第四話 神話

「遥か昔、地球に神が居ました。神は大地を作り、海を作りました。神は全知全能で、あらゆるものを創り出す力がありました。ただ神には腕が二本のみ、溢れ出す発想に追い付かなかった。

そこで神は自分を七つの生物に分けることを思いつき、創り出した。

ルシファー・プライド

サタン・ラース

レヴィアタン・エンヴィー

ベルフェゴール・スロウス

マモン・グリード

ベルゼブブ・グラトニー

アスモデウス・ラスト

この7つの生物は神に託された発想と感情を持って、役目を果たした。

ルシファーは己が宿命に誇りを持ち、リーダーとして世を見下ろした

サタンはその怒りを以て陸を5つに分け、川を作り山を作った

レヴィアタンは海の広さを妬み、海洋生物からあらゆる力を奪った

ベルフェゴールは怠惰というなの永遠を陸に与えた

マモンは絶えることの無い欲望を撒き散らし、争いを生んだ

ベルゼブブはその食欲を満たすため、生物を生み出した

アスモデウスはあらゆる生を孕んだ。

その過程で生まれた人間は全てを持って生まれた。

傲慢を、憤怒を、嫉妬を、怠惰を、強欲を、暴食を、色欲を。

正に神と同等の力を持った人間は生物の頂点となった。

そうして数世紀がたった時、人間の中に『闢者』と呼ばれる者が現れた。

彼らは人知れず闘い、やがて七つの生物を封じ込め、闘いは終わった。

だが、その闘いが紙にしか残らなくなった頃、七つの生物は復活した。

今度は『七つの大罪』として世に君臨した。

かつて『闢者』と呼ばれた者たちに力は無く、無惨に虐殺された。

人々は一人の聖女を人柱とし、聖女の身体に『七つの大罪』を封印した。

聖女は七と呼ばれ、人々は彼女を崇めた。

そして、人々は『闢者』となり、子孫に技を残し、数世紀後の闘いに備えた」

 山奥にある虹目家の屋敷から少し離れた道場で良太は知らない女に『七つの大罪』について説かれていた。

 虹目家の従者達も良太を見定めんとばかりに、両端に詰め寄り良太を見詰めていた。

「ただいま」

 魚眼がヒョコッとドアから顔を見せる。

「「お帰りなさいませ、魚眼様」」

「今、この男に説法していた」

「ふーん」

 魚眼は良太の顔に近づき。

「起きて」

「ん!」

 良太はカッと眼を開き、魚眼の方を見る。

「腹へったんだけど、何か食わしてくれ」

「お、お前! 寝てたのか!」

「道場のど真ん中で、なんて図太い奴だ」

「この無礼者」

 従者達は一斉に良太に詰め寄る。

「待てい!」

 良太に説法していた女は従者達を黙らせる。

「急にここに連れてこられ、疲れていた。そこまで考えが及んでいなかった。直ぐに飯を食え!」

「「分かりました!」」

「さ、こちらに」

「なんかよくわかんねぇけど、ありがとな」


 茶の間。

「「いただきます」」

 良太と魚眼は目の前のご飯を食べる。

「あのよ、さっきの女、なんていうんだ?」

 良太は手を止め、魚眼に聞く。

法付憲子ほうづきのりこさん。指導者であの人も『闢者』だよ」

「なんの?」

「見てからのお楽しみ」

 魚眼は顔に付いた米粒を取りながら言った。


 数時間後。

「ご飯は食べた! 元気充分! さあ、ご指導願おうか」

「まずは私と戦え、実力を見る」

「おう! 『壮腕・刀骨』」

 良太は白い刀身の刀を腕から抜く。

「なるほど」

「行くぞ」

 良太は時代劇の殺陣を真似て、刀を振り回す。

「ふんふん!」

 憲子は良太の攻撃を手で受け流し、少し飛び退くと良太に手をかざす。

「『物法・業製代失効法ぶっぽう・ぎょうせいだいしっこうほう』」

「あ?」

 良太は何故か刀から手を離した。

「ん?」

 良太は刀を取ろうとするが。

 拾えない。

 触れることが出来ない。

「私は触れた物に『ルール』を加える事が出来る。今、君は武器を持てない」

 憲子は床に触れる。

「『物法・浮動散黨軌法ふどうさんとうきほう』」

 木の板が浮き上がる。憲子は距離を詰め、殴りかかる。良太は避け、反撃しようと振りかぶると、木の板が追撃してくる。

「いてててて!」

 良太は顔に刺さった木のささくれを抜くと、気を取り直して、憲子に向かっていく。

――さっき考えた技を見せてやる!

「『壮腕・仗捥骨そうわん・じょうわんこつ』」

 良太の上腕から戟や刀の柄が現れる。

「おりゃ」

 良太はそこから戟を抜き、憲子に向かって投げる。

 良太はそれと同時に走り出す。

「おっと」

 憲子は戟を避け、柄に触れる。

「危な……」

 一息置く暇もなく、良太の拳が襲い来る。

――どうだ、ミスディレクション。

 マジックでよく使われるテクニック。

 良太は戟で憲子の注意を向かせることで、憲子に気付かれること無く、接近することに成功した。

「なるほど、上手い!」

「どうだ! この発想力!」

「これで、分かったろ、皆」

「え?」

 壁を通り抜けて、憲子の弟子達が現れる。

「はい」

「悪いな、罪前寺くん。こいつらが実力を知りたいって言うから」

「そうか」

 良太は弟子の方に向き直り、口を開く。

「お前ら! 実力が知りたいなら、掛かってこい! 人を使うな、小賢しい!」

「あ、その通りだ」

「で、俺はお前らの実力が知りたい」

 良太は近くにいた弟子を殴る。

「掛かってこぉい!」

「お前!」

「調子乗りやがって!」

 弟子達は良太に襲いかかる。

「ハッハッハッ! 喧嘩だ喧嘩だ!」

 良太は弟子達を蹴り飛ばし、殴り、頭突き、肘打ち、のしていく。

「ちょっと……皆」


 数時間後。

「なにがあったの!?」

 魚眼が道場に入っての第一声だった。

「お前ら、やるな……」

「お前もな」

「喧嘩だよ」

「仲良くなれたなら、良い……かな?」

 憲子は呆れ顔でそう言う。

「良くない! こんなに散らかして、壁も凹んでるし」

 魚眼の怒号が道場に響く。

 そうして、良太の修行が始まった。

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