8 都合のいいシェルター

 こりゃあえらいことになった。泣きたい。泣きたいが泣いていてもなんの解決にもならない。慌てて谷さんにタッチペンを持たせる。


「親戚の方は任せて メタルビーバーはああ見えて音に弱いからドンドンすれば逃げる」


 書いてる文章が長い。なんとか藤村のおじさんが強行突破するまえに書きおえて、僕は窓に急いでガラスを軽く叩いた。

 メタルビーバーたちはあっさりバラバラと逃げていった。藤村のおじさんが強行突破してきて、植えられている腕を見て唖然としているうちに、谷さんと植木さんは指先からモニョニョニョ〜ンと藤村のおじさんに光を当てた。藤村のおじさんはくるっと方向転換して帰っていった。

 無事になんとかなって大変安堵した。とりあえずメタルビーバーは音を出せば逃げるし、植物質宇宙人たちは以前と同じように戦える。しかしこのあいだのビームには光線銃があったのに指先から出せるのか。そこを突っ込んでタッチペンを持たせると、あれは雰囲気を出すための小道具、と書いてきた。小道具て。


 そう思っているうちにメタルビーバーがまた窓にへばりついてきた。ドンドンして追い払う。しかしあまりドンドンすると大家さんに怒られそうなのが難点だ。

 ここは改めて、ちゃんとした隠れ場所を探すべきかもしれない。ちょうど怪獣出現で学校も休みだ。メタルビーバーに侵入されず、藤村のおじさんや大家さんといった危険性のない隠れ場所をゆっくり探さねば。

 そういうわけでレモンさんにメッセージすると、少しして返信があった。


「うちの祖父の家に核シェルターがあるけど」


 なんでそんなもんがあるんだ。


「祖父が存命のうちにインターネットが普及したから、ワイファイもちゃんと飛んでるよ」


 だからなんでそんなものがあるんだ。とにかくメタルビーバーの動きがないうちに、レモンさんと二人でレモンさんの祖父の家に向かった。なにで移動したのかというと、レモンさんの祖父が雇っていたという運転手が来たのであった。


 ものすごい豪邸だった。ただちょっと山奥が過ぎる。

 その奥に、なにやら入り口のようなものがあって、どうやらこれが核シェルターらしい。


「祖父は怖がりだったから、冷戦のときにシェルターを建てたんだって。で、冷戦が終わってからもちょっとずつ機能を増やして、お気に入りの盆栽のためのライトとかも用意して」


 なんなんだその都合のいいシェルターは。とにかくありがたく盆栽用ライトの下にプランターを移動する。

 これでメタルビーバーも藤村のおじさんも心配しなくてよくなった。さて、どう動くべきか。


「とりあえず宇宙の種チャンネルで、宇宙人のことを公にしたらいいと思う」


「えっ、だってクラスのウェーイたちが見てるんだよ!?」


「クラスのウェーイに笑われないのと地球の平和、どっちが大事なの!?」


 そんなセカイ系はいやだ。なので、レモンさんも配信に出てくれるなら、ということで、宇宙の種チャンネルを収録した。


 宇宙の種チャンネルの名前の意味、これから起こること、宇宙人は危害を加えてくる気はないこと。だから共存していこう。そう発信する。

 アクセスカウンターが見たことのない勢いでぐるんぐるんしている。みんなきっと、宇宙から襲い来たメタルビーバーが怖かったのであろう。人型決戦兵器ヴィーガンガ●ダムが恐ろしかったのであろう。

 あっという間に再生回数100万を突破した。もはや宇宙の種チャンネルの発信することは、ただの陰謀論ではないようだった。

 コメント欄には、「正確な情報なのかはわからないけど日本人は見たほうがいい」みたいなコメントがドンドコついた。もはやウェーイたちも黙るほかあるまい。


 しかしそうやって盛り上がるとすぐ見つかってしまうわけで、300万再生を超えたあたりで動画は削除されてしまった。きっと有害な陰謀論である、と通報した人もいたのであろう。

 そのときはそう思っていた。


 レモンさんの祖父のシェルターの暮らしは快適だ。シャワーどころかバスタブまであるし、台所も冷蔵庫もでっかくて立派なやつが\ドーン/とある。食料はレモンさんの祖父の家で働いている女中さんに届けてもらっているが、どうも煮魚や野菜のおひたしなどメニューが年寄りっぽい。

 レモンさんの祖父は亡くなっているが祖母はご存命で、その祖母はすっかり認知症気味であり、親戚で顔を覚えているのはレモンさんだけなのだそうで、レモンさんがニコニコして近づけば女中さんを呼んで欲しいものをなんでも与えさせるというから闇が深い。

 そしてそんななかに居候している僕が申し訳ないのだった。


 そうやってのんびり暮らしながら、シェルター内の外を映すモニターをちらりと見ると、なにか庭の植え込みが動いた。

 んん? と拡大すると、なにかいるような気がした。きっと野良猫かなにかだろう。

 そう思っているとスマホが鳴った。メッセージアプリを開くと、レモンさんから「早くシェルターを出て! そのままだと危ない!」とメッセージが来ていた。

 揺れた植え込みの監視映像を見る。

 なにかいるようには見えないが、もしかしたらギリースーツをまとった兵士がいるのかもしれない。

 僕は諦めてシェルターを出た。案の定、ギリースーツを着た兵士が駆け寄ってきて、僕を拘束し、目隠しをして車に乗せた。どこの軍かはわからなかったが、自衛隊ではなさそうだった。

 どうなるんだ。ただただ不安であった。

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