4 予想外の反応
なんでユーチューバーなんていう、僕のキャラクターに合わない恥ずかしいことをしているのか、レモンさんは全くわからないようだった。
かといって宇宙人の話なんかしたら本格的にヤベェやつだと思われてしまう。
どん詰まりだ。僕はこう説明した。
「僕にも人並みの功名心とか有名になりたいって気持ちがあってさ……それでド根性植物探すチャンネルやってるんだ」
「へ、へえー……想像つかなかった……」
そりゃそうでしょうね。僕だってビックリしてるんだから。ほぼほぼ嘘だし。
だって宇宙人のプロパガンダをしないと、地球人がなにもしないうちに宇宙人がやってきて、砂漠やツンドラを埋めてしまうのだ、と説明したかった。でもレモンさんにヤベェやつだと思われたくなかったので、とりあえず何も、宇宙人については言及しなかった。
レモンさんは習い事に行く途中だったようで去っていった。僕はクソデカため息をついた。それでも収録を止めてはいけないので、街のド根性植物を探すのを再開する。
それなりの撮れ高が上がったので、アパートに帰って編集作業をする。もちろん植木さんと谷さんが手伝ってくれるのだが、二人ともパソコンやスマホをいじったことはない(仮面ラ●ダーの通信機みたいのは使える)ようで、いちいち僕に聞きながらやっている。お話にならない。僕ひとりでやったほうが早そうだ。
「なんで文明が進んだ星から来てるのにそんなに機械音痴なんですか」
「地球では車輪とか電力とかそういうものが発展したけど、我々の故郷は全て光合成で栄養も機械の動力もまかなっているからねえ。大規模演算システムだって光合成で動くものだし、スマホをもたなくてもテレパシーで会話できるし」
なるほど、進化や文明の発展の方向性が違ったらしい。それなら恒星が大変なことになって逃げてくるのも納得できることだ。
しかしそれはそれとして、どうして僕がこんなことをしているのだろうとイライラする。
とりあえず動画が仕上がった。宇宙の種チャンネルにUPすると、さっそく一つ再生された。見れば谷さんと植木さんが僕のパソコンを勝手に使って自分で再生回数のカウンターを回していた。
さて、再生回数がぜんぜん増えない宇宙の種チャンネルであったが、ある日なにやら最新の動画の再生回数が40回を超えた。
なにごとだ。嫌な予感を覚えつつ学校にいくと、みな僕の顔を見てざわついた。
陽キャのウェーイが近寄ってきて僕の背中をばちばち叩いた。痛い。ひ弱な体なので咳が出る。
「カズト、おまえユーチューバーやってんのかよ! すげーじゃん!!!!」
予想外の反応であった。
◇◇◇◇
どうやら僕をハブっていたグループメッセージで、宇宙の種チャンネルを広めて、みんなで見てくれたらしい。喜ぶべきことなのだが喜べない。
クラスの女子たちの哀れむような目がつらい。僕は好きこのんでド根性植物を探しているわけではない。その深い理由を説明したい。しかし説明したらもっとヤベェやつになってしまう。
学校の花壇にだばだばと水をやりながらクソデカため息をつく。クラスのやつらだけでなく他のクラスの生徒にも噂は広がっているらしく、なにやら哀れみの目で見られている。
「あ、あの、蓮沼くん、」
誰かが話しかけてきたので振り返ると、レモンさんだった。
「あ……ど、どうしたの?」
「蓮沼くん……なんでユーチューバーを始めたの? なにか理由がちゃんとあるんだよね?」
レモンさんは真剣な顔で聞いてきたので、僕はなるべく真剣な口調で、宇宙人の話をした。レモンさんはしばしポカンとしてから、少し考えた。
「蓮沼くんは嘘つくような人じゃない。わたしもそれ、信じる。なにか手伝えることがあったら言って」
「じゃ、じゃあ……とりあえずうちの宇宙人たちに会ってもらえないかな。一緒にやってくれる人がいるなら心強いと思うんだ、彼らも」
◇◇◇◇
というわけで僕のボロアパートにレモンさんを案内した。植木さんも谷さんもニッコニコだ。テーブルの上にはレモンパックが置かれている。共食いではないかと思ったが黙っておいた。
「あの! 植物質の、電力とか核とかを使わないガン●ムが作れるんですか!?」
レモンさんはいきなりそこをえぐってきた。植木さんは頷いた。
「ガン●ムもマジ●ガーZも大●神も作れるよ」
植木さんのロボ兵器のチョイスが古い。いや大●神は兵器じゃないな。
「しゅんごぉい……夢の人型兵器だぁ……」
「あのさ……レモンさんって、ガノタだったりするの? なんだか意外なんだけど」
「ガン●ムに限らずアニメはなんでも好きだよ? こう見えて同人誌即売会とかにも行くし」
同人誌即売会。コミケみたいなやつだ。
「特にSFが好きで、最近面白かったのはガ●ガ文庫の『ソリッド●テート・オーバー●イド』かな……もともとは筒井●隆とか星●一の児童向けから入って」
レモンさんは長々と己の読書遍歴を語った。なるほどオタクだった。こうやって明るく振る舞うからオタクのオーラは感じないが、口調の熱のこもりぶりはオタクとしか言いようがない。
「じゃあこの四人で頑張っていく、という方向でいいのかしら?」
谷さんが微笑む。
「ハイ!」
レモンさんが機嫌よく、かつ元気よく返事をした。どうやらレモンさんも相当まずいやつのようだった。
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