2 昭和の漫画に出てくるタイプ
こんなボロアパートではあるが、ちゃんと部屋ごとに台所はついている。
僕はボンヤリと、台所の一口しかないコンロで冷凍うどんを茹でていた。これにポーションタイプの明太子うどんのタレをかければ夕飯の出来上がりだ。
高校生の一人暮らしらしく貧しい食生活であるが、かのアニメ化もされたスニー●ー文庫の大傑作である某バイクラノベの主人公の食生活を思えばマシなほうではないだろうか。
それに、きょうはお惣菜のアジフライがある。完璧! 野菜はないが完璧! である。
アジフライをレンチンし、トレイのままソースをぶっかけ、明太子うどんをすすりつつアジフライをもぐもぐと食べていると、玄関ベルが鳴った。
どうせ藤村のおじさんだよな。いやだな。居留守使おうかな。そんなふうに考えていると、ドアがノックされた。
「おおーい少年一号〜」
なんだ、隣の紳士の植木さんじゃないか。いやそれはそれでいやだな。でもご近所付き合いは大事なので、夕飯をいったん中止して玄関に向かう。
「どうしたんですか植木さん。あ、谷さんもいるじゃないですか」
お姉さんもついてきたので、急に部屋に入れるハードルが下がった。
「ちょっと君に話したいことがある」
まさかヌーディストクラブへのお誘いではあるまいな。とにかくお姉さんこと谷さんもいるので、中に入れる。
「ズバリ単刀直入に言おう。我々は宇宙人だ」
え。
これならヌーディストクラブへのお誘いのほうがナンボかマシだった気がするぞ。警察? 救急車? 対応に悩んでいると、谷さんが僕の手をつかんだ。思ったより冷たい。
「本当なの。うそだと思ってると思うけど……我々は天の川銀河のとある惑星から、生息域を広げるべく宇宙に拡散された『種』なの」
「いやだなあ急に小松●京SF始めないでくださいよ。で、どうしたんですか」
「いま地球の人口の2パーセントが、我々『種』だ」
種、って、なんかそういうロボットアニメの劇場版が大ヒットしていたはずだが、しかし僕はその作品の世代ではない。というか若者の大半が世代でないと思う。そんなことを考えて、現実に戻ってくる。
そのあと二人の話を聞いてみると、どうやらこの人たちは『種』と呼ばれるカプセル状の形態となって故郷を離れ、住むことのできそうな惑星に着陸するとそこで『発芽』して、その星で一番広く生息する生き物の姿を取るのだという。そして、その『種』から生まれた人間が、いま地球人類の中でも一大勢力となっているとかいないとか。
にわかに信じがたい話であった。
「この地球は我々にとって一番暮らしやすい星だ。故郷の星に気候が近いんだよ。で、近々大移民団が故郷を発つ。いやもう発っているはずだ」
話を聞いていると、どうやらこの宇宙人たちは地球を侵略しようとしているようだった。冗談はよしこさんだ。そんな簡単に侵略されてたまるものか。
しかしその件についてはすでにアメリカの国防総省にバレていて、移民団が到着する前に、地球人の首脳との話し合いを行いたいということだった。そしてその段階を踏んでから宇宙人の存在は一般に公開されるべきで、だれもがこの隣人の存在を知るようになってから、移民団が到着するのがベストのタイミングだろう、と植木さんは語った。
ぜんぶ希望の形なのは、悲しいことに宇宙人たちはまだ権力に繋がっていないからだそうだ。まあそこはなんとかなるだろうと谷さんが言う。
「権力に繋がれないのはともかく、いま地球って食べ物とかめっちゃ足りないですよ。穀倉地帯で戦争やってたりするんで」
「わたしたちには水と光があれば問題ないの。植物と似たようなものだと思ってもらえれば」
なるほど、と納得しかけていやいやとなる。
そんなSFみたいな話があるか。しかもずいぶんとありきたりだ。
「それだけだとすぐは信じられないです」
「ウーム。きょう私が日光浴をしていたのを見たね?」
「気づいてたンスか!?」
気付いていたならせめて前を隠せ! と思った。
「で、これがもう一つの証拠」
紳士こと植木さんは自分の手の甲に爪を立てた。まるでネギの皮でも剥くようにぺろりと剥がれ、血ではなく水がにじんでいる。
どうやら本当に植物らしかった。頭痛がする。
食べかけのアジフライとうどんの向こうに二人の顔を見て、いったいこいつらの目的はなんなんだ? と思っていたら、ドアが激しく叩かれた。
「おい! カズト! いるんだろ!? 出てこい!」
酒でひどく焼けた声だった。藤村のおじさんである。この人は名目上僕の保護者になっている親戚で、あまりに僕の扱いが酷いのでおばさんがそっと僕を逃してくれたのだ。
しかし中3のとき、もろもろの進学の書類を書かねばならずおばさんのところに行ったところ見事に見つかってしまい、住所を把握されてしまった。それでときどきこうやって訪ねてきては、僕を連れ戻そうとする。
それはそれで、保護者としては正しいのだとは思う。ただやり方が正しくないのだ。
スチャッ、と、漫画で拳銃を取り出したときのような音がした。なんと植木さんと谷さんが、昭和の漫画に出てくるタイプの光線銃を構えている。
「出てこないなら勝手に開けるからな!?」
藤村のおじさんは勝手にドアを開けて入ってきた。植木さんと谷さんは遠慮なく光線銃の引き金を引く。思っていたのとだいぶ違う、モヨモヨした光線が発射され、藤村のおじさんはモヨモヨと浮かび上がった。
ぷしゅう、と空気が抜けたような音がして、藤村のおじさんはへたり込んだ。そこに谷さんが近づいて、なにやら二言三言ささやくと、藤村のおじさんはふらふらと帰っていった。
なんだったんだ……。
宇宙人二人の話は、ここからが本題のようだった。
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