ジラルドとハーバート

「いつもそればっかりだな。ルシアは結構モテるのに」と、ローデヴェイク。

「そうね、ウルドだからでしょうね」と、ルシア。

「そういう人たちは、心の中、見えちゃうのよ。私を利用しようとする人ばかり。結婚願望はないわ」と、ルシア。

「人の子の運命を定め、告げる女神・・・ウルド・・・かぁ・・・」と、ローデヴェイクが意味ありげに言う。

「ルシア様!」と、向こうから、アグネスが駆けて来た。アグネスは、ルシアが2000歳を超えたあたりから、そばにいてくれる、忠実で気が利くお世話係のような人だった。

「アグネス、おはよう。どうしたの、そんなに急いで」と、ルシアが椅子から立ち上がる。

「イヴェタ様が、お呼びです!ちょっと見てほしい未来があるそうです」と、アグネス。綺麗な宮廷服を着ている。

「イヴェタ様が!分かったわ、すぐ行くわ」と、ルシア。

「じゃあな、ルシア」と、ローデヴェイクが剣を手に、もう片方の手で、手を振った。

 ルシアも振りかえし、アグネスと一緒に、駆け足で、ウルドの間へと向かった。


 ハーバートは、あのシェムハザ戦以降、ジラルドと親交を持っていた。貴族のジラルドとは、ハーバートはなかなかに仲が良かった。

「俺には妻がいるが、」と、ジラルドが言った。

「ハーバート、2000歳過ぎたのに、妹さんのことは分かるが、誰かと結婚してみたらどう??いい経験になるんじゃないか」と、ジラルドが言った。

「・・・そうだな」と、ハーバートがぽつりと言った。

「妹さんと結婚したらどうだ。そんなに他の女が嫌なら」と、ジラルド。

「それもそうだな」と、ハーバートはまたしても意気のない声で言った。

「君はどうしたいんだい・・・??」と、ジラルドが尋ねる。

「俺は、今のまま、ルシアを見ていたい」と、ハーバーとが言った。

 ジラルドが、長年、エルフでいながら、悪魔と契約していることも、ハーバートはこっそり教えてもらっていた。

「やっちゃいけないんですけどね、」と、ジラルドが苦笑して言った。

「ちょっと、危ない局面がありましてね、妻と子供を守るため、どうしても力がいたんです。だから、俺は禁術を使った。ただし、エルフの上の人たちの許可があってしましたから、違法ではないですよ。俺は悪魔になっても家族を守りたかった、それだけです」

 照れながら話すジラルドを見て、ハーバートはふと寂しさを感じた。自分も家庭を持ちたい、と思った。ジラルドは、ハーバーとと同世代だった。ジラルドの方が、少しだけ年上だったが。

「俺もそんな力があれば・・・!」と、ハーバートが言った。

「妹は、残念ながら、そこまで体が強くない。成人して、前よりは丈夫になった、それは認めるが。なのに、みんなウルドとして利用してばかり。俺に悪魔の力があれば、妹を護れるだろうか」と、ハーバートがぽつりと言った。

「妹さんと、結婚しちゃいなさい」と、ジラルドが表情を崩さず言った。

「それがいい」


                     *


「ルシアちゃん、帰り??」と、ウルドの間を出てから、ルシアは、兄の上司であるクラウスと鉢合わせした。クラウスもヴィンセントも、その頃には家庭もちになっていた。当然だ、みんな2000歳を超えている。エルフは、普通1000歳までにはほとんどが結婚する。

「本当に大きくなったなあ、ルシアちゃん!この前まで、まだおちびさんだったのにな!」とクラウスが笑う。

 とはいえ、ルシアはエルフの成人女性にしては背が低い方だった。


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