第11話 変化

《スキル変化へんげを獲得しました。〉



 変化? 

 これを使えば本当に人間に戻れるのか?

 なんて思っていると、


「可能じゃぞ」


とまたもや俺の心を読んだ兎神が変化このスキルについて説明してくれた。


「変化は、自分の想像したものに変身できるスキルじゃ。だが扱いがちいっとばかり難しい。いいか!……成功させるために大切なのはイメージじゃ。自分のなりたいものの姿を頭の中に強く思い描いて発動するのじゃ。正確にイメージできないとヘンテコな物になってしまうからのう。」


 兎神の説明を聞いた後、はやる気持ちを抑えきれなかった俺は、すぐに行動にうつした。

 ええと、大切なのはイメージだったな。やっぱり想像しやすいのは、前世の俺だよな。よし前世の自分の姿を正確に想像してと。行くぞ。

 変化スキルを発動した。


 実際は転生してからたったの数時間だが、もう何十日もこの体で過ごしていたように感じる。だが、ついに!この不便な体ともおさらばだ。

 ………

 んのおお! 視線が高くなった。しかも、手足もちゃんと生えているぞ。色も茶色から肌色に変化している。

 髪の毛も、うん。この肌触りだ。

 少しごわついていて手くしがとおりにくい。まさしく前世の俺そのものだ。だが、なにか違和感がある。なんとなく、心の奧がこうもやもやする感じだ。

 ん?ちょっとまてよ。そういえば昔の俺ってこんなにちびだったか?

 それに、よく見たら手も足も小さくて細い。熊のような剛毛も一切生えておらず、ツルスべだ。

 絶対におかしい。

 周りもなんだかニヤニヤと笑っているし、嫌な予感がする。


「ぶふっ!ははは!もうダメじゃ!我慢できん。ほれ、水鏡じゃ。そなたも見てみい。」

『なんだ!?こりゃ?』


 兎神の魔法で作った水鏡を覗いてみると、顔が中年の親父で体は小さい子供のなんともアンバランスで気味の悪い生物がそこに写っていた。

「ぶふふっ、おそらく、体を形成する質量とそれを補う魔力が足りなかったからそんな体になってしまったのじゃろう。だから、心配することは、ない。成長して魔力量が増えたら、大人の姿にもいずれなれるじゃろう くくっ‥」


『笑いすぎだろ‥。』


 魔力量が足りないなら仕方ない。なら、足りるように、調整するだけだ。大人の姿で魔力量が足りないなら、子供になるしかない。

 子供の頃の俺は確かこういう感じだったような。子供の頃の自分を何とかイメージした俺は、大きく息を吸って再び、変化を発動した。

 変化を終えた俺は、すぐに水鏡を見る。

 そこに写っていたのは、黒髪黒目の小さな子供だった。

 …ふぅー。間違いなく小5の頃の俺だ。これでなんとかあの気味の悪い生物では、なくなったか。

 俺は、ほっと胸を撫で下ろした。

 想定とは少し違ったが、枝の時よりも、運動能力もかなり向上したし、こっちの姿の方が物の持ち運びも便利だ。

 これからは、この姿メインで行こう。そう思った。

 水鏡を見ながら目線を落とすとあることに気がついた。

 それを見て俺は、愕然とした。

 無い。

 子供親父こどおじの姿のインパクトで、気づかなかったが股についてあるはずの息子がないのである!

 慌てて触って確認したが、まごうことなくツルツルである。ついでに後ろの穴も消えている。

 どうして無いんだ!

 くそっ…俺はまた失敗したのか!

 俺は、あまりのショックで狼狽え、嘆いた。

 するとそんな俺を見て、兎神がため息を吐きながら、ぼやいた。


「あほう、花ならともかく、枝に生殖機能があると思うか? 変化の術は元の生物にないものは、どんなにイメージしても削ぎ落とされるのじゃよ」

『……たしかに!』


 納得だった。

 枝の姿の時には、全く意識していなかったが当然のことか。生殖機能がないのに、生殖器官が付いてるはずがないし排泄もしないやつに排泄器官もついているわけがないか…。

 仕方ない。

 息子のことは、諦めよう。

 俺は、現状を受け入れ決心した。

 そう思った時、周りがまじまじと自分を見ていることに気がついた。



『今度は、何だ…。俺どっか変か?』


「いや、予想外じゃった。お主、こどもの頃は、随分と可愛らしい顔をしておったのじゃな。」

『はぁ?』

「ええ!まるで女の子みたいです!」

『おいおい、ラパンまで…。』


 周りの連中も首をたてに振る。

 俺の顔ってそんなに、可愛いか?

 あ!そういえば、小さい頃はよく、母親にスカートを着せられていて女子に間違えられたこともあったな。

 まあ!そんなことは、この際どうでもいい。それより、このまま全裸姿なのは、ちょっぴり恥ずかしい。この体にぴったりの子供服をもらわないとな。

 俺は、兎人族から、使っていない子供服をもらい着替えた。


「さてと、わらわは、そろそろ行くとするか。この体もそろそろ限界だからの。」

『兎神様一つ頼みを聞いてくださいませんか?』

「何じゃ?」

『愛兎のチャッピーのことお願いできませんか?俺が消えて、ひとりぼっちで寂しがっているとお思うので。』

「分かった。任せておけ。」

『本当ですか! 何から何まで本当に色々とありがとうございました。』

「何を言う。感謝しているのは、わらわの方じゃよ。…それじゃあ、わらわは、これで失礼する。みんなも元気でな。」 

「「兎神様もお気をつけて。」」

「あ!そうじゃ。キロス!」

「何でしょうか?」

「近頃、南の帝国の動きが何やらきな臭い。国の中枢部分は妾でも感知が難しくなっておる程だ。もしかすると邪神の眷属やつらが一枚噛んでいるかも知れん。十分気を付けるようにのう。」

「………分かりました。」

「頼んだ……それじゃあのぅ。」

 


 そう言うと、

 巫女の身体が光り輝き中から何かが消えるような感覚がした。

 おそらく、兎神様が神界に帰ったのだろう。 

 兎神様か。

 破天荒だったが、不思議な魅力を持った神様だったな。

 ただ、人の恥部をベラベラと喋るのは、金輪際やめてほしい。

 こうして、俺の長かった1日が終わりを告げた。



ーーーーーーーーーーーー

 



 ぶーん。

 黒熊の死体の毛皮の中から、小さい虫が大量に湧き出た。

 出てきた虫たちは、目的地でもあるかのように同じ方向に飛び出した。

 虫たちは、まるで一つの意志で動いているかのように等間隔で列をなし森の中を数キロメートル飛んでいた。すると虫たちの目の前に一人の男が現れた。

 虫たちは、その男の体に一斉に張り付いた。

 すると虫たちは次々と男の体内に入り込んでいきやがて、全ての虫が取り込まれた。

 男は、体内に虫を取り込むと笑みを浮かべた。



「実験としては上々なようですね。しかし、兎人族ですか……あの蹴りは厄介ですね。計画を修正する必要があるみたいですね。」


 そう言うと、男は、闇に紛れ姿を消した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る