第7話 救出

 弟は上手く逃げれただろうか……?

 兎人族の青年ハロルドがつぶやいた。

 あいつ……怪我してたからな。

 もしかしたら、動けないかもしれない。

 自警団のみんなが助けてくれていたらいいけど……不安だ。

 というのが彼の本音だ。


「本当なら一緒に逃げてあげられたらよかったけど、あの場に一緒にいたら二人とも黒熊に喰われて死んでいただろうから仕方ない…………。それでも、あの状況でどうにかこっちに黒熊全部引きつけられた。十分合格点だろう。」

 


 


 自分のしたことの結果が出たことでハロルドは、鼻高い気分だった。

 しかし、そんな彼にも、悩みの種が一つある……。

 しかも現状、その解決策もないため頭を抱えていた。

 うーんと唸りながら、彼は考える。

 今は、瓦礫の影に隠れているから見つかってないけど、それも時間の問題。

 ここもいつ黒熊に見つかるか……わからない。

 どうにかして、ここから逃げたいが、すぐ近くの前方に黒熊が一体、さらに、瓦礫から少し離れた地点左右にそれぞれ一体ずついる。

 迂闊に飛び出せば、一瞬で食われるだろう。

 しかもさっき、逃げているときに足を挫いてしまった。動けないほどではないが、走るのは無理だ。 どうすれば良いだろうか・・・。

 


 ハロルドは何か他に作戦はないか?と逃げる方法を思案しながら不意にポケットに手を突っ込んだ。 すると手に何かにぶつかった感触があった。

 何か入っていたっけ?とポケットの中のものを取り出すと、煙玉が入っていた。

 彼は、ポケットに入った煙玉を見て作戦を思いつきこれでいける!と思い、すぐさま行動に移そうと徐に視線を上げた。

 するとなぜか、目の前には黒熊が立っていた。

 まずい! 作戦を考えるのに夢中で周囲の警戒を怠ってしまったと自分の居場所がばれたハロルドは慌てて煙玉を使い、急いで逃げようとした。

 だが足を怪我しているせいで走れない。

 しかしハロルドは足を引き摺りながらも必死で歩いた。

 この煙幕を抜けて、路地を左に曲がったその突き当たりに地下道への扉がある。そこにさえたどり着けば逃げ切れるからだ。

 



 ハロルドは最後の力を振り絞り痛みに耐えながら、歩いた。

 煙幕を抜けて、さらに進む。

 周りを見渡したが近くに黒熊はいない。

 よし!あとはこの路地を左に曲がれば助かる。

 安心した彼はほっとした表情で路地を左に曲がった。

 しかし、目の前に扉は見えず、代わりに仁王立ちした黒熊が立ち塞がっていた。

 



 「・・・・なんで⁉︎」

 

 

 目が合うと黒熊はすぐさまハロルドに襲い掛かった。

 しかし、突然のことに困惑したハロルドは逃げることもできずに立ち尽くしてしまった。 

 振り下ろされる鋭い爪を見ながら、彼の中にさまざまな思いが駆け巡った。




(あと少しで扉にたどり着いていたのになんでこんなところに黒熊がいるんだよ。

 ・・・あーあこれで死ぬのか俺・・・・・。

 弟は無事に安全な場所まで行けたのか?

 あいつドジなとこあるからな。

 もしかしたら、地下道の入り口の場所思い出せなくてまだ探してたり・・・。なんてな。

 ホイルンド、お前は俺の分まで生きててくれよ。 

 俺が命までかけたんだ。もし、死んでやがったら承知しないぞ。

 ・・・・・姉ちゃん。

 姉ちゃんは今村長の依頼で主様のこと迎えに行っているんだよな。

 ちゃんと主様には会えたか?

 姉ちゃんは真面目すぎて融通の効かないところがあるし、主様に迷惑かけてないかそれだけが心配だよ。

 俺は、死んじゃうけど悲しまないでほしい。弟を守れて兄としての役目を果たせて本望だからさ。

 姉ちゃんも黒熊には気をつけてよ。姉ちゃんは優しい人だから、困っている人がいたら助けにいちゃうと思うけど黒熊には自警団のみんなも苦戦してたから、あまり一人で無茶しないでね。いや・・・・姉ちゃんは強いから心配する必要ないか。

ハハハハッ! ハハッ! ハハ ハッ ッ

ウッ・・・ッ・・

ィ・・ダ・・・・・嫌だ。

イヤだ! 死にたくない。死にたくない!もっと生きたい。生きたいよっ! だ・・・誰か 誰かァァァァ助けてェーーーーーー!

タスケ・・・・・・・・。)

 

 グチャッ 

 

 ・・・

 ・・

 ・


あれ?俺は死んだはず


「ハロルド、大丈夫!!」

 

 あれ?

 黒熊の爪に引き裂かれて死んで…。

 そう思いハロルドが目を開けると、そこには任務でいないはずの姉ラパンがいた。


「ねえちゃん?」

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