結婚式 兄は妹のために 妹は兄のために
結婚式だというのに、天気はあいにくの雨で、小雨がざーざーと打ち付けていた。さっぱりとしたシャワーの様だ。
空は曇っている。だが、それでいい。この結婚は、悪魔との契約、晴れでは似合わない。
ロディことローデヴェイク、それにジラルド、ヴィンセント、クラウス、ルシアとハーバートの両親、ルシアと何かと縁のある、ミスティーナ女王陛下、その他関係者数名が同席した。アルハザードには秘密裏に行われている。
そこは、王族であるルシアとハーバートの住居から少し離れた、屋外の険しい崖の上で行われた。小さな丸い円柱型のあずまやがある。あずまやというより、ミニチャペルに似ているだろう、もしそこに鐘の一つ二つあれば。
「ここは、願いの丘と呼ばれる場所です」と、ミスティーナ女王が代表としてスピーチして言った。
「多くのエルフが、下界の人間たちの平和を祈り、瞑想に来る場所でもあります」と、女王。
「そして今日、ルシア殿とハーバート殿兄妹が、この日から、夫婦となり、添い遂げられます」と、ミスティーナ女王は続けた。女王は、ルシアの普段の、ウルドとしての仕事ぶりを褒めたのち、この兄妹の永遠の幸せを祈る、と締めくくった。
拍手が起き、ミスティーナ女王が3段ある階段を降りる。
ベールをかぶり、花嫁衣装を着たルシアは、その頃にはすでに何百年もお供にしていた侍女・アグネスに連れられ、そのあずまやの下の祭壇に似たところへ歩いて行った。そこには、ハーバートが待っている。
二人とも、エルフの伝統衣装を着ている。
ハーバートのスピーチは、ジラルドが行った。
「――俺の体には、贖いの印・・・『贖罪の烙印』が押され、悪魔が一体、住んでいます。家族の命を守るため、俺は悪魔と契約した、だが、俺をかばって、妻が亡くなった。子供は生き残った。だから、そのことを決して忘れぬよう、『贖罪の烙印』を、自ら悪魔との契約の名前にしました。俺と悪魔の契約の名は、『贖いの誓い』です。我が友人の、ハーバート殿下は、御妹君を守るため、ルシア姫との結婚を決意され、今日、悪魔との契約を俺に頼まれました。すでに、ミスティーナ女王をはじめ、上のエルフたちからの許可は得ています」と、ジラルドがそこで言葉を切る。
悪魔との契約のことは、結婚式の前日、ハーバートが皆に告げていた。両親にも。だから、特に誰も、動揺は見せない。
「この古い本・・・第4の書・・・通称『天使と悪魔の書』にて、契約を結んでもらいます。人間の魔法使いがする、悪魔との契約の仕方とは違いますが、これがエルフの悪魔との契約の仕方です。ちなみに、悪魔との契約をするエルフは、これで数例目となります。では、儀式を」と、ジラルドが言った。
「ルシア、指輪を」と、ハーバートが言って、従者から受け取った結婚指輪を、ルシアの左手の人差し指にはめた。
「私も」と言って、ルシアが、アグネスから指輪を受け取って、ハーバートの右手の薬指にはめた。
「二人とも、準備はいいですね?悪魔との契約は、代償を伴う。今回は、その代償を、ルシア姫が、契約する天使の力で、庇う形となります」と、ジラルドが言った。
ルシアが頷いた。ハーバートが、鉄でできた剣・・・愛刀・ファルシオンを手に取った。ジラルドが呪文を唱える。
”兄は妹のために、妹は兄のために“と、二人が同時に言った。
ハーバートが天に掲げた剣・ファルシオンに、怒号とも聞こえる落雷の音が轟いた。
雨が激しくなる。
ファルシオンに、怪しい薄青い光が宿っていた。これが悪魔か。と、ハーバートがファルシオンを眺める。
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