転生体は枝でした~枝に転生したおじさんひょんなことから兎人族の主になる~
神手守
第1話 転生
今日は、日曜日で仕事が休みのため。愛兎のチャッピーと趣味の山登りに来ている。山はいい。空気は美味いし、鳥の
山と兎をこよなく愛するおじさん。それが俺枝野世那だ。
「うーん。気持ちがいいな。」
背伸びをしながら、景色をを見渡していると、近くに怪我をしている兎が横たわっているのが見えた。
「待っていろ。すぐ、良くなるからな。」
血も出ているし、足も少し折れている。
急いで手当てしないと。
チャッピーがいつ怪我しても手当てできるように救急道具をバックのなかに入れておいてよかった。
近くにあった木の枝と鞄に入れていた包帯で足を固定し、消毒液と軟膏で止血を施した。
「これで、よし。」
「ぷぅ〜。」
治療を終えると兎が擦り寄ってきた。
野兎にしては、綺麗な毛並みだと思った俺は、気になってそっと撫でた。
まるで、ついさっきブラッシングされたかのようなサラサラとした感触だった。
もしかするとこの兎は飼い兎でこの山の中で飼い主と逸れたのでは?
と思った俺は登山を中断し、チャッピーと怪我をした兎を抱き抱え、飼い主を探すことにした。
しかし、次の瞬間。
バキッ!
それは突然の出来事だった。およそ5mのほどの大木が倒れてきたのだ。
咄嗟の出来事に俺の体は反応せず、ただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
体感では何十時間にも感じる一瞬の時間、まるでスローモーションのように迫り来る樹木を眺めながら俺は自分の死を悟った。
だけどせめてこいつらは逃さないと。
最後の力を振り絞って俺は、咄嗟に抱き抱えていたウサギを逃した。
迫り来る倒木の枝が心臓に突き刺った。一瞬で途切れる意識。そうして俺の人生は幕を閉じた……はずだった。
『ありがとう』
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「オークのもも肉今ならなんと500テール安いよ!」
「ドラゴンの鱗をあしらった盾が入荷したよ。さあさあ寄った寄った。」
『うるさいな。』
街の喧噪に包まれて俺は目を覚ました。
あれ? おかしいな。確かに俺は倒木に潰されて死んだはずだけど……助かったのか?
気になって辺りを見回す。すると、奇妙な光景が目に入った。
『ここは……どこだ?』
何も寝ぼけてそんなことを言っている訳じゃない。
さっきまで山にいたはずが気づいたら知らない街にいたんだ。驚くのも当然だろう。
それに、街は、城壁で囲まれ、街の中央には大きな城があり、そこから東西南北に石壁で建てられた家が並んでいる中世ヨーロッパを彷彿とさせる街並みで、辺りを見渡すと、碧眼で耳の尖った美女やたくさんの髭を蓄えた男、まるでゲームやネット小説に出てくるエルフやドワーフによく似た人たちに、赤、青、黄、緑、紫など様々な髪の色をした人間たちがいる。
うん。
やっぱり、どう見てもここは日本じゃない……いや地球ですらないな。
よく見ていた「それらしい」人たちがたくさんいるしここってどう見ても
『異世界』
だよな……。
もしかして、夢か?
いや……、吹き抜ける生暖かい風、街の人々の元気な声。
これが夢だとはとてもじゃないけど思えない。
そうか。俺は異世界に来たのか。
なるほどな〜。 ……ってなるかー!
俺だってそりゃあゲームとかアニメとか小説とか大好きで、一回くらいは異世界に行ってみたいっておもったことはあるけど。(山に興味を持ったのだって元々は某登山アニメを見てたからだしな)
けど、仕事だってやりがいがあって楽しかったし、趣味も充実しててそれなり楽しかったのにもう家族や友達にも会えないのか。
それに、チャッピーは、あれからどうなった?
助かったのだろうか?
いや、助かったとしても俺がいなくなって、チャッピーは、ひとりぼっちだ。それで、もしチャッピーに何かあったら…。
『チックショー!』
「「「うわっ」」」
俺がやりきれない思いを空にぶつけていると、少し離れたところで、三人の子供が、まるで、珍獣でも見たようなびっくりした顔でこっちを見ていた。
子供たちは、何やら会話を終えると恐る恐るこちらに近づいてきた。
だが、子供にしてはやけにやけに大きく見える。 気のせいか?
『……でかい。 でかすぎる。』
近くまでくるとその大きさがよくわかる。まるで巨人だ。
三人の子供は、185cmもある俺の身長をゆうに超えていて、天を仰ぎ見るほど上を見ないと顔が見えない。
俺があまりの大きさに驚いて、逃げようとすると突然。
ガシッ。
『何をする。離せ!』
一番大きい少年に片手で体を拘束され、身動きが取れなくなった。俺は、捕まれた手から抜け出そうと必死に体を翻したが、巨人の少年は、新しく手に入れたおもちゃを取られまいとするかのように、抵抗して手を振り回した。
『ウアァァァァ! 振り回すのやめてェェェェ! 頭がぐるんぐるんにシェイクされるゥゥゥゥ!脳汁飛び出るゥゥゥゥ!』
ハアハア。し、死ぬかと思った。
うえっ。頭がまだグワングワン揺れていて、気持ち悪い。
このままだと、命がいくつあっても足りない。
何とかして早くこいつらから逃げないと。
そう決意した時、少年の瞳に映った自分の姿を見て唖然とした。
『なんだ?これ……』
温かみのある茶色に、綺麗な木目、美しい剣のようにシャープな切っ先。
どう見てもまごう事なき枝である。
枝…… いやいや枝って。
いくら俺が、枝野だからって
んな安パイな……
さっきのはどうせ見間違い。
……じゃない。何度見ても少年の瞳に映る俺の姿は枝である。
つまり、こいつらが巨人に見えたのはこいつらがでかいってわけじゃなく、逆に俺の身長が縮んじまったからなのか⁉︎
いやいや、冗談だろ! 俺は今も人間のはずだ。ほら手足だって今まで通り普通に動……かない。
いや掴まれて身動きが取れないから、動けないんだけど、そうじゃなくて。
正確にいえば動かした感覚がない。
そういえば、さっき逃げようとした時も体を動かした感覚がなかった。
その後も口も足も体のありとあらゆる動かせる器官を動かそうと試みたが動かせる気配がない。
どうやら、さっきの姿は見間違いなどではなく、正真正銘、俺の体のようだ。
倒木の下敷きになって死んだ俺は枝としてこの世界に転生したらしい。
しかし、不思議な体だ。
どうやってものを見ているんだ?
今の俺には、目なんてないのに。
それに音もどうやって聞こえているんだ?
耳もないのに。
不思議だ。
なんてことを考えていると、
「・・・・おい、動かないぞ。」
「もしかして、死んじゃった?」
「もう、イサクが無茶苦茶に、振り回すから!」
『勝手に人を殺すな。』
「「「うわっ」」」
「びっくりしたぁ。」
「やっぱり、さっきのは幻聴なんかじゃなかったのね。」
「本当に枝がしゃべってる。 夢でも見ているみたいだ。」
うん。俺もそう思う。自分がこんなヘンテコな生き物になったなんていまだに信じられないからな。
それにしても俺の言ってることがわかるのか。驚いた。
俺は日本語で話しているのに、どうやら言葉は通じるようだ。
ていうか、そんなことより……
『そろそろ離してくれない! さっきから息苦しいんだけど!』
枝は全身の細胞で呼吸しているから、本当は、息苦しくないんだけど、気分的になんとなく苦しく感じる。
「嫌だね。もうお前は、俺のもんだ。絶対に離さないぞ!」
『なんでだよ!こんな気持ち悪い生き物普通手離すだろ!』
(ひょっとしてこの世界にはこんな生き物がうじゃうじゃいるのか?)
「ふふ・・俺は騙されないぞ。お前がただの枝じゃないことは分かっているんだ!ズバリお前の正体は精霊だろ! 」
『精霊?』
それってもしかして前世でもゲームやアニメで有名だったあの精霊か?
「惚けても無駄だ。人間の世界には精霊が、いろいろなものに化けて人々の手助けをする物語がたくさんあるんだ! だからわかった。しゃべる植物なんて見たことも聞いたこともない。きっとこいつは、精霊が化けたものだろうって。」
俺が精霊? そうなのか? いや、でもそれだけの情報じゃあまだ、俺が精霊だって確たる証拠にはならないしな。もっと情報がいる。何しろ異世界に来てたったの数時間でこの世界のこと右も左もわからないんだから。
『ねえ君たち………』
「お前が精霊だとわかった今お前を手放すわけにはいかない。お前の力が必要なんだ。」
『あの………』
「あれ?そういえば、なんで精霊が必要なんだっけ?」
「チョッピーあんたイサクの話聞いてなかったの!」
「怒んないでよ〜マーガレット。」
『ねえ、ちょっと俺の話聞いてる?』
「はあ〜・・・いい!精霊は魔法が使えるの。魔法があれば子供の私たちでもモンスターを楽に倒せるでしょ。もし、私たちだけでモンスターを倒せたら・・・・?」
「父さんたちも僕たちが冒険者になるのを認めてくれる……。」
「そういうこと!」
「よしそれじゃあ……」
人の話全然聞いてないし……
しかも、なんとなくだけど嫌な予感がする。
ま、まさか……
「モンスター退治に行くぞ!」
「「おう!」」
やっぱり!
お、おい待て。 離せ 離して 離してくれーっ!
これから一体俺はどうなるんだー!
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