第15話 鍋で団欒

 ラキこの娘を一緒に連れて行くのを俺一人で勝手に決めてしまったが大丈夫だろうか?

 ラパンに一応報告しておこう。


『この娘も一緒に連れて行きたいんだけどいいかな?』

「はい。大丈夫ですよ。彼女一人増えたところで大して移動に支障はありませんし……。それに幼子一人でこんな危ないところに置いていけませんからね。」

『よかった!………ところでさっきから気になっていたんだが、お前ら全員雨も降ってないのになんでフードかぶっているんだ?それになんだその姿は………人間じゃないか!』

「後で、説明しますので私たちのことは、ひとまず人間として扱って下さい。」

『……わかった。』

「では、他の者たちには私から伝えておきますね。」


 疑問は残るが、とりあえずはラパンの言う通りにしておこう。

 そして、ラパンが他の面々に話を通しに行っている間、俺は、壊れた馬車を馬ごと吸収した。

 どうやら、知能のある生き物でも吸収は使えるみたいだ。


『これで、いつでも出発できるな。』


 準備を終え顔を上げると、ラキが準備を終え顔を上げると、ラキが目をキョロキョロとさせながら右往左往していた。 

 その姿はまるで親戚の集まりで初めて会う周りの大人達に緊張している小学生を彷彿とさせる。

 身長を見るに10歳前後であろう少女がいきなり知らない大人に囲まれているんだ。緊張するのも無理はない。

 ラパン達も、おどおどしているラキに気を遣っているのか、誰も話しかけにいかない。

 楽しく旅をするためにみんなには是非とも友好を深めて欲しいところだが……。

 よし!ここは、俺が一肌脱ぐか。


『おい、みんな!ちょうど昼だし、ここで昼飯にしないか?』

「いいですね。」

「そうしましょう。」


 やっぱり仲良くなるには一緒に飯を食うのが一番だ。

 そして、そんな時に食べるものといえばやっぱ鍋だろう。

 鍋を囲めば、距離が近くなり自然と話が弾むってもんだ。

 そういえば、兎人族は人参しか食べる必要がないって村長が言ってたけど、他の食べ物は大丈夫なのだろうか。



『ラパン、兎人族って人参以外のものも食べられるか?」

「はい、人参以外特に食べる必要ありませんが、嗜好品として他の食べ物を食べたりすることもありますよ。」



 よかった。食べられない物はないみたいだし早速調理を開始しよう。

 今回は、さっき倒したハウンドドックの肉を使った鍋にしようと思う。

 まずはじめに、ハウンドドックを解体する。

 世界図書館で解体方法を調べながらラキの馬車に入っていたナイフを使い手早く解体する。

 そして、解体した肉を臭みとりをするために数種類の植物と一緒に、フライパンで炒める。

 炒めたら、炒めた肉と兎人族の持ってきた人参、ラキの馬車にあった野菜を一緒に鍋に入れて煮込む。

 そしたら完成だ。

 調味料がなかったため、味に不安があるが大丈夫だろうか?

 味見をしたいところだが、味覚も嗅覚もない俺が食べても意味がない。

 さてどうしたものか?

 ………結論から言おう。非常に美味であった。

 ハウンドドックの肉の味が濃く、味付けをする必要はなかった。

 それに兎人族の人参から非常に強い甘味も出ていて、前世でも食べたことがないくらい美味しかった。

 他の野菜の旨味も感じ、鍋の味が非常にまとまっていてとても美味しかった。

 ところで、なぜ味覚のない俺が食レポをできるのかというと魔力感知の応用で味覚を手に入れたからだ。

 視覚も聴覚も魔力感知の応用であったし、もしかしたら他の感覚も魔力感知で応用できるかもと試していたらできてしまったのだ。

 他には嗅覚も手に入れることができた。

 鍋からは非常にいい香りが漂ってきた。


「ん! 美味しい!」

「本当に美味しい。それにこんな美味しい人参食べたことないです!」

『それは、よかった。』


みんな笑顔で喜んで食べている。

ラキも緊張がほぐれてきたみたいだな。ラキに気を遣っていたみんなも遠慮がなくなり会話が弾んでいる。これなら仲良くなれそうだ。


「そういえば、なあ……ラキ。君、魔道具師って言ってたけど、やっぱり見本市に出るためにアウラに行くのか?」

「ん。そうだよ。今はまだ魔道具師見習いだけど、見本市で私に出資してくれるスポンサーが見つかれば、晴れて私も独り立ち。自分の工房を持てるからね。」

「どんな物、作ったんだ? よかったら見せてくれないか?」

「いいよ、見せてあげる。」



 魔道具を見るために馬車を貯蔵庫から取り出した。

 馬車の中に入ったラキは掌くらいの五角形の板を取り出して俺たちに見せた。


『それは?』

「これは、簡易休憩所だよ。」

『簡易休憩所?』

「ここのボタンを押すと、板が展開されて、天幕になる。さらに周囲には直径5mの結界を張る。そして結界が攻撃された際には警報が鳴り襲撃を知らせてくれる。結界はドラゴンの一撃でも壊れないほど丈夫でこれさえあれば夜番の必要がなくなる。冒険で役に立つ便利な代物なんだ。」

『なるほど。これは便利だ。それに板一枚でコンパクトだから持っていける量の限られる冒険でも扱いやすい。今回のような旅にもぴったりだ。俺も一つ欲しいくらいだ。』



 しかし、こっちの世界に来てから色々な魔道具を見てきたがこんなに色々な技術の詰まった魔道具は見たことがない。

 これを見ればわかる。ラキはかなりの腕を持つ魔道具師だ。


「アスト様。この少女なら……。」

『ああ。俺もそのことについて考えていた。』


 ラキならきっと俺たちの持つ壊れた魔道具を治せるはずだ。

 貯蔵庫に収納している大量の魔道具を出して見せた。


『ラキ、この魔道具って直せるか?』

「……そうだね。魔道具の核となる魔道回路が壊れていないものは材料さえあれば半分くらいは、修理できると思う。魔道回路は非常に繊細で千差万別なんだ。この部分が壊れると設計図が無いと直しようがないんだよ……。あなた達には魔物から助けてもらったし、ラウラについたらただで直してあげるよ。」

『本当に! そりゃあ、助かるよ。』


 こうして、みんなで鍋をつつきながら会話を楽しんだ。

 鍋を食べ終わると、急いで片付けを済ませて、出発した。

 ラキは、案内役のシノビの後ろに乗っている。

 ジャイアントラビットの移動スピードに驚いているみたいだ。

 あの様子じゃこいつらが兎人族ってバレてはいなさそうだしひとまずは安心だ。

 さてと、


『ラパン。』

「アスト様、どうかなさいましたか?」

『さっきも気になって聞いたがお前らなんで自分達の正体を隠しているんだ?』

「私たち兎人族はあの村の村人だけしかいません。人間の街では絶滅したと言われているくらい今じゃ珍しいのです。それによって色々と目立ってしまうため姿を変えているのです。」

『……そうだったのか。よし、わかった!街にいる間、俺もボロを出さないように気をつけるよ。……ところでお前らが人間にしか見えないがこれは一体どうなっている?』

「フードに隠蔽の魔法が施されているんですよ。これで周りからは、人間にしか見えないようになるんです。」

『それも一種の魔道具ってやつか。』


こうして疑問が晴れてスッキリとした俺は、ラパンと案内役のシノビとこれからの旅の予定を話し合った。

そしてこれからの予定を詰め終えると、皆に伝えた。


 そして。

 兎人族の村を出発してから五日。

 ついに森を抜けた。

 まもなく、旅の目的地だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る