第3話 海の家
「かき氷だよ〜! 冷たいかき氷だよ〜!」
文化系の男にこういう体力勝負な仕事は酷であると言える。しかし、ここが稼ぎ時なのだ。俺は声を張り上げた。横峯は奥で焼きそばを作っている。客の入りはまずまずといえた。ギャルいお姉さんが入ってきて、俺に声をかけた。
「お兄さん可愛いね。あっちで遊ばない?」
「光栄ですけど、仕事中なので」
「真面目く〜ん」
こしょこしょと喉の下をくすぐられて、そのままお姉さんは去っていった。後ろからじとっとした視線を感じる。
「札つけときたいな札」
「横峯……」
「声掛け禁止って書いた」
「たまたまだよ」
「立花は顔がいいから」
「そんなことない……」
「そんなことある」
じいっと見つめられる。
「お前みたいな程よい可愛さとかっこよさが同居した顔が一番女の人に受けるんだよ」
買いかぶりすぎでは。
シフトが終わって、後半の人に交代。海の家を出ようとしていると、さっきのギャルさんがやってきた。
「あったまたまだね〜! 終わったの?あっちで女二人で遊んでてさぁ」
「申し訳ないですけど、この後予定があるので」
作り笑いをした横峯がさっと俺とギャルの間に入る。
「あ、君も可愛いね!うちのツレ、君みたいな子好きだと思うんだ〜」
「あいにく間に合ってますので」
「彼女いる感じ? ざんね〜ん」
意外とあっさり引き下がるギャル。横峯が何か言おうとして飲み込む気配がした。去っていくギャルを尻目に、横峯はさっさと歩き出した。苦しげな横顔だった。俺は言いそびれたことがあったと思った。横峯との関係をきちんと言うべきだったのだ。迂闊だった。白い道の先に、荷物だけ置いてきた横峯の祖父母の家があった。ぽつぽつと話をしながら、俺たちはその家へと足を運んだ。心の中にはしこりが生まれていた。
「おかえり〜! 暑かったでしょ!」
にこやかな横峯の祖母が冷たい麦茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
思わずガラスコップを頬に当てた。
「気持ちいい〜……」
「部屋にクーラー効かしてあるからね」
「はい、ありがとうございます」
「おっ帰ってきよったか」
横峯の祖父が顔を出してくれた。
「ただいまです」
「二人共腺病質な体つきしとるから倒れるんちゃうかと心配したわ〜」
「なんとか持ちこたえました」
「よかったよかった」
祖父は団扇を扇ぎながら他の部屋の方に歩いていった。
「今日のうちにいとこの誠也って奴が来るから」
「そうなんだ、楽しみ」
俺は麦茶をぐびりと飲んだ。昔ながらの扇風機が音を立てて回っている。
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