第2話 進路
岩田花男。横峯の元恋人。俺はごろりと寝返りを打った。横峯は本気だったが、あいつは遊び相手としか思っていなかった。そんな相手と偶然会った横峯の気持ちはどんなものだったのだろう。想像しかできないが。横峯の暗部に一瞬触れたような気がした。普段は明るく、ほとんど見せない側面を。それで俺はどうした? 深く事情を聞かないまま別れてしまった。……勇気がなかったのだ。横峯の悲しみを一緒に分かち合おうという踏み越えができなかった。……俺はそういうところがある。肝心な時に内に逃げてしまう癖が。……はぁ。俺は瞬いている豆電球を見つめた。替えないといけない。分かってはいた。分かってはいるのだが。
「立花ー!」
横峯が大きく手を振っている。
「よっ。早いな。待ったか?」
「ぜんぜーん」
目を細めて横峯が笑う。これから新幹線に乗って、海沿いの町まで行く。新幹線の通っている駅まで、ローカル線を乗り継いでいく。電車の中は比較的空いていた。長椅子に座って、流れていく田園風景をなんの気なしに見ている。ちらりと横峯を見る。昨日の表情は、もうそこにはなかった。話題は様々に移ろった。同じクラスの友人の話、一緒にやっているゲームの話、趣味の話。
「そういえば、進路希望の紙、書いた?」
そう横峯が問いかけた。
「いや、まだ書いてないな」
「俺も〜」
「進路ってどうやったら見つかるんだろ」
「分かんないねぇ」
と言いながら、俺はなんとなく美術関係の仕事に就くのだろうと考えていた。描く側でなくても、関連の会社に勤めるとか。
「……美術系かな」
「あ〜、立花やっぱそうなんだねぇ」
「横峯は?」
「僕は音楽系かなぁ」
「横峯らしくていいと思う」
「へへ」
こういう話はなんとなく照れくさい。ボリューム感のある雲が山の上に広がっている。近くに誰もいないことをいいことに、俺は横峯の手を握った。じんわりとした熱が伝わってくる。横峯がぴとっと体を寄せてくる。それからは無言で電車に揺られていた。
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