第三話 光

「どっちにしようか」

 甚を覆う光が黒と紫に明滅する。

「見せてみろ、その力」

「決めた」

 黒い光が甚の両手に集まる。

 甚が手を振り歩き出す。手を振れば、その軌道にある空間を黒い光が塗り潰す。

「面白い能力だな、だが、我が力は」

 アーロフォールの言葉を遮り、甚は右手をアーロフォールの眼前に突き出す。

「うるさい」

 甚は突き出した右手を下へ振り下ろす。黒い光がアーロフォールの姿を『塗り潰す』。

「あ、ああ」

「まぁだ、喋るんだ。タフだね」

「その力は我が、主の力」

「ちょっと違うかな、これは『虚飾』」

「なん……だと」

「バイバイ」

 甚はもう一度、右手を振る。

「す、すごいな、その力」

 七は電柱から顔を出し、甚に声を掛ける。

「あと二つもあるのか」

「違う、あと一つだ」

「でも、三つ見えたぞ」

「一つは制御装置だよ、さて」

 甚は七をジッと見詰める。

「どうしようか、七ちゃん」


「ふん! ふん!」

 良太は左手を振り回し、勢い任せに右手を魚眼まななにぶつけようとする。

 良太は魚眼の『眼眇・眼剣下睡』により左脳の働きを止められ、右半身が動かせない中で必死に喰らいつこうと襲いかかる。

「しつこいですねぇ!」

 魚眼は良太の拳を躱したり受け流しながら言う。

 良太の攻撃は大振りで油断しなければ当たる事はない。

兄貴譲りでなああに゙きゆづりでにゃあ

 魚眼は塀の上に立ち、良太を見下ろしながら言う。

「一つ、聞かせてください。なんで七さんを守ろうとするんですか?」

「……やくほくおれ! あら!」

 良太は右頬が動かず、めちゃくちゃな滑舌で言い放つ。  

「……」

「!」

 良太の視界が開けた。

――動く。

 良太は右手をグッパッグッパと動かし、確認する。

「分かりました。ではここからは足止めではなく――入隊試験です」

 魚眼は胸に手を当て、『昇光』を放つ。

「『眼眇・拍内焼がんびょう・はくないしょう』」

 魚眼の胸に剣が刺さり、白い皮膚がほのかに赤くなる。

「もう良いか?」

「どうぞ」

「そんじゃ」

 良太は塀の上の魚眼に向かって飛び出し、拳を構える。

 良太が拳を振ろうとした時、良太の視界から魚眼が消える。

 良太の背中に強い衝撃が走る。

「が!」

 塀を壊して誰かの家の庭、倒れる。

「さあ来てください。これキツイので」

「うおおおおおおお!!」

 良太は魚眼に向かって拳をひたすら我武者羅に振るう。

 魚眼は素早く避け、たまにからかうように拳を間一髪で避ける。

「アドバイス、『壮腕そうわん』だからといってただ振り回すだけでは、私には一撃も入りません」

 魚眼は槍で良太を壁に抑えつけ、コホンと言って話し始める。

「『闢者』について、字面だけで言うと『切り開き導く者』となります、まあこれは忍び耐える者、忍者と同じ感じで良いです、精神性の話ですね。役割はまあ霊媒師とかと一緒です、祓うのは霊ではなく『悪魔』ですけど。『闢者』は例外なく二つ名を持ち、『――の闢者』となります。その二つ名に関連した技で私達は戦います」

「それで、なんで俺が勝てねぇんだよ!」

「技がないからです」

「?」

「あなたはただ有り余る『昇光』を振り回してるだけ。その『壮腕』を活かせてない」

「……」

 良太は思考する。

 腕から考えられる技、動きを。

「ひらめいたぜぇ」

 良太は体に刺さった槍を抜き、拳を魚眼に向かって突き出す。

「……『壮腕・刀骨そうわん・とうこつ』」

 良太の右腕橈骨付近から真っ白な刀身の刀が現れる。

 良太はそれを掴み、引き抜き、全身を見せる。

「どうだ! これで一発は……」

 良太は魚眼の方を見る。

 魚眼は肩を震わせて、唇を噛んでいた。

「なんだよ」

「ハッ……ハ……ハッハッハ! ハッハッハッハッハッハ!」

「なに笑ってんだよ!」

「いやハッハ、すいません、まさかここまで兄譲りとは思いませんでしたので!」

 魚眼は震えた声で謝る。

「なに言ってんだ」

「あなたのお兄さんは『壮腕の闢者』で、発想が全く同じだったので、つい」

「は?」

「ああ、笑った。さて、これからあなたを私の家に送ります」

「七はどうすんだよ」

「甚さんと一緒にあなたの家で留守番です」

「甚って、あいつと一緒で大丈夫か? 殺しちまったり、誘拐したりしそうだけど」

「大丈夫ですよ。だって、あなたが七さんを祓うんだから」

 話してる間に、黒塗りの車が目の前に止まる。

「私は甚さんに事情を説明するので、先に行っててください」

 魚眼は物凄い速度で良太の視界から消える。

 良太は車に乗り、魚眼の家に向かう。

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