第1話 はじめまして
不意にまぶしさを感じて目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。辺りを見渡すと、四方の壁はどこも汚れ一つない真っ白さで、この部屋には私が座っている椅子以外には何もない、まさに「殺風景」を具現化したような空間だった。
ーとりあえず落ち着いて状況を整理しよう、そうしよう。
えーと、バイトが終わって家に帰っていて、そしたら途中で暴走トラックを見つけて、でなんだかんだで知らないお姉さんを助けようとして……それで……………ここどこ?
状況を整理しようとしたはいいものの、結局ここがどこで、なんでいるのかもよくわからなかった。ただトラックにひかれたことを考えると、もしかしたらここは死後の世界とやらかもしれない。
……そうか、私たぶん死んじゃったんだ…。
この短時間での考えの末、なんとなく自分は死んじゃったのではないかということに気が付いた。そう分かると、漠然と悲しい気持ちが湧き上がってくるが、不思議と涙は出てこなかった。
そうしてしばらく、両親や友人たちに思いを馳せることにした。もうきっと会えないから。悲しいけど心の整理をしないと、ずっと引きずらないためにも。
------------------------------------------------------------------------------------------------
「…」
「……」
「…………え、いつまでここにいればいいの??誰も来ないんだけど…。」
そう一人つぶやくけれど、どこからも返事はない。ここは家具とかが何もないから、自分の声がよく反響してくる。ちょっと面白い。それでもこの空間に来てから、どれほど時間が経ったかはわかんないけど、だんだん眠くなってくるくらいには退屈してきた。
せめて暇つぶしできるような何かがあればいいんだけど、あいにくここには今座っている椅子以外なにもない。……椅子を使った暇つぶし術、急募します。
…ところで、この空間についてだけど、私が目を覚ましてからずっとあることを感じていた。それはこの空間が何となく心地よくて、落ち着くということ。なんだか久しぶりに、遠方のおばあちゃんの家に行った時の安心感というか、そんな感じがこの空間にはあった。
なぜ急にこんな話をしたのか。だれも来ないし、何もなくて”退屈”。そして同時に”心地よくて、落ち着く”。
この二つのことから導き出されるのは、そう。
「……おやすみなさい…」
私は寝ることにした。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
……しばらく寝ていると、つん、つん、と控えめな強さで誰かに私の頬っぺたをつつかれた。それは規則的に、かつ心地のいい強さだったため、そうしてさらに深い眠りにつこうとして…………
「…え、あ、あの……、さすがにそろそろ起きてほしいな、なんて…………」
微睡のなかで、誰かの声が聞こえてきた。とても優しげな声で、それがまるで子守歌のように感じて……さらに眠く……………
「え、あれ、この状況でさらに寝ようとすることある…?ど、どうしよう…………。お、おーい、起きてー……。……だ、だめだ、全然起きない、というかさっきよりもさらにぐっすりになっちゃった。………寝顔もかわいい…、じゃなくて…!」
「すぅ、すぅ………んん……」
「お、起きない……。えと、でも、そろそろ起きてくれなきゃ……。……しょ、しょうがない、ごめんね……。……えいっ…………!」
「……っ!!、ん、んん、、んんんー!!!」
何か喋っていると思ったら、にわかに何か甘い香りが漂ってきたと同時に、急に息が出来なくなってしまった。びっくりして目を覚ますと、やわらかいながらも弾力のあるようなものが頭に押しつけられていることに気が付いた。…え?なんで?
…どうやら、私は何故かいま抱きしめられているらしい。疑問に思うことはたくさんあるけど、まずはここから抜け出すことを最優先しないといけない。…そろそろ息が苦しくて限界だから。
「んぐ!んんーん!!」
彼女のもはや暴力的ともいえる胸のせいで全く喋ることができないため、背中をトントンと叩いて、起きていることをアピールする。
何度か叩くと、彼女は私が起きたことに気が付いたのか、急いでその身を引いた。
…正直マジで危なかったから、助かった。
「あ、お、起きた!…く、苦しかったよね、ごめんね……。」
「っはぁ、…はぁ、はぁ、………死ぬかと思った…。」
とりあえず窒息死からは解放されたので、一安心しながら、呼吸を整える。
だいぶ落ち着いてきたと同時に、目の前の女性が私のことをじっと見つめていることに気が付いた。彼女は、先ほどの窒息死未遂のことがあったからか、申し訳なさそうに私に対して伏し目がちに視線を送っている。
「え、えっと、はじめまして?」
「は、はい、はじめまして…」
「……」
「……」
……………き、気まずい…。目の前の彼女は人見知りなのか、何もしゃべらずオロオロとしているけど、それでもなんだかすごそうな人だということはわかる。
と、とりあえず何か会話を…………何か…………
「あ、あの、………………………すごいおっぱいですね」
「……っ!?」
あ…………失敗したかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます