第14話 魔道具師ラキ

 俺は、準備ができるまでの間、村人たちと一緒に人参の収穫を何度か行った。


『よし!これだけあれば、半年は持つだろう。』


 収穫を終えて暇だった俺は、新スキルを含めた全てのスキルの向上を目指し、修行していた。

 修行がひと段落終えた頃、ラパンが俺を呼びに来た。

 ようやく、準備ができたみたいだ。

 門の前に行くと村人たちが集まっていた。

 鉱山都市ラウラに行くメンバーの選抜も終わっているようだ。

 行くのは俺の他にラパンと自警団の精鋭が五人。あとは案内役が一人。全員装備を身につけていていかのも冒険者っていう出で立ちだ。

 案内役の名前は、シノビ。

 今回の鉱山都市行きを提案してくれた兎人族だ。

 そして今回は長距離の移動になるため移動手段としてジャイアントラビットが各自に付く。

 ところで驚いたことがひとつある。

 なんと、街を守る自警団の団長がラパンだったのだ。

 村が襲撃され被害を受けたことに大変ご立腹であり、今もこうして不甲斐ない団員たちに発破をかけている。

 団員たちは冷や汗ををかいて、ラパンが話すたびにビクビクして戦々恐々である。あの様子から察するに中々の鬼教官ぶりみたいだ。



 荷物を受け取った俺は、吸収して体内の貯蔵袋に取り込んだ。

 本当は、皆の分の荷物も一緒に吸収して、俺が持っていても良かったけど、遠征では、不足の事態ではぐれて何日も遭難することがあるから、物資は各自で持っておいた方がいいらしい。

 海外でも、飛行機で1日寝てれば安全に到着する現代人の自分にはない考えだった。

 貯蔵庫について修行中、新たにわかったことがある。貯蔵庫の中に入ったものは、時間が経過するが、吸収されたものどうしが接触することはないみたいだ。

 実際に中にある薬草を取り出してみた。貯蔵庫には大量の水があったにも関わらず、薬草には、水滴一つついていなかった。

 むしろ、貯蔵庫の中で1日経過したことで、葉の表面が乾燥していた。

 おそらく、貯蔵庫に入ったものは、吸収されたものごとで、別空間に収納されているのだろう。

 貯蔵庫は便利だが他の吸収されたものが水で濡れる心配があったため、無闇に、使えなかった。

 しかし、これで不安は無くなった。これからは貯蔵庫を使えば荷物を持つことなく身一つで移動出来るようになった。

 これは、地味に嬉しい。

 荷物の中身は、食糧と水とお金、それと壊れた魔道具だ。

食糧と水は一週間ぶん。

 俺は、食べる必要がないから水だけだ。

 お金は金貨10枚、銀貨15枚に銅貨30枚が入っていた。

 煉瓦と洋服だけなら十分な金額だが、村人全員の魔道具を買うには全然足りない。焼け石に水だ。

 なんとか掘り出し物を見つけ無いとな。

 そして、いい職人がいたら、壊れた魔道具を直してもらおう。

 まあ、後は、現地についてから考えよう。

 俺はジャイアントラビットの鞍についた鐙に足をかけ、勢いよく背に飛び乗った。

 それじゃあ、そろそろ出発だ!


 先頭を走っている案内役のシノビによると、鉱山都市ラウラは兎人族の足で村から徒歩1ヶ月ほどかかるそうだ。

 目の前を流れるナイラン大河。

 この大河沿いをまっすぐ北上すると、目的地の鉱山都市ラウラに着く。

 見本市まで時間がないらしいので、今回は、殆ど休憩を取らずにノンストップで目的地まで向かう。

 それにしても、ジャイアントラビット……速いな。

 ジェットコースター並みの速度だ。

 前にラパンに乗った時も凄かったが、ジャイアントラビットはそれ以上だ。

 しかも、上り坂でもスピードが落ちることなく一切変わらない。

 それなのに、風圧や振動を一切感じない。

 でこぼこ道も何度もあったが振動が響くことはなく、ついついうたた寝してしまうくらい快適な乗り心地である。

 この様子だと1週間も経たずに着きそうだ。


 出発してから2時間あまり、移動中は何もすることがないためはっきり言って暇だ。

 そうだ。

 薬草などの植物は、何かと使うことも多いし、今のうちに取っておこう。

 移動中、世界図書館を使って調べながら周辺に生えている植物たちを片っ端から採集して、種生成をするのをひたすら繰り返した。

 移動中黙々と作業していると、展開していた魔力感知になにかが引っ掛かった。

 俺は、手を止め魔力感知が反応した方向を視る。

 すると、


「この!あっちに行け!」

「グルル」

「ウゥゥ」


 一台の馬車が魔物の群れに囲まれていた。

 馬車に乗っているのは年端も行かない少女一人だけみたいだ。

 魔物は全部で8体、狼のような魔物である。


ハウンドウルフ ランクCの魔物。森林地帯に生息している。非常に俊敏で集団戦を得意とし、相手を囲んで追い込む様から森の狩人と恐れられている。群れでの戦いはランクAの魔物に匹敵する。


 厄介な魔物だ。

 だが、このまま少女を見捨てて逃げるほど、落ちぶれちゃいない。

 それに、兎人族こいつらとだったら、ハウンドウルフも余裕で倒せるだろう。


『前方にハウンドウルフに襲われている馬車を発見した。俺はこれから助けに入る。手伝ってくれるか?』

「もちろんです。」

「行きましょう」


 ハウンドウルフは連携するとAランクの魔物に匹敵するくらい厄介だ。まずは、バラバラにしないと。

 ジャイアントラビットから飛び降り、その勢いのまま硬化した拳を地面に叩きつけた。

 地面が抉れ、土石が飛散した。

 ハウンドウルフは、土石をかわすため、散り散りに後退する。

 どうやら、土埃で周りが見えていないみたいだな。

 今なら、気づかれずに攻撃できる。

 俺は、近くにいた個体に思いっきり蹴りを入れた。


『ふっ!』


 俺の蹴りは、どてっぱらに命中し、ハウンドドックの身体をぶっ飛ばした。


 ドォン!

 

 蹴り飛ばされたハウンドドックは、後ろにあった木にめり込むように激突。

 ぶつかった衝撃で割れた木の破片で胸を貫かれ、一瞬で息絶えた。

 一体一体は、黒熊より大したことなさそうだ。

 他のハウンドドックも、まだ周りが見えていないみたいだし追撃しよう。

 俺が続けて、別のハウンドドックに、攻撃を仕掛けようとしたその時。

 その個体の背後からラパンが蹴りを入れた。その蹴りの威力は、凄まじく首と胴がキレイに別れていた。

 まるで刃物で斬られたように断面は横一文字になっている。

 怖えー!蹴りの風圧で、身体が後退したぞ。この世界に来てからの戦いで体術には、少しだけ自信あったのに一瞬で自信なくしたよ。

 他の自警団の人たちも、次々にハウンドドックを仕留めていく。

 仲間が次々と倒れて勝てないと思ったのか。残ったハウンドウルフは森の中に逃げようとするが、すかさずトドメを刺された。

ここまでわずか20秒。一瞬の出来事である。

 やっぱりこの中じゃ、俺の戦闘力は、まだまだだ。

 できれば戦いたくないから、このままでも別にいいちゃいいけど、こいつらの主として守られてばかりというのはダメだろう。

 後でこっそり特訓しておこう。

 


『大丈夫か?』


 ハウンドドックに怯えている少女に声をかける。


 枝の時は、気にする必要がなかったが口が開いてないのに言葉が聞こえるのは、不自然だからな。

 この姿の時は口パクでもしておこう。


「う……うん。」  


 目の前で起きたことに呆気に取られたのか、少女は目をパチクリさせてこちらを見ている。

だが、時間が立ち状況を把握したのか。少女は立ち上がり、こちらに近づいてきた。

 


「あんた達強いね。ありがとう。助かったよ。」

『無事で何よりだ。』


 少女は、近くにあった馬車に近づき、慌てて中を確認し始めた。


「…よかった。中の物は、壊れてないみたい。ただ、車軸が完全にいかれちゃってる。この馬車は、もう使えないな。見本市まで時間ないのにどうしようか……。」

『……もし、よかったら俺たちと一緒に来るか? 鉱山都市ラウラの見本市に行くんだろう?ちょうど俺たちもその見本市に行くところなんだ。』

「本当! 行く。乗せて行ってくれ!」

『俺は、アストだ。短い旅だがよろしく頼む。』

「私は、ラキ。しがない魔道具師見習いだ。」



鉱山都市ラウラに向かう途中、同乗者が一人増えた。

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