第3話 異世界のテンプレですか?

顔に何か擽ったさを感じ、意識がぼんやりと覚醒してくる。目を開けば視界いっぱいに生い茂った緑が映り、その隙間から溢れる木漏れ日に思わず目を細めた。


そうしている間にも頬に伝わってくる感覚に違和感を覚えて、半ば無意識のうちにその違和感を掴み、目の前に翳して見る。

”それ”は30センチほどのムカデだった。紫色の。


「っっっ!!」


ぼやけていた意識で”それ”を認識した瞬間、声にならない悲鳴をあげながら、一瞬のうちに寝そべっていた体を起こし、脊髄反射で思いっきり投げ飛ばした。


するとコンマ数秒後、投げた”それ”が巨木にぶつかり、大きな爆音を轟かせながら倒れていった。


…そうだ、ここはみんな投擲力が強くて、ムカデでも頑張れば大きな木を倒せるような世界線なのだろう。きっとそうに違いない。うん。




………まあ現実逃避はこれくらいにして、無事に転生したみたいなので、改めて辺りを見渡すことにした。周囲は木々で覆われており、いくら遠くを見渡してもこの森の終わりは見えない。私の異世界生活は森の中からのスタートみたいです。


しばらく森の中を歩き、先ほど倒した巨木に近づいて見てみると、地面にその木の破片が散らばっており、倒れている木の全長はおよそ15メートル程に思えた。


…改めて見てみると、とんでもないことをしていたらしい。先ほどのも、ルナさんがいっていた”特別”の内の一つなのだろうか…。



そういえば…………異世界転生モノと言えば、”ステータス”だろう。そこまで異世界転生モノに詳しいわけではなく、流行りのアニメしか見てない私でもわかる。こういう世界では、大体LvとかHPとか言われるものがあるに違いない。


ということで、


「す、ステータス!……あれ?」


……実際に声に出して言うのはちょっと恥ずかしかったというのはひとまず置いといて、何かしら変化があると思っていたのだけれど、実際には何にも現れなかった。


その後も色んな言い方をしてみたが、結果は変わらず。ただ恥ずかしい思いをしただけだった。もしかしたらこの世界にはステータスの概念がないのかもしれない。そこのところも、これから調べないとね。



「とりあえず、町とか、人のいるところを目指そう」


まずは人に会って話を聞かないと何も始まらないから、人の居そうなところを目指すことにした。こんな森の中でずっと生きていくわけにはいかないし、そもそも私は少し前まで一般女子高生だったので、サバイバルスキルなんて露ほどもないですから。



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突然だけど、私は今まで自分の不幸体質を軽視したことは無いし、常に頭の片隅で考えながら生きてきたといっても過言ではない。


それはこの世界にも来ても同じだった。人里を求めて歩き回っている間も、何か凶暴な動物が襲ってこないかを警戒していたし、そのために投げつける用の小石を持っていた。先ほどのムカデの件を考えれば、小石でも投げれば逃げる時間を稼ぐにはには十分かなと思っていた。


しかし、私は今、改めて自身が不幸体質だということを再確認している。



「おいおい、誰かいるのかと思って見てみれば、すげえ美少女な嬢ちゃんじゃねぇか。」


「見慣れない身なりだが、どっか遠くから来たのか?まあ、今日は"これ"でいいな」


森の中で彷徨うこと数十分、目の前にいるのは、いかにも悪人っぽいセリフを吐きながら、にやにやしている男3人組。騎士なのか、片手には煌びやかな装飾が施された直剣を持っており、小さくⅠと刻まれたプレートアーマーを上半身に装備している。下半身に無いのは…そういうことだろう。


…あぁ、異世界っぽいとはいえども、やはり気持ち悪い…。私に向けられる下卑た視線に辟易としつつ、とりあえず質問することにした。


「あの、どちら様ですか。」


「ああ?知らねぇってことは、やっぱりどっか遠くから来たか、親にでも捨てられたのか?まあいい、特別に教えてやろう。俺らは見ての通り、偉ーい偉い"騎士様"ってわけだ。」


「お嬢ちゃん、運が悪かったなあ。悪いが、ちょっとこれから相手してくれよ。まあまあ安心しろ、乱暴にはしないからよ。まぁでも、痛いかもしれないが。へへっ!」


…まさに悪役のテンプレみたいなセリフを吐きながら近づいてくる3人組を、私はただ見つめていた。さて、どうしようか…


「おお、逃げないのか?。それとも怖くて動けないってか。へへっ、これは好都合だなあ。」


明らかに自分より体格がよく、しかも武器も持っている3人を前にしても、不思議と恐怖は感じなかった。それは、目の前の3人衆があまりにもテンプレすぎるのか、はたまた別のせいのかは分からないが、今の私の脳内は、この状況をどうするかということだけだった。


ー戦うか、逃げるか。



…あれ……私今、戦うって考えてた…?それに、殺すことに抵抗感を覚えなかったし、しかも当たり前に勝てるって思ってるし…。


自分なようで、自分じゃないような不思議な感覚に戸惑っていると、こちらへ歩いてきていた男がついに私に手を伸ばしてきた。


…ここで逃げるか、戦うか…。


目の前の男が手を伸ばしている数コンマの間、私は思考を巡らせて…


ーまあ、なんとかなるよね。


私の脳内での審議の結果、本能に従うことにした。きっとこの男たちは、いままでもいろんな女の子たちに乱暴してきたのだろうということへの怒りに。ここで戦っても、なんとかなるだろう。私は楽観主義なのです。


「さぁてと、…っ!」


男の手が私に触れる直前、その手を上半身を捩って回避すると同時に、右手に氷の剣を作り、男が認識できない速さでその首を刎ね飛ばした。


「おい、なにがー…っ!」


予想だにしなかっただろう光景に驚き硬直している2人の男のうち、片方に急接近してその首をまた刎ね飛ばす。


それと同時に最後の1人が動く前に、持っている氷の剣をノールックで投げつけ、男の喉元に突き刺さった。



…目の前には絶命した男3人の遺体。……うん、私、やはり戦える系女の子だったみたいです。


それにしても、さっきのスピードといい、氷の剣といい…自分でもよくわからないことが多すぎる。戦おうと思ったら、当たり前のように体を動かすことが出来たし、悪人だったとはいえ命を奪うことに対する恐怖も感じなかったし…どういうことなんだろう。



ー考えたいこと、調べたいことはたくさんあるけど、まずは目の前の遺体たちをどうにかしないと。私は別に犯罪者になりたいわけではないし、むしろこの世界では平穏に暮らしたい。


幸い、ここは深い森の中。何十分も彷徨って全然人に会わなかったのだから、きっとそうに違いない。誰かに見つかる前に、遺体をどこかに隠して……




「止まれ!動くな!!」



………なんでちょうど今見つかるんですかね。


……………そうでした。私、不幸体質でした。





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