもりか。
だが、しかし俺には呪いは効かない。
そうして俺の体に巻きついた黒いモヤは、体を蝕むことはなく細々にちぎれてやがて霧散した。
これで、もう火龍が暴れることは無いだろう。いや〜良かった。良かった。これでみんなや街に被害が及ぶことはない。
一件落着だな。
しかし、あんなに凄まじいプレッシャーを放っていた火龍を殺そうとした奴がいるのか。しかもそいつは邪神の魔力を扱っている。ということは間違いなく邪神の関係者だろう。面倒なことにならないといいが……。
俺が先が思いやられて憂鬱な気分になっていると、
「助かりました。小さき命よ。」
なんか声が聞こえた。
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