第16話 鉱山都市ラウラ
兎人族の村もある大森林。
アジャラの森を抜けて、草原を走ること1時間。
丘の上から町が見える。
眼前にそびえ立つ巨大なカラエツ鉱山。
鉱山の麓に広がる白い岩で造られた美しい都。
魔道国家ロザリオ。首都に次ぐ大きさを持つ第二の都市。
鉱山都市ラウラについに着いたのだ。
ジャイアントラビットに乗ったまま街に入ろうとすると目立った挙句、警備隊に捕まり詰所で尋問されるのは間違いない。
なのでここからは、ラキの馬車に乗って移動することにした。
街を取り囲む壁の正面。大門の前には街の入場審査を受けるために、たくさんの人が並んでいる。俺たちも列の最後尾に並んで自分達の順番を待った。
30分後、前には誰もいなくなり、やっと俺たちの番である。
門番が一人近づいてきて、「中を見せてくれ」と言われたので馬車の中を見せた。
馬車を確認するとその後は簡単な身体チェックといくつかの質問を受けた。
流石は、大都市。厳重な警備体制である。
チェックを終え、全員分の入場料を払うと門番から入場カードを受け取った。
「鉱山都市ラウラにようこそ。」
俺たちは無事に町の中に入ることができた。
大きな街ということもあり、たくさんの人が行き交っている。
若き魔道具師達の祭典。魔道具見本市開催。
と記載された見本市を盛り上げるための宣伝用チラシが街のあちこちに貼ってある。
そのチラシによると見本市は明日から2日間行われるみたいだ。
間に合ってよかった。
しかし、この世界に来てからこんなにたくさんの人を見たのは初めてだが最初の街で見たようなエルフやドワーフといった人間以外の異種族が見当たらない。
確かにラパン達の言う通り、異種族がいないこの街でただでさえ珍しい兎人族が何人もいたら目立ってしまう。
そうすると、なにやら良からぬことを考えるやつがいるかもしれない。
姿を隠したラパン達の対応は正解だな。
門を抜けた馬車は最初の交差点を右折してすぐの所に出来ている列に再び並んだ。
『おい。見本市のある中央広場に行くには、あっちの道を真っ直ぐ進んでいくはずだろ。列に並んで一体何をしているんだ?』
「ここから広場に行くには馬車でも十分くらいかかります。なので転移陣で向かいます。」
転移陣。確か転移魔法を組み込んだ魔道具。
建物が白く大きい街で人が多い以外には他の町と大した違いはないと思っていたが転移魔法なんていかにも凄そうな魔法を簡単に使うとは流石は魔道国家といったところか。
「どこに行かれますか。」
「中央広場までお願いします。」
俺たちを乗せた馬車が魔法陣の上に乗り、わずか5秒一瞬で景色が変わった。
真ん中に大きな噴水があり、その周りには屋台が並んでいる。
間違いなくここは見本市の会場だ。
しかし、少し様子がおかしい。こういう大きなイベントの前は普通、出店者達が最終準備のため忙しなく動いているはずだ。
だが、そんな様子は微塵もない。
それどころか広場には誰一人としていない。
何かあったのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、
「もしかして!君たち、見本市の参加者かい?」
おそらく見本市の運営であろう、ローブを着たいかにもな魔法士の男が近づいてきた。
「見本市は延期することになったんだ。……いや、ひょっとしたら中止になるかも。」
「どうしてですか!」
「おい、やめろ。」
ラキは運営の男に食ってかかった。
俺は、ラキを捕まえ急いで運営の男から引き剥がした。
凄い形相だ。
見習い魔道具師のラキにとって見本市は一人前の魔道具師になる大きなチャンス。
それが中止になるかもしれないとなれば、こうなるのも理解できるが……。
「どうして延期することになったんですか?」
「本当は、言っちゃ駄目なことなんだが……実は昨日の夜、ここから見えるあのカラエツ鉱山に炎龍が住み着いてしまったんだ。」
「龍ですか⁉︎」
龍と聞いた途端俺以外の皆、戦々恐々とし顔が青ざめていった。
世界図書館で兎人族を調べた時、兎人族の蹴りはドラゴンを倒すほどの力を持っているって書いてあったのに……。
どうしてあんなにビビっているんだろうか?
『ラパン。何をそんなにびびっているんだ。ドラゴンなんてお前の蹴りで一発だろ?』
「確かに、ドラゴンなら私にも倒せますが、龍は話が別です、格が違いすぎます。龍に比べたらドラゴンなんて飛べるだけのトカゲですよ。」
俺には違いなんてわからないが、どうやら龍とドラゴンは完全に別の生き物みたいだ。それにラパンの反応から察するに龍は、ドラゴンよりも数段強いみたいだ。
確かにもしそんなやつが暴れたりしたら、大変だ。
見本市の延期も仕方ない。
というか、街の人たちは普通に生活しているが逃げなくて大丈夫なのか。
「幸い、龍は高い知性を持っているため領主様が対談で暴れないとの契約を交わすことができた。だがそれでも何が起こるかわからない。警備を山中に多数配備しなければいけなくなり見本市の警備に人数が裂けなくなりました。そのため安全上の理由から今回は見本市は、延期することに……。」
龍も迷惑をかけたいわけではなさそうだ。
この世界では約束をする際、契約魔法を使うと村長に聞いた。破れば相応の罰もあるらしい。
龍がそれを知らないはずがない。
それを了承したと言うことは、やむを得ない事情があるのだろう。
なるほど。
契約魔法で龍が暴れる心配がないから住人たちは普段通り生活しているのか。
いや、龍が近くに住みついたとなれば住人たちがパニックを起こす危険がある。
それにそんな情報を聞かされたらパニックは起こさなくても不安な気持ちが顔に出るはずだ。
しかし住人の顔を見たがその兆候は見られない。
………住人達には情報を伏せていると言うわけか。
『龍が鉱山に住み着いた目的は?』
「すまないが部外者には説明できない。」
「それじゃあ、見本市はいつ開催できるの?」
「残念だが、今の所見通しは立っていない。だが来年には間違いなく開催できる!君たちにはすまないが、また来年参加してくれ。」
こうして話を終えると、ローブの男は去っていった。
延期だと言っていたがあの言いぶりだと中止になると見て間違いなさそうだな。
仕方ない。展示される様々な魔道具を見れるのは興味があったが、当初の予定通り若くて優秀な魔道具師との繋がりは作れたし、壊れた魔道具も修理してくれるみたいだから良しとしよう。
俺がそう考えている時、
「そんな……。」
ラキは、落胆したのか膝から崩れ落ちその場に座り込んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます