アルハザード王の最期

「王!!アルハザード王!!」と、前方から、王の従者が走ってやってきた。

「大変です!!ご子息のディオゲネス様が!!帝国に向かっていた、ディオゲネス様の配属されたエルフの使者団が、差別主義の人間に襲われたとの情報が!!早くこちらへ!!」

「なんだと!?!?」と、アルハザードが真っ青になる。思わず、先ほどのハーバートとのやり取りが、頭から消える。

 もらいうけたキングのカードが、左手からはらはらと落ちる。

「父上!弟が襲われて、捕虜になったとの情報が!!」と、アルハザード王の2番目の妻の長男が、泣きながらやってくる。

「イマーヌエル!」と、アルハザードが頭を抱え、その場に立ち尽くす。

「父上!!ご指示を!!弟を助けねば!!」と、イマーヌエルが叫ぶ。

「ディオゲネス・・・!!ディオゲネス・・・・!!」と、アルハザード王がイマーヌエルを従えて、執務室へ向かう。報告を詳細に聞くためだ。

 それから1か月後。捕まったエルフの居場所を探しだした探索隊一行は、無残に殺された同族のなれのはてを見つけ、涙を流した。

 イマーヌエルは、あえて弟のつぶされた顔面、焼ただれた体などを見やり、涙を流し、死体を近くの森に埋め、イブハールには持ち帰らなかった。母を悲しませたくなかったからだった。

「おのれ、人間め・・・・!!」と、イマーヌエルが涙ながらに叫ぶ。

 イブハールに期間した探索隊から結果を聞いた一同は、驚愕した。エルフ一族みなが喪服を着た。哀悼の意を示すためだ。

 ハーバートとルシアでさえ、喪服を着た。捕虜にされたエルフは他に数名いた。

 今まで、エルフと人間は、1000回を超えて、使節団を送り、交流をはかってきた。その中で、一番むごい事件だった。帝国も、哀悼の意を示してきた。また、その犯人の一味の足取りを、帝国の魔法使いたちも追ったが、見つけることはできなかった。

 自室で、アルハザード王は悲嘆にくれた。簡単な説明を受けて、遺骨もなく、立ち直れなかった母、つまりディオゲネスの二番目の妻は、2年後、自殺した。自ら永遠の生を捨て、崖から身投げして果てた。

「人間め・・・・!!!殺す、殺す、殺す・・・・!!おのれぇ!!」と、アルハザードの憎悪はどんどん膨らんでいった。

 涙を流して人間を恨んでいたアルハザードの背後から、そっと声がした。

「アルハザードよ、何を泣いている」と、声がした。アルハザードの契約した悪魔、ルシファーだ。ファウストより高位の悪魔だ。

「力を貸してやろう。王笏座は貴様にこそふさわしい。どうだ、契約してみないか・・・・??」と、ルシファーがにやりと笑って言った。

「人間にも、復讐ができよう。どうだ??」と、ルシファー。

(シェムハザ様にも、これで面目が立つ。褒美はなにかな)と、ルシファーは心の中でにんまりと思った。

「人間だけじゃない、すべてを滅ぼしてやる。思い通りにならないエルフも、憎き人間も、みな殺してやる・・・!!」と、アルハザードがこぶしを握り締めて、憤怒の表情でつぶやく。

「それでいい。貴様はそういう男だ」と、ルシファー。

「悪の王笏座、と言ったな。説明しろ」と、アルハザード。

「その前に、最後に、長年契約したアンタにさよならを告げよう。さようなら、哀れな男・アルハザード。悪の王笏座に、身も心も奪われればいい」と、ルシファーが言って笑った。

 その次の瞬間、王の居室の外を見張っていた衛兵が、びくっと震えた。部屋の中から、けたたましい叫び声がしたのだ。

「陛下!!陛下、どうなさいました!!」と、衛兵がドアを開けようとする。だが、鍵がかかっていて、ノックしても開かない。叫び声はだんだんとか細い声に変わっていく。

 2分後だろうか、叫び声が途絶えてから、ドアが内側から開いた。王自身がそこに立っていた。

「陛下!!」と、衛兵二人が叫ぶ。

「心配をかけたな、二人とも。だが、もう大丈夫だ。気にすることはない」と、アルハザードが、やけに上機嫌でにんまりと笑った。

「へ、陛下、しかし・・・!!」

「心配はいらぬと言っておる。さがれ」と、アルハザードが言った。

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