第2話 初めての戦闘
街を飛び出てはや1時間、イサク、マーガレット、チョッピーの三人組の子供に捕まった俺は、いまだ、逃げ出せずにいた。
「精霊に導かれて 私は進むよどこまでも〜。仲間を集める旅に出よう。さあ、冒険の始まりだ!」
「しっ! 静かにして!魔物に見つかっちゃうでしょ。ちょっとは静かにしなさいよ。」
「なんだよノリ悪いな! モンスターさえ倒せば憧れの冒険者にだってなれるだぜ!お前らは嬉しくないのかよ。」
「まあ、嬉しくないことはないけど………」
「で……でも、モンスターは怖いって聞いたよ!もしかしたら怪我するかも。 僕痛いの嫌だよ。」
「大丈夫だって、俺たちには精霊がついてるんだ。 モンスターなんか魔法なんかちょちょいのちょいさ! なあ、精霊!」
『おいおい俺頼りかよ……。』
無理!絶対無理!
そもそも俺は、精霊じゃない、ただの枝だ。
精霊は、魔法が使えるって子供達の会話を聞いて、試しにやってみたけど発動しなかったから間違いない。
大体こんなヒョロい枝で攻撃なんかしてみろその瞬間に、体がポッキリ折れちまうよ。
それじゃなくても前世の俺は山とウサギをこよなく愛したただのおじさんだ。
モンスター退治なんて怖くてとてもじゃないけどできやしない。
子供達には悪いけど、俺だってまだ死にたくないし、俺が精霊でも何でもないことを伝えてモンスター退治は諦めてもらおう。
『俺は精霊じゃないって何度も言ってるだろ!俺は戦えないしこんな危ないところにいないでさっさと街に戻ろう!なあ?』
「そう言って逃げようとしたってそうは行かないよ。俺たちは絶対冒険者になるんだ!」
『だから……!』
ガサガサ!
前方の草むらが揺れた。
全員の視線が草むらに向く。
ああもう!タイミングが悪い!一体なんだ!
ぷるん。ぷるん。
揺れ動くまんじゅうのようなフォルムをした薄青色した液体で形成された半透明の物体。
間違えないこいつは、RPGによく出る序盤の御用達のモンスター スライム!
「なんだ………スライムか。 」
全員がスライムを見て油断していると、
ビュッッ!!
スライムは体内で生成された溶解液を勢いよく噴射した。
噴射された溶解液は俺を掠めたあと、後ろの木に当たった。
すると、
ジュワッ!
『……ッ!』
先の部分が焼けるように熱い!
燃えているようだ。
痛みのある部分を注視すると表皮が溶けてボロボロになっていた。
振り返って溶解液のかかった後ろの木を見ると皮が溶け落ち中身が剥き出しになっている。
どうやらわずかに溶解液に触れたみたいだ。
……冗談じゃない!少し掠っただけで、このダメージ。
もしあんなもの全部浴びてみろ!ひとたまりも無い!
たかがスライムと侮っていたがこの世界のスライム結構危険じゃない?
よし!こんな危ない奴に構っている暇はない。逃げよう。
イサクたちにその事を伝えようとした次の瞬間。
「やりやがったなーーー!」
攻撃を受けて頭に血が昇ったのか、イサクは、ブンッ!!と枝(俺)をスライムめがけて振り下ろした。
ぶわっと全身に風圧がかかる。ジェットコースターに乗った時に近い。
少し気持ち悪いが脳の揺れはさっき振り回された時に比べていくらかましだ。
大体、ただの枝で攻撃しても魔物にダメージなんか入るわけがない。
そんなことこの世界の人間なら知っていそうなものだがひょっとしてこの子は、バカなのか?
徐々にスライムの体が迫ってくる。
まあ、この攻撃は大方、スライムに弾かれて終わるのがオチだ。
だが、もしかしたら倒せる可能性が微かにあるかもしれない。
スライムの体は、見るからに柔らかそうだ。もしかしたら、枝程度でも体を突き抜ける可能性は十分にある
……待てよ?
俺の頭の中に恐ろしいことがよぎった。
万が一俺がスライムを貫いた場合。
もし、スライムの体の中にある液体が溶解液だとしたら………もしかしなくてもかなりまずいんじゃないの?
だってあれに突っ込んだ瞬間さっきの木みたいに俺の体がドロドロに溶けるよね絶対。
嫌だ!死にたくない!オー! ノー! 誰か助けて! お願い! プリーズ ヘルプミー!
だ・い・た・い!イサクお前、俺のこと精霊だと思ってんだろ!なのになんで、物理攻撃なんだよ!そこは、魔法だろ!(まあ、精霊ではないから、使えないけど……)
………………
終わった。
スライムは、もう目の前だ。
もうイサクの手から、逃げる暇もない。
転生してたったの数時間で死ぬのか。
呆気なかったな。
…
……
………
ピキッ!
何か硬いものを俺は貫いた。なんだ?この割れた黒い球は?
……は!そんなことより溶けてない!まだ生きてるぞ!あ〜助かった。
どうやらスライムを形成している液体は、溶解液ではなかったようだ。
だがもし、これが溶解液だったらと思うと……想像しただけでゾッとする。
すると、さっきの割れた黒い球は、パリン!と粉々に砕け散り、先ほどまで形を保っていたスライムはドロドロになって崩れた。
おそらく、この黒い球は多分スライムの生命を司る核だったのだろう。
《 レベルが上がりました!
突然、俺の脳裏に声が響き渡った。
は? 何だって?レベル? スキルだって?
それに何だこの声は?
誰かいるのか?
いやここは森の奥深くだ。俺たち以外にいるはずがない。それに話しかけられたというより頭に直接語りかけられたような感じだ。
パソコンの合成ソフトで作った機械っぽい音声でゲームのテキストを読んだような感じとでもいうべきか。
ゲーム・・・レベル、スキル・・・。
もしかして、この世界には前世のゲームのようなシステムでもあるのか?
などとこの不思議な出来事について考えていると、
バタン!
突然、俺はイサクに放り投げられ地面にぶつかった。
『おい、急に離すなよ!危ないだろ!』
怒る俺など気にも留めず、イサクはまるで何かが見えているかのように目をひん剥いて食い入るように虚空をみつめていた。
すると、イサクは次第に体をぶるぶると震わせ目にはわずかに涙を浮かべていた。
「・・・やった! レベルが上がった。それにスキルも覚えてる・・・!これで父さん達も冒険者になることを認めてくれるはずだ!』
「え! スキルゲットしたの?何? 何?」
「剣術だ!」
「イサク!あんた一人だけずるいわ! 私たちがスキル取るまで手伝いなさいよ。」
三人は俺を余所に大声ではしゃいでいた。
本来ならば、人を投げ飛ばすとは何事だ! と注意するところだろう。
だが、俺は、大人だ。
そんなことであんなに嬉しそうに話す子供の邪魔をする気はない。
だけど、子供たちの言っていたことに気になる言葉がある。
俺は、会話を遮り、イサクに質問をした。
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