第五話 姉弟
東京・地下研究施設・トレーニングルーム。
「ふん!」
回し蹴り、からの裏拳、すかさずローキックを女性、虹目魚眼。
そして難なく受け流す、モノクルを着けた男、
「そこまで」
「はあ……はあ」
「いい動きです、『拍内焼』も慣れてきましたね」
「やっぱり、この時は武器は使わず、肉弾戦の方が良いですよね」
「はい」
突然、ドアがカシャッと開き、女性が紙の入ったファイルを持って入ってくる。
「邪魔して、悪いな」
女性の名は
「いえいえ」
「どうしました?」
「これから、会議だ。『七つの大罪』復活に向けて、な」
「「!!」」
会議室。
「全員揃ったな、それでは会議を始める」
進行役の
「あー、遮って悪いが、復活するのは、どの悪魔だ」
水崎が前のめりになり問う。
「……『暴食』ベルゼブブ・グラトニー」
「「!!!!」」
「ありがとう」
「分かった」
水崎の隣に座っていた男は立ち上がり、出ようとする。
「待ちなさい」
「『暴食』は俺の部隊が対処すると決めただろう」
傷だらけの男は鋭い目つきで水崎を睨む。
「あの
「良いですか?」
「なんだ、虹目家の長女」
「確かに貴方が『暴食』に対応します。ですが、相手の実力が分からない、なら充分以上の準備が必要だと思います。そこで、部隊の増員を提案します」
「…………なるほど。ではお前の部隊から何人か借りるとしよう」
「分かりました」
「では」
男は会議室を出ていく。
男の名は
「まだ、なにも話してないのに……」
人挙はしょんぼりと俯く。
「全くあの男は……」
秤は溜息を吐く。
「あとで言っときますから、続けて」
「はい! 『暴食』の復活場所は世田谷区……日にちは」
「待って、もっと正確な位置は?」
「……分かりません、分かることは世田谷区の高所であることだけです」
「……わ、分かった」
後味悪そうに、苦しい顔をしながら魚眼は席に戻る。
「日にちは、9月20日12時、誤差三十分前後となります。ちょうど、1ヶ月後ですね」
人挙はペコリと頭を下げ、下がる。
「部隊編成と作戦は後日連絡する。以上! 解散」
「隊長、誰が行くとか決めてるんですか?」
昴は伸びをしながら、帰りの支度をする魚眼に聞く。
「ええ、あなたと私の弟、そして――良太くん」
「ああ、『壮腕』の」
「今は私の実家で特訓中。……うまくやってるといいけど」
虹目家・道場。
「14……15……16……17……18……19……20」
道場の隅で良太は木刀を振っていた。
――くそぉ、早く戦いてぇ。
「今は駄目ですって!」
「知るか!」
外から男女の話し声が聞こえる。
――騒がしい、朝っぱらから。
道場の戸がガラガラと開き、メガネをかけた男が入ってくる。
――なんだあいつ、昨日居たか?
「スゥ……罪前寺良太ァ!」
「ああ!?」
「お前か、来い」
二人は歩み寄り距離を詰めて向かい合う。
「姉さんが男を連れてきたと聞いて、来てみれば、こんな奴か……」
「ごめんね、止めたんだけど」
憲子は手を合わせ、頭を下げる。
「名乗れよ」
「俺の名は
「ほーん」
良太は持っていた木刀で陽月の首を打つ。
衝撃でメガネが外れる。
「やりやがった!!」
「マジかよあの野郎ッ」
「やりやがったッ!!」
陽月はキッと良太を下から睨む。
「『
トントントントントントンッと道場の屋根を雨粒が打つ。
やがて雨漏りが始まり、道場に一つ漏った雨粒は光を反射する。
その光が光線となって、良太の右手を貫いた。
カランと木刀が手から落ちる。
「俺は『眼天の闢者』、朝は『雨照』、夜は『月嘉』を使える」
「そうかよ」
良太は腕から『昇光』を放つ。
「外でやって! 外で!」
二人は外に場を移す。
「『壮腕・刀骨』」
「ほう」
「こいつの名は『
――結構カッコいいだろ、これは決まったな。
「ふーん」
「だろう! って……何だその反応!」
「別に」
「何だと、このノッポメガネ」
「五月蝿い、さっさと始めよう」
「おう」
良太の拳は陽月の顔に向かって、振られる。
「『眼天・
陽月の前に光線の壁が射し込み、拳を止める。
そのまま、光線は向きを変え、良太を襲う。
良太は血脈守で防ぐも刃が欠ける。
「ちっ」
「オォラァ!」
良太は再び拳を繰り出す。
「『眼天・雨照多守』」
陽月も再び光線の壁を作り出す。
「喰らえ!」
良太は左手からアッパー繰り出す。
「ゴホッ!」
陽月は空に飛ばされ、庭の枯山水に落ちる。
「まだやるか?」
良太はじゃらじゃらと敷き詰められた石を踏み鳴らしながら陽月の前に立つ。
「いや、降参だ」
「へ? っそうか」
――なんっか、こう、物足りない……。
良太は口を歪ませ、微妙な表情を浮かべながら不完全燃焼で戦いを終えた。
良太宅・リビング。
「はい、完ッ成」
甚が餃子と炒飯をテーブルに並べる。
「私では食い切れないぞ」
大皿に盛られた料理を見て、七は言った。
「知らない? 中国ではこうゆう風にレンゲで自分の分を取って食べるんだ」
甚が取り分け皿とレンゲを七の前に並べながら言う。
「そうか」
七はレンゲで炒飯を少し掬い……。
皿によそおうとした時、空気が揺れて炒飯がレンゲから零れ落ちる。
「?」
七は落ちた炒飯に視線を落とす。
「どうしたの?」
「いや、急に空気が……!」
七は甚の方を見ずともその場の状況を即座に把握した。
――悪魔……!
「ごめん、言い方が悪かった。どうした――暴食の眷属」
甚の視線の先に立っている女は丁寧にお辞儀をしていた。
「お食事中、突然の訪問申し訳ありません」
女は顔を上げ丁寧に謝罪の意を示した。
「それは良いよ、別に。なんでここに暴食の眷属が居る?」
「私めはベルゼブブ様直属のグラトベラスの配下、ダイズピッグと申します。本日の要件はこちらを渡すために参りました」
ダイズピッグはテーブルの上に手紙を置き、離れる。
「
「言い改めろ……僕は似獣甚だ」
「申し訳ありません、似獣甚様」
「それともう少し寄ってくれるかな?」
「はい」
ダイズピッグは甚の手が届く間合いまで近づいた。
甚はダイズピッグの頭に手を置く。
「今から君の『堕光』を『反転』させる」
「へ?」
ダイズピッグの返事を待たず、甚は『反転』させる。
「そうだな、胸もデカい、俺より一回り小さい、じゃあこの設定で」
「もう反転じゃなくて、洗脳だろ」
数分後。
「はい、甚ちゃん、あ、あーん」
「あーーん、美味しいよ」
「何をしてる」
「なにって、僕のことが大好きな幼馴染の彼女を作ったんだ」
「普通、『反転』させたら、天使になるはずだが」
「もちろん、けど僕はただ『反転』したわけじゃない、色々いじくって僕なりの天使にアレンジしてみた」
「訳がわからん」
「君が見てきた『闢者』は、身体から発生する『昇光』を変換して武器にする、けど僕は『昇光』自体が武器なんだ。つまり、『昇光』の扱いで言えば僕は誰にも負けない」
「甚ちゃん、胸、揉んでもいいよ」
その瞬間、甚の瞳から光が消えた。
「幼馴染はそんなことしない、積極的に胸を揉ませる? ありえない、幼馴染は今までの友達という関係から一変して恋人という関係に変わる、この関係性の変化が青春に甘酸っぱさを与えてくれるんだ、関係の変化、それが二人の間に壁を作ってしまい、二人の心にモヤモヤが出来る、そのモヤモヤを乗り越えて生まれたのが、この状況、モヤモヤが晴れる期間、あまり会話を交わさず、いざ会えば、どのような話題を出せば良いのか、今まで自分は相手とどんな風に話していたのか、生まれてしまった距離感、少しでも恋人らしい事をと実行されるあーん、これだけで良い、僕たちは高校生、その先を求めるのはあまりに傲慢で強欲だ、僕の彼女は暴食! そんな事はあってはならない」
甚のツバがご飯に付いてないか、気掛かりなのを置いておき、七は呆れた顔で甚の方を見る。
「バイバイ」
甚はまたダイズピッグの頭に手を置き、ダイズピッグをショートさせる。
「ええええ!」
七は驚きの声を上げる。
「驚かなくても良いじゃないか、彼女は失敗したんだから当然でしょ」
「やりすぎだろ!」
「失敗したら死ぬのは当たり前でしょ?」
「……!」
「君だって僕だって失敗したら死ぬんだ。さっ、速く食べて、寝よっか。明日から学校だしね」
「はぁ!?」
甚は立ち上がり、七を置いて二階へ上がる。
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