第9話 その初恋は…お兄との12年より重かったの?

深雪「優くんに明日のデート…断られたわ」

「…そう」

深雪「軽く誘った水族館だった…最初は優くん、いつものように笑って『付き合うよ』って言ってくれてたのに…」

「…そう、それは残念だったね」

深雪「あなたが動いたんでしょ?三里亜ちゃん!」

「そうね…あなたの思っている通りかもね」

深雪「なんで!?そんなにあたしが憎いの?」

「……」


深雪「やっと…決心出来たのに」

「だからだよ」

深雪「…え?」


「憎い?…ううん、許せないだけ…少なくともあなたの前に…お兄を一途に想い続けている女の子に…チャンスを挙げたいだけ」

深雪「…え?」


「…お兄に告白する気だったでしょ?」

深雪「なんで…知って…」

「……」

深雪「…でも!そもそも!あなたには関係無い!」


「…ふざけんなっ!!」



中学・高校と常にお兄のそばにいたのは、このみゆきねえだった。

それこそ小学生に毛が生えたくらいだったあたしや秀世には、なす術が無かった。

子供のイタズラのように幼稚な妨害をするのがせいぜい…正直に言えば、秀世は泣きながら諦めかけていたし、あたしも一度はこのみゆきねえにお兄をあずけるのは仕方が無いと思っていた。

…数年で色仕掛けを掛けてでも引っくり返すつもりだったけど。

それを…



「ねえ…八木さんだっけ?大学の先輩で、お姉の初恋だったんでしょ?告白して首尾良く付き合えたんでしょ?処女まで捧げたんでしょ?」

深雪「…なっ!」

「…何、別れちゃってんの?半年たらずで」


深雪「………たの」

「…は?」

深雪「…弄ばれたのっ!!」


深雪「…所詮、あたしは三股の一人だった。あの人は取り巻きと…あたしの処女を奪うまでの期間を掛けていて…大喜びされたわ…」


深雪「…和兄のおかげで…すぐに情報が入った。あの人が今度は薬を使ってあたしを取り巻きに抱かせる計画だと…必死に逃げ出した…五月さんの力まで借りて」


「…うん、知ってる。ほんと…屑に引っかかったね」


深雪「…ねえ!間違えちゃったら…一度間違えちゃったら…もう幸せを求めては…いけない…の?」



「…順番だよ…深雪姉。」

深雪「…え?」

…泣き出した深雪姉を断罪する。


「…順番が後ろに回るんだよ…深雪姉」

深雪「…」

「…深雪姉が屑と付き合い出したとき、お泊まりデートで浮かれて帰ってきたとき…お兄がどれだけ落ち込んでいたか…想像出来る?」

深雪「…」

「…その…誰が見てもどうしようも無く見える深雪姉の初恋は…お兄との12年より…重かったんでしょ?」

深雪「…」


「…あした、秀世がお兄に告白する」

深雪「…!!」

「秀世が想いを遂げるのかもしれない…でもお兄がバカみたいにまた秀世を子供扱いして断るのかもしれない」

深雪「…」

「…結果を待ってよ…一回引いて」

深雪「…」

「バカなお兄が断って…その後、深雪姉が南先生とお兄を取り合う分には…もう邪魔しないからさ…」

深雪「…三里亜ちゃん…は」

「…ん?」

深雪「…三里亜ちゃんはそれで良いの?三里亜ちゃんこそ優くんが好きなんでしょ?」


「…深雪姉…知ってる?あたしたちは何があっても血の繋がった実の兄妹なんだよ?」

深雪「…」

「…いざとなったら、恋人や奥さんになんか…負けないんだよ!」

深雪「…」

「…それに」

深雪「…え?」

「…もうすぐあたし、いなくなっちゃうから…」



明美「…どういうことよ!」

「…明美」

深雪姉と別れてしばらくして…物陰に隠れて様子を伺っていた明美が凄い勢いで食ってかかってきた。


明美「…いなくなっちゃうって…どういうことよ!」

明美があたしを心配して物陰から守ってくれていたのは最初から分かっていた。

…この…どこまでも純粋にあたしを慕ってくれる昔からの友人には…あたしは真摯に向き合うことを決めた。


「明美…ごめんね?中学校を卒業したら…あたしはヨーロッパのママのところに行くんだ」

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