3 ゆーちゅーばー

 宇宙人こと植木さんは、真面目な顔をして、真面目くさった口調である。


「カズトくん。君に、我々とこの星の人間の橋渡し役をお願いしたいんだ。君は我々の中に住んでいる。適格ではないかな?」


「……はい?」


 そのりくつはおかしい、と頭の中の猫型ロボットが言う。

 単にアパートで部屋を挟まれているだけではないか。なぜそうなる? わけがわからない。


「だ、だって、宇宙から来るっていったって……植物型宇宙人っていっても住みよい地域は人間がみんな埋めちゃってるし」


「わたしたちとあなたがた地球人類ではハビタットが異なるの。わたしなんかがそうだけど、年に一度雨が降れば平気で生きていられるタイプの者もいる。あるいは極寒の永久凍土にこびりつける者もいる。そういう人たちが、たとえば人間の暮らしづらい砂漠や永久凍土を文明化することもできる」


「これは人間にとっても悪い話じゃないと思うよ、地球にはまだ活用されていない土地がたくさんたくさんある。そういうところにも我々は住めるんだ。ごらんの通り我々と地球人は意志の疎通ができるじゃないか。一緒に地球の文明を発達させようじゃないか」


「植物の星って、文明はどれくらい進んでるんですか? 天の川銀河から移民船を出せるくらいだから相当ですよね」


「そうだよ。君たちの大好きなガン●ムだって作れるよ」


 ガン●ム……。

 そこで一つ考えたことを訊ねる。


「ガン●ムみたいなすごい兵器を作れるってことは、地球人なんか完全に滅ぼせるということじゃないですか。なんで地球人を滅ぼさないんですか」


「我々は平和主義者なんだ」


「平和主義者がガン●ムを作りますかね」


「まあそれはものの例えってやつで」


「……わたしたちはこの星の植物に近いから、植物を傷つけるようなことはしたくないの。街に爆弾を落とせば木や草や苔だって滅びちゃうでしょ?」


「確かに……でも……それで百パーセント信頼しろっても無理がありますよ」


「ウーム相互理解への壁は大きいぞ!」


 いやあんたがガン●ムの話をしたからこじれてるんでしょうよ、というツッコミは脇に置いておく。

 谷さんがスマホ……にしては分厚いな。仮面ラ●ダーの通信手段であとからおもちゃになるやつみたいな、分厚くてごっついスマホのようなものを取り出す。


「わたしたちが、この星で言うところのロボット兵器のようなものを開発したのは、作業用なの。母星では戦争なんて一回も起きなかった。核兵器も国家間の緊張もなかった。みんな恒星の光を浴びて元気に暮らしてた」


 谷さんがスマホのようなものの画面を見せてくれた。

 端的に言おう、手塚治虫「火の鳥」に出てくる、人間が植物に成り果てたようなものが、わじゃわじゃと動いていた。

 あまりに不気味でヒッ、と声が出る。


「母星はむかしこんな感じだったの。でも恒星がだんだん強くなって、焼き尽くされてしまいそうになったから、作業用ロボット装置を使って脱出をはかった」


 まるっきし早●書房であった。


「地球が住みよいところだとわかったから、これからそう遠くないうちに移民船がくる。だから、カズトくんを広告塔にして、わたしたちのことをこの星の人たちに知らしめたいの」


 やはり無理があるのではないか。僕はそんなに綺麗な顔をしているわけでも背が高いわけではない。容姿は中の中だと思っている。そういうのは、もっと見目麗しい若者に頼んでほしいことを説明する。


「え、だって地球人ってみんな顔同じじゃない。眉毛があって目が二つあって、鼻があってそれには二つ穴が開いてて、口があって」


 そもそもこの人たちには地球人の美醜というものがわからないようだった。


「美醜がわからないのはわかりました。しかしなんで僕なんです。もっと権力とか影響力とかある人にお願いしてください」


「どうすればそういう人に接近できるのか、わからないんだよ。だって国会議事堂に殴り込みに行ったら捕まっちゃうし皇居だって天皇陛下に話を通しにいく! なんてことはできないわけで。逆に質問するけど、どうすれば権力や影響力が得られるんだい?」


「手っ取り早いのはユーチューバーにでもなることですかね」


「ゆーちゅーばー」

「ゆーちゅーばー」


 わからないらしかった。


 ◇◇◇◇


 藤村のおじさん撃退の件で植木さんと谷さんには借りが一つあるので、どうしてもやらねばならなくなってしまった。

 いやだ、すごくいやだ。僕は真っ当に暮らしたい。こんな訳のわからないことはしたくないのだ。


「おはようございます! 宇宙の種チャンネルのヒトリです! きょうも街のド根性植物を探しに行こうと思います!」


 なんでこうなっているのかさっぱり理解が及ばないのだが、僕は自撮り棒を持ち街ブラしてド根性植物を探していた。


 ユーチューバーになるならてめーらでなれ、と強く思うのだが、本人たちがスマホやパソコンを持っていなかった結果がこれである。無念。

 二人は遠くからワクワクした顔で僕を見ている。収録から編集してUPするわけだがその編集作業も僕がやる。なんて面倒な。


「……蓮沼くん? 蓮沼一人くんだよね?」


 誰かに声をかけられ振り返ると、それはクラスでいちばんかわいい女子、中島レモンさんだった。

 なんてところを見られてしまったんだ。僕は泣いて逃げ出したくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る