第4話 事情聴取と真実
目の前にはいるのは、右手に長剣、左手に大盾を持ち、大きくⅡと書かれた豪華なプレートアーマーを装備している騎士さん。彼が団長なのか、後ろには部下らしき騎士が10人ほど控えている。
私と彼らの間にあるのは、絶命した3人の騎士の遺体。
…完全に犯罪者が警察に追い詰められている構図である。これはやばい。
私より二回りほど大きい団長さんは、困惑と怒りとが混ざったような表情で私を見詰めている。
「これは……あなたがやったのか?」
「ええ…まぁ、はい。そうですね」
後ろの騎士たちからの煩い視線を無視しつつとりあえず答えると、団長さんが驚きの表情を露わにした。
そうして、鋭い視線と共に、右手の長剣を私に向けてきた。
…でもちょっと待って欲しい。言い訳させてほしい。
「あ、あのちょっと待ってください。私は別にこうしたくてこうなったわけじゃなくて、この人たちに乱暴されそうになったからであって…、そうだ!見てください!この人たち、下半身に防具がないじゃないですか。そういうことなんです。だからしょうがないというか不可抗力といいますか…。」
「……」
「それにこの人たち…多分私が初めてじゃなくて、色んな人たちに同じようなことをしてたと思いますよ。それはよくないんじゃないかって。」
私の早口による誠意か抗議かが伝わったのか分からないが、目の前の彼は一瞬苦い表情を浮かべ、私に向けている長剣をそのままに話し始めた。
「あなたのその身なりからして、ここらへんの人間ではないはずだ。どこからきた。」
「えっと、それは……。す、すごく遠いところからです。旅に出たんですけど、この森の中で迷いまして…」
馬鹿正直に『異世界から来ました!』って言うわけにはいけないから、適当に濁して伝えた。正直何にも考えてなかったから内心ヒヤヒヤしている。どうか掘り下げないで欲しい…。
「…まあいい。それに、この国について何も知らないようだからな。」
私の願いが通じたのか、これ以上掘り下げることはせずに暫く沈黙した後、目の前に転がる3人の遺体に目を向け、口を開いた。
「あなたが殺したのは、我々が所属するクルセイドア王国所属の第一騎士団の騎士だ。プレートにⅠと書かれているのが分かるだろう。…そして、第一騎士団は、我々第二騎士団と違い、その所属騎士はみな高貴な身分から成っている。」
「それって…」
「そうだな。貴族といった方が分かりやすいかもしれないな。」
…つくづく運が悪いと思う。普通、こういうのってせいぜい下級騎士とか、盗賊とかでしたってオチなんじゃないのかなぁ。よりによって貴族でしたって。これからさらに面倒事が待ち構えてますって言っているようなものでしょ…。わたしはただ、平穏に過ごしたいだけなのに…。
「それじゃあ、私はこれからどうなるんですか。」
心の中でため息をつきながら、とりあえず団長さんにこれからどうするつもりか聞いてみることにした。だからといって実直に従うつもりもないけれど。
「高貴な身分を持つ方々を傷つけることは、この国では重罪に当たる。殺害なんて持っての他だ。このままあなたを連行して逮捕すれば、生ぬるい処罰ではすまないだろうな。最終的には、死罪は免れないだろう。」
「彼らがやってきたことに罪はないってことですか?」
「……高貴な身分とは、そういうものだ。」
団長さんは、私の質問に淡々と答える。私への敵意はそのままに、ただその表情が一瞬苦しげに歪められたのを見逃さなかった。
「それで……、私を連行しますか?」
「………いや、あなたをこのまま連行すれば、この先ひどい仕打ちが待っているだろう。だから……」
その瞬間、団長さんから強烈な殺気を感じ、2、3歩下がりながら身構えた。
団長さんの気配から察したのか、後ろにいた部下らしき騎士たちも武器を構えている。
…え、結局戦うことになるの?いまのは見逃してくれる流れじゃなかったの?
私の目の前には、私に対して武器を構える屈強な11人の騎士。しかもそのうち団長さんだけは、他の騎士とは比較にならないほど強い気配がする。どっからどう見ても絶体絶命な光景だが、またしても不思議と不安や恐怖は感じなかった。それに、負ける気もしない。
……………私の思い上がりとかじゃないよね。嫌だよ、実際戦ったら瞬殺されるとか。大丈夫だよね?
ちょっとした不安はあった。
「第一騎士団の騎士三人を殺害した罪で……現行犯としてここであなたを”殺害”する。」
なるほど、私を国に連行すれば何されるか分からないから、ここで楽にしてあげようってことか。…団長さんなりの優しさなんだろう、きっと。
まあ、素直に従うつもりはないけどね。
団長さんは私が素直に従うつもりがないことを察してか、その大きな体と重そうな装備に似つかわない速さで急接近し、私の首を狙って長剣をふるう。
その剣が私に触れる直前に、左手に氷の剣を作り出し、迫りくる剣を私の首との間に挟みこんで受け止める。
「…っ!?」
まさか自分の剣が防がれると思っていなかったからなのか、団長さんが僅かにその目を見開いて一瞬動きを止めた隙に、右手に作りだした氷の剣を6割ほどの力で投げつける。
団長さんは私の右手に持つ剣に気が付き、すぐに後ろに下がりながら、左手に持つ大盾を構えて飛んでくる氷の剣を防ごうとする。
「ぐっ…!」
氷の剣がその盾に当たった瞬間、大きな衝撃音と共に苦悶に呻く声をあげながら数歩後退していった。
……全力じゃなくてよかった。ムカデで巨木を粉砕した前科があるから、本気はやばいと思ってはいたけど…。
私は団長さんを殺したいわけではない。嫌いではないし、まあ別に好きでもないんだけど、先ほどの貴族の話で見せた苦い表情から、なんとなく悪い人でもないんだろうなとは思っていた。そんな人を殺そうとするのは良心が痛むし、それにここで団長さんまで殺してしまってはこの先もっと取返しのつかないことになる、と私の本能が警告している…気がする。すでに戦ってはいるが…まあ、なんとかなるだろう。きっと。
そもそも、私は少し前まで死とはほぼ無縁の世界にいたから…。この世界の野蛮さに、まだまだ慣れていない。
そんなことをぼんやりと考えていると、さすが団長というべきか、すぐに体制を立て直して構えた盾のまま近づいてバッシュしてきた。
下から突き上げるようにして私に向かってくる大盾に対して、敢えて近づいてその盾に足を乗せ、盾が突き上がると同時に盾を蹴り上げて空中に飛び上がった。
うん、今のはアクション映画みたいでかっこよかった……じゃなかった。空中で一回転しながら、両手に作り出した氷の剣を団長さんの足元に向かって全力で投げつけた。
二つの剣が地面にぶつかった瞬間、先ほどとはくらべものにならないほどの爆音と衝撃波と共に、団長さんとその部下の周囲に砂煙が巻き起こる。
そうして視界が遮られたと同時に、私はこの場から離れた。
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「アロン団長、大丈夫ですか!?」
ものすごい衝撃に耐え、目を開けると、砂煙と同時に先ほどまで戦っていた少女が消え、私の下に部下たちが駆け寄ってきた。
「ああ、問題ない。」
私の目の前には、投げつけられた氷の剣によって地面が大きくえぐられており、その威力を物語っている。
「あの少女の後を追いますか?」
「…いや、やめておこう。このまま追って戦ったとしても、我々が全滅しかねない。」
私の言葉に、部下たちの間で動揺が走った。彼らもあの謎の少女の異常性は感じ取っていたとは思うが、まともな装備すら身に付けていない少女に対して、私の口から全滅という言葉が出るほどだと思っていなかったのだろう。
「それは…団長でも勝てないということですか。」
「……あの少女はあまりにも未知数だということだ。国に報告するのが先だろう。」
団長たるもの、部下を不安にさせるようなことは言うべきではないと分かっていたが、それでもあの少女と戦ったあとでは、消極的なことを言わざるを得なかった。
「あの力に身のこなし、それに氷……。」
突如現れた謎の少女に、これからの国の波乱を予感せずにはいられなかった。
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