第10話 兎神降臨

 俺は声のする方向に視線を移した。すると、滝の流れが縦に真っ二つに割れて、中から少女が出てきた。

 少女は、地面を蹴ると、空中を一っ飛びで俺の目の前までやってきた。その姿は、まるで空から舞い降りた天女のように美しかった。

 そう思ったのも体毛がかなり薄く他の兎人族より、人間にかなり近い姿で美しい黒髪と巫女装束がよく似合っていたからだろう。

 別に初恋のあの子に似てたとかそういうのじゃあ決してない。 


「よくぞ!無事に生きておった。わらわは、嬉しいぞぉ。え・だ・の・せ・な・。いや? 今は、アスト君だったかな?」

「!」


 何故その名を⁉︎ この世界に来てから 俺は枝野世那という名を一度も口にしていない。

 なのにどうしてこいつは俺の前世の名前を知っている?

 一体こいつは、何者なんだ⁉︎

 動揺している俺の眼前に少女は、顔を近づけ、ニヤリと笑った。


「そう警戒するでない。其方を転生させたときに魂の情報を覗いただけじゃよ。」


『えっ!まさか……あなたが兎神様〜!!!』


「その通り! 妾が兎神じゃ。 まあ、わらわの本体は地上へ来られぬゆえこの娘の体をちぃっとばかり貸して貰っておるがの。」


『……。』


「信用ならんか? なら、今からそなたしか知らぬ秘密でも話してやろう。そうじゃな例えば、そなたは今この娘の顔が初恋の女とそっくりでドキドキしておるとか? 道中、気色の悪い様子ででラパンの毛並みを堪能していたこととか?あとは……。」


『ワァっ! 分かりました!信用しますからこれ以上は………。』

 

 全く、人の恥部をベラベラと……。神様ってもっと、こう神々しくて清廉でお淑やかなイメージだったが、なんか思ってたのと違うみたいだな。

 だが人の心を読むとはさすがは、神と言ったところか。



「さてと、そなたと話したいことが山ほどある。だがこれではちと話しづらいのぉ。ほれ!そなたらも早うちれ!」


 兎神がそう言うと、村人たちは、散っていった。

 俺たちも近くの木のベンチに移動してテーブルを挟んで座った。

 そして、兎神は村人に出されたお茶を飲むと、俺の疑問をに答えてくれた。


「兎人族は、兎から進化した種族で元来臆病で弱く、戦闘には向かない。だが、少々特殊な種族でのぉ。主を持つと主を守るために何倍も強さが増すのじゃ。つまり、黒熊を退けられたのは、そなたが現れたことで、兎人たちの強さが増したからという訳じゃ。まぁ、奴らがそなたに感謝するのも無理は、ない。」


 なるほど。いわば、俺は、兎人族にとってのバフキャラってことか。

 それならさっきの反応の理由にも説明がつく。

 そして、俺が世界に来た理由も兎人族を守るためなのだろう。


「そなたには、悪いことをしたな。」


『え?どういうことですか?』


「そなたは、本来死ぬ予定ではなかったのだ。神の領域を抜け出し邪神に狙われた妾の娘に巻き込まれなければの………。」


『そうでしたか……。』


「そなたが死んでしまったのは、妾が娘から目を話してしまったせいじゃ。本当にすまなかった!殴られても文句は言えまい。」


『顔を上げてください。……確かに最初は、死んだことを嘆きもしました。けど、娘さんを助けたことは、後悔してませんよ。』


「しかし、妾は、其方を死なせてしまっただけじゃなく、我が眷属たちを守るために其方を利用した。」


『分かってます。それも全部ひっくるめて今はもう後悔はしてませんよ。素敵な仲間に出会えましたから。」


「そうか……なら妾のいうことは、一つ。ありがとう!そなたのお陰で、娘は、無事に帰ってきた!」


『そうですか!あれからずっと気になっていたんで、無事だと聞いてホッとしました!……ただ、一つだけ納得できないことがあるんです。』


「なんじゃ?」


『なんで、転生したのが、枝なんですか!? どうせ転生するなら、人の方が良かったのに!』 


「怒るの普通、そこかの?もっと色々とあると思うのじゃが。」


『だって、手足がないとものを持つのだって移動するのだって結構大変だし、この体じゃできないことが他にもいっぱいあってすごい不便なんですよ!」


「う~ん。わらわもそのつもりだったのだが、邪神のせいでそなたが死んだときに刺さった木の枝の因子と邪神の呪い息吹とそなたの魂とが絡み合ってしまってのぅ。人間の身体に適応できなかったのじゃ。妾も外そうとしたのじゃが下手をすれば其方の魂が壊れてしまいそうでの。そのからだに転生してもらうしかなかったのじゃ。」


『そうですか。』


 今さら、どうにもならないことだとわかっているけどやっぱり人間じゃないのは少しショックだ。

 俺がショックで肩を落としていると、兎神は、うーんと唸り、首をかしげ何か考えていた。すると、何か思い付いたのか。ダン!と勢いよく立ち上がった。

「そうじゃ!そういえば、人間には、なれぬが人間に見える方法ならあるぞ。」

『本当ですか?』

「うむ。では、こいつを授けよう。」 


 兎神が俺に向かって手をかざすと、新しいスキルの名が頭の中に響いた。

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