11 そう簡単に死なないのが植物
とりあえず植木さん谷さんの救出は後回しにして、というかここで後回しにしたらもう永遠に助けようがない気もするのだが、とにかく今は自分の命が大事だ、というところでレモンさんと納得し、脱出を図ることにした。
ヴィーガンガン●ムの威容を眺めつつ、僕とレモンさんは施設の中を進んでいく。ところどころ重力が発生していないところがあって、そういうところではフワァと浮かぶが、楽しんでいる場合ではないのだ。
この施設も、ヴィーガンガン●ムも、あきらかに地球人類の作ったものとしてはオーバーテクノロジーである。きっと植物質宇宙人を解剖し、技術を奪い、ここにこの建物を建てたのだ。
それは、傲慢なのではないだろうか。
進めども進めども続くキラキラのガラスの道を、レモンさんとドンドコドンドコ進む。どこかに脱出できる出口があると思っていたが、ぐるりと一周してしまったらしくさっきの拷問部屋の前に戻ってきた。
これはきっとワープとかそういうので移動するに違いない。なるほどオーバーテクノロジー。そんなことを考えて感心するも、よくよく考えたら拷問部屋の前に戻ってきた、というのはまずいのではあるまいか。
「見つけたわよ」
人気声優の声がして、藤村のおじさんにそっくりな紳士が現れた。着ているスーツのいたるところが緑色のシミになっている。ああ、これでは挿し木で復活された植木さんや谷さんがどうなったかは火を見るより明らかだ。
「こ、こんどこそ撃つからな!」
僕は拳銃を構えた。だがこういうボス的なひとが、射撃経験ほぼゼロの僕の威嚇射撃で怯むだろうか。
「あなたたちの記憶は何としても消さねばならない。覚悟なさい」
「そ、そっちこそ覚悟しろ! ほ、本気だぞ!」
どうにもへっぴり腰になりつつそう答える。ああ、植木さん、谷さん。あなたがたの尊い犠牲を無駄にしてしまったようです……。
完全に負ける気全開の僕の後ろで、レモンさんが指をポキポキやっていた。殴る気のようだ。こいつ、殴って倒せるのだろうか。
頑張って引き金に指をかける。
脇を締める。なるべく腕が上にいかないように、だ。
僕は平和主義者だ。こんなことはしたくない。のどかに花壇委員をやっていたかった。なんで僕が宇宙人をめぐる陰謀に巻き込まれねばならぬのか。
そうやって軽く走馬灯が回り始めたころ、なにやらガタガタと音がした。
「早く開けたまえよ! カズトくんたちが大変なことになってるじゃないか!」
「右腕一本で開けろっていうのが無茶なんですよ植木さん!」
紳士はギョッとした顔で拷問部屋のほうを見た。ドアが開いて、異形のクリーチャーとしか言いようのない植木さんと谷さんがノコノコと片腕で床をたぐって現れた。
「あんたたちは確かに殺したはずでは……!?」
「フゥーハハハハー!!!! 植物をナメてもらっちゃ困るよ! そう簡単に死なないのが植物!!」
「枯れても切り戻しすれば蘇るのが植物!!!! カピカピになっても水をやれば復活するのが植物!!!!」
「ウワーッ!!!! なにあのクリーチャー!!!!」
レモンさんが思いっきり叫んだ。しかし説明している暇はなかった。
2人はバビョンと片腕で飛び上がり、紳士を取り押さえた。そしてなにか糸のようなものを出して、紳士を床に縛りつけた。
「これは単分子ワイヤーだからね。人間には抵抗できない。よし! 出口まで案内しようじゃないか!」
というわけで僕が植木さんを、レモンさんが谷さんを抱え上げる。
「なんか……腕の生えた『ゆっ●り』みたい」
なぜレモンさんが某同人弾幕シューティングを知っているのか。いやユーチューブでそのキャラクターだけ出てくる動画いっぱいあるけど。
「出口、知ってるんです!?」
「いや? 大気の流れから推測しているだけだよ?」
アテにならないのであった。だがないよりはマシだ。
なお隣の、レモンさんが捕えられていたほうの拷問部屋の紳士たちについては、手刀が正確に首筋を撃ち抜いているので病院で手当てするレベルの怪我のまま倒れているらしい。極真空手恐るべし。
植木さんの腕が指し示す方向に向かう。見えないだけで結構複雑な通路が通っていた。なんで気づかなかったんだろう。
ようやっと出口らしいガラス張りのエレベーターにたどり着いた。レモンさんは「トリ●ラに出てくる軌道エレベーターだ!」と、スニー●ー文庫不朽の名作にして永遠の未完成作品の名前を出した。なんで令和の高校生の僕らが知ってるんじゃ。
軌道エレベーターというのはもっと退屈なものだと思っていたが、ヴィジュアルを重視したらしい。乗り込むとエレベーターはゆっくりと降下し始め、空中で止まった。僕はここで飛行機から降りたらしい。
困った、ここに飛行機がいないのでは帰りようがないではないか。
そう思ったとき、ふいに空が明るくなった。
巨大な宇宙船が接近している。あれはおそらく、植物質宇宙人たちの文明からやってきたものではないだろうか?
「ついに母星の船団が到着してしまった……この星の人たちはまだなにも知らないのに」
植木さんが呟く。確かにそれはその通りで、地球人は宇宙人と友好関係を結ぶ段階ではない。
きっと地上の地球人は、世界の終わりを感じているに違いない。僕だってそうだ。
「すごーい……劉●欣作品みたい」
レモンさんだけが、やたらと呑気なのであった。
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