第2話 転生します

「あの、なんで私は抱きしめられていたんですかね……」


先ほどのセクハラ発言を謝罪しつつ、気になっていたことを聞くことにした。最初の質問がそれかよ、と思った人がいるかもしれないが、気になったんだからしょうがない。


私の質問に、目の前の彼女は何故か答えにくそうにしつつも、教えてくれた。



「え、えっとね…、最初は普通に起こそうと思ってね、声をかけてたんだけど、全然起きないから………そ、その………」


「……?」


「ど、どうしようかなって思っていた時に、思い出したの。ソーちゃ、私の友達がね、私の胸がもはやだって言ってたから、それで、その……………

はい…抱き締めました……」


「…………???」


…うーん、なんだ、ちょっと変わった人なのかな…。起きないからと言って、おっぱいを武器にして圧迫させて起こそうとする発想に至るとは…。まあ、起きなかった私が悪いから、いいんだけどね……。


確かに彼女のそれは暴力的な大きさをしている。対して私は……普通だ。こればかりは比較対象が悪い。それに大きいことはいいことばかりではないからね。


それに、まぁ可愛い女性に抱きしめられて、満更でもなかったということは否定しない。


「それに、そ、その…、君の寝顔がかわいくて、ついぎゅってしたくなった、ていうのも、あ、あるんです……」


………ん、か、かわいい…。こちらをちらちらと見ながら、頬を赤らめて控えめに言うものだから、不覚にもドキッとしてしまった。


「あの…はい。……私も嬉しかったですよ、なんて…」


「そ、そっか………」



……え、なにこれ。なんの時間?


なんとなく気まずいような時間が暫く流れていたが、このままではいけないと思い、聞きたいことを聞くことにした。




「えっとね、私はルナっていって、その…この世界の神様っていったら伝わるかな…?」


とりあえず名前から聞いてみると、どうやら彼女はルナさんで、この世界の神様とやららしい。


……うん、やっぱり彼女は神様だったらしい。まあ、なんとなくそうじゃないかなとは思っていたけど。というかこれ、最初に聞くべきだったね。反省反省。



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そうして、なんだか仲良くなったルナさん(ルナ様って呼んだ方がいいかと思っていたけど、何故か嫌みたいなのでやめた)と暫く話していると、ここが”神域”と呼ばれる場所で、私はこれから別の世界に”転生”するということを教えてくれた。


「その世界はね、私が管理している世界の一つなんだよ。」


「へぇー、やっぱりルナさんってすごい神様なんだね~」


「えへへ…ありがと…」


転生先の世界はいかにもなファンタジーな世界で、ルナさんが管理しているらしい。

話していて分かったことだけど、彼女は神様の中でもかなり偉い神様みたい。…なんだか人見知りな彼女を見ていると、そんな感じはしないけど…。



…そういえば、私の知っている転生モノといえば、転生前に種族を選んだり、なにかすごい能力を貰ったりするのが定石だと思うんだけど、どうなんだろう。そう思って聞いてみると、


「……えっとね、本来ならそうなんだけど、鈴ちゃんの場合は選べないんだ…えっと、その…、ごめんね……期待してたかな……」


「あ、そうなんだ…」


なんと。私にはそういうのは無いみたいだ。正直、期待してた部分もあるにはあるので、残念ではあるのだが……


「えっと…他の人にはあるんだよね?……私、すぐ死なない?大丈夫?生き残れるのかな…」


私がチートを貰えない落ちこぼれだった事はともかくとして、転生先の世界は日本みたいに平和な世界ではないだろうから、転生したはいいものの直ぐにぽっくり死んだりしないのかは心配だった。


そう思って聞いてみると、彼女は少し慌てたような素振りを見せた。


「そ、その、選べないっていうのは、鈴ちゃんが落ちこぼれだからとかっていうわけじゃなくて、むしろ、その逆なの」


「ん?逆ってどういうこと?」


「鈴ちゃんはね、特別な子だから…、みんなに与えるような能力なんか無くても大丈夫なんだよ…。だ、だから安心して……?」


どうやら私は落ちこぼれではなく、むしろ特別な子だったらしい。ただ、みんなが貰っているような能力がなくても大丈夫って、どういうことだろう…。


私の”特別”が何なのかについて聞こうとしたけれど、目の前の彼女は申し訳なさそうにしつつも、教えてはくれなかった。ただ、私が心配しているようなことはないから大丈夫だと言っていた。


……まあ、神様が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫なんだろう。そう楽観的に結論づけて、深く考えないことにした。


ルナさんは私の反応に安心したのか、ほっとした表情を浮かべて、しばらく私との世間話に花を咲かした。


彼女はソーちゃんという友人以外に話しをする相手がほとんどいないらしく、とても楽しそうに私と話していた。楽しいを全面に出してうれしそうに話す彼女は、正直めちゃくちゃかわいかった。





そうしてルナさんとしばらく話をした後、不意に彼女が、ぽん、と手を叩いた。


「じゃあ、そろそろ鈴ちゃんをあっちの世界に送らないと…。準備は大丈夫そうかな?」


そろそろ時間が来たみたいだ。できることならずっとここにいたいけど、そうにもいかない。


「えーと、大丈夫だと思うけど…、なんか準備するものあるのかな?」


「んー…心の準備、的な?」


………暫く話していて思ったけれど、この神様も私と同じくらい適当なところがあるよね…。


「よし、それじゃあ目を閉じてね…。」


「……はい。」


そういうルナさんは、明らかに”悲しいです”といわんばかりの表情を全面に出して、その綺麗な瞳を潤ませている。


…なんだか、すごく悪いことをしている気分だ。それに、私も彼女との会話は楽しく、心地いい時間だったから名残惜しくはある。ただ、私はなんとなくだけど確信していた。


”また会える”と。



目を閉じてしばらくすると、彼女からの抱擁を感じた。最初に起こされたときのような圧迫感は無く、ただひたすらに優しい抱擁だった。




「………これからこの先、きっと色んな出来事があると思う。けど、そんなときは自分に問いかけて、その”心”に従いなさい。そうすれば、きっと大丈夫。あなたの選択は、神である私が保障する。そうすれば……」


先ほどまでの彼女とは違い、神様らしい威厳さを持って語り掛ける。そんな彼女の言葉を聞きながら、転生に備え………







「あなたのその”不幸体質”にも、必ず打ち勝つことができるよ。新しい世界で、あなたに幸多からんことを。」





…………異世界でも私の体質は引き継がれることが確定しました。



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