第8話 黒熊との戦闘

『ふー、何とかギリギリ間に合った。』


 黒熊の爪がハロルの脳天を貫く寸前だったが、腕を”伸縮自在”で目一杯伸ばしてハロルドをなんとか引っ張り上げられた。

 もしあとコンマ数秒でも遅れていたらハロルドは黒熊の爪で引き裂かれていただろう。

 間に合ってよかった。

 俺たちはすぐに黒熊に見つからない所に移動した。

 

 獲物が突然消えたことで怒り心頭の黒熊は血眼になって俺たちを探しているみたいだな。

 しかし、ここなら建物で遮られていて黒熊か死角でら俺たちは視えない。

 当分見つかる心配はないだろう。


 

 ハロルドの足が腫れているのに気付いた俺はすぐに添え木と包帯を作り治療をした。

 もう何度もやっている作業なので、慣れたものだった。

 最初は、完成イメージを想像しながら作るのが、大変だったが今では、イメージしなくても作れるようになっていた。

 おそらく、体が慣れてきたんだろう。

 必要なものは揃ったな。

 それじゃあ、、手当を始めるか。

 痛みを感じないように細心の注意を払ってそおっとやんないとな。




「本当に間に合ってよかった。「帰ってきたら、黒熊に襲われて村はめちゃくちゃだし、本当に心配したんだから。」

「姉ちゃんどうしてここに? 任務中じゃ・・・?」

 

 

 突然の出来事に状況が飲み込めていないのかハロルドが若干困惑しながら、聞いてきた。

 


「終わったから帰ってきたに決まってるでしょ。ほら、今あなたの治療してくださっているこちらの方が私たちの主様、アスト様よ。」

「ええええええ!」

 

 大声で俺がどうもと軽く手を振り挨拶すると、なぜかハロルドは慌てて、

 主に治療してもらうなんて、そんな烏滸がましいことできません!と治療を拒否してきた。

 うるさいので少々大人しくしてもらった。

 あんなに大きな声を出して、黒熊に場所がバレたらどうするつもりなんだ。

 全く困ったやつだ。


 『これで大丈夫だろう。』

 「アスト様、怪我を治していただきありがとうございました。」

 『怪我人なんだ。走ったりするなよ。』

 

 一応釘を刺しておく。


 「ハロルド、あなたは、この扉から地下道へ行き先に進んでるはずのホイルンドと合流して、村のみんなのいる神秘の滝に行きなさい。私たちも後から行くから。」

「・・・・!ホイルンドに会ったの。」

「ええ。少し怪我してたけど、命に別状はないわ。」

「よかった〜。」


 弟の無事の知らせをハロルドはほっとした表情をしていた。

 自分も危険な目にあって心の中が恐怖で支配されていてもおかしくないはずなのに、その状況でも弟の心配していたとはなんて強くて優しい少年だ。


「さあ、早く行きなさい。」

「アスト様と姉ちゃんも無事で・・・。」

『ああ』


 


 ハロルドが、扉の中に入ると同時に、黒熊がゾロゾロと現れた。数は、5体か。

 多いな。だが、不思議と恐怖はない。

 つい、何時間前まではスライム1匹でビビっていた小心者だったのにな。

 俺も異世界での暮らしに慣れてきたってことかな。

 一人で全部倒すのは、無理があるな。

 しかし、ラパンは先ほど、黒熊にやられて重症だ。任せても大丈夫だろうか。



『ラパン、何体か任せたい。・・・大丈夫か?』

「・・・大丈夫です。前回は、不意打ちで十分な力が発揮できませんでしたが、今回は必ず。最も、主様には、ボロボロの姿しか見せてないですし、心配するのもわかります。なので実力で証明して見せます。」


『わかった。任せる!』

「おまかせを」

  

 グララアアアア! 


 なんてことを話している間に黒熊が次々と襲いかかってきた。

 しかし、俺は先頭の黒熊の振り下ろす剛腕を躱し、次々と迫る巨軀の間を縫い背後に回った。

 ”身体強化”を使えばこの程度のことは、簡単だ。

 そしてすかさず、”伸縮自在”で伸ばした両腕を”さらに硬化”させ、黒熊の両足に巻きつき頭から地面に叩きつけた。

 ダン! ・・・ボギッ!

 黒熊は首が頭から叩きつけれた衝撃と全身の体重を支えきれずに折れ曲がり声を上げる間も無くピクリともしなくなった。

 

《レベルが上がりました》



 レベルが上がったみたいだが今は、戦闘中だ。

 ステータスの確認は後回しだ。

 



 よし!こっちは残り2体か。

 森の時のように、沼に沈められれば、もっと楽に倒せるが・・・・。

 


 それには、黒熊がすっぽり入るくらいの空間が必要だ。

 それには地面の土をかなりの量、吸収する必要がある。

 だが黒熊に家を壊され、すでに村は、ボロボロ。

 復興するにもかなりの時間がかかってしまう。

 それなのに楽だからと、これ以上村を破壊するわけにはいかない。

 だから多少時間がかかってもなるべく村を傷つけないように、黒熊を倒さないとならない。

 前の戦いで覚えた硬化を使えば、あの全身の硬い毛に覆われた黒熊と接触しても傷つくことはないし、それに他にも色々なスキルを覚えた。前回よりも戦闘パターンに幅が出せるはずだ。

 なんとかなるだろう。



 それより……、

 ラパンは、大丈夫か?

 心配になり彼女の方に視線を向けると、彼女は空を走っていた。


 周囲の家の壁を蹴って空中を高速で移動して常に黒熊の視界の外から足を鞭のようにしならせ攻撃を繰り返している。



 すると、以前の俺の攻撃では、一切傷が付かなかったあの黒熊の硬毛が次々と折れている。

 そして、全身の硬毛をへし折るとすかさず鳩尾に膝蹴りを入れた。

 グフォ! ギャアアアアア!

 叫声を上げた黒熊の口から大量の血が噴き出した。黒熊は全身の力がなくなり膝から崩れ落ちゆっくりと倒れた。

 

 


 ええ〜! 兎人族ってこんなに強いのか⁉︎

 ウサギはストレスで死ぬと言われるくらい弱い生き物だから俺てっきり兎人族も弱いものだとばかり。

 驚いた俺は、兎人族について調べた。教えて世界図書館!

 




 兎人族 獣人種。性格は温厚だが高い戦闘能力を持つ種族。異常な発達をした両足から放たれる蹴りは、ドラゴンを倒すほどの威力を秘めていると言われている。


 めちゃくちゃ強いじゃないか…………。

 それなのに俺は黒熊をたった一体倒しただけで一丁前にラパンのこと心配して…………。

 ハッハッハッ!

 バッカだな俺。

 自分より強い奴のこと心配してどうすんだ。人のこと心配する前にまずは、自分のことだ。

 こっちの二体をきっちり片付けなくちゃな。

 鉄を砕くなんて俺には絶対無理だし。


 そういえば、さっきから全然黒熊攻撃してこないな。

 今までなら、なんの考えもなしにただただ突っ込んできたのに。

 もしかして仲間がやられてビビったのか?

 ふむ。ではこちらからいこう。


 俺は、地面を蹴ると同時に相手の懐に入った。

 黒熊は、慌てて攻撃体制をとるが、


 時すでに遅し。


 『流拳』


 

 攻撃するより前に腹に拳を叩き込んだ。

 全身の穴という穴から血を噴き出して倒れた。

 流拳は体の内部にダメージを与える技だ。全身の筋肉や臓器もズタズタで動けないしいずれ死ぬ。

 こいつは、放っておいて大丈夫だ。

 


 あと一体。

 残りの黒熊に目を向けると逃げ出していた。

 しかもあっちは、ラパンの戦っている方だ。

 あいつ! 自分だけじゃ勝てないと踏んで仲間と戦っているラパンを後ろから狙おうとしているのか。

 ラパンも目の前のやつとの戦いであいつに気づいていない。

 このままじゃまずい。




 だが、今から追いかけても間に合わない。

 ・・・こうなったら一か八か。

 俺は、吸収していた土塊を圧縮して銃弾の形に再構成した。そして黒熊の頭めがけて思いっきり放出した。


『いけえええぇぇぇぇぇぇぇえええ!』


 腕を回転させて放ったため本物の銃と同じく銃弾は螺旋回転で発射された。そのため、銃弾はスピードを落とすことなく、むしろ加速していく。

 だから黒熊がラパンを攻撃するよりも早く着弾する。

 

 『終わりだ。』


 ピギャア!


 銃弾は、黒熊の硬毛を破壊し頭蓋骨を貫き脳まで到達した。

 走っていた黒熊は、動きを止め横たわり倒れた。

 

 『はぁ〜。』


 なんとか間に合った。

 ラパンは……



「主様、ご無事ですか!?」

 

 大声で走りながらこっちに近づいてきた。

 どうやら、あっちも終わったようだ。


『疲れたー!』

 

 おっ!

 どーん!


 黒熊を倒してホッとしたのか今までの疲労が一気に押し寄せてきて倒れてしまった。

 

 『主様大丈夫ですか?』



 ラパンは、倒れた俺を抱え心配そうな顔で見つめている。

 

『俺は、大丈夫……。それよりまだ黒熊と戦っている人たちがいるんだろ? 助けに行かないと……。』


「いえ。その必要はないみたいですよ。」

『どういうことだ?』

「…………。」



 ラパンの見ている方に視線を向けると、皮の防具を纏った集団が近づいてきた。

 体のあちこちに戦闘の傷が見える。おそらくは、ラパンの言っていた自警団だろう。

 ホイルンドが、自警団は東の門で黒熊の大群と戦っていると言っていたはず。

 つまりここにいるということは、


『終わったみたいだな。 なら少し眠らせてもらっていいか? 正直限界だったんだ。』

「はい。 おやすみなください。」


《レベルが上がりました。スキル土弾ーーーーー》



 神の声が聞こえたが、あまりの疲れからラパンの腕の中で俺は眠ってしまった。

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