第8話 許せないんだよっ!

「そうね…あなたの思っている通りかもね」

深雪「なんで!?そんなにあたしが憎いの?」

「ううん?許せないだけ…少なくともあなたの前に…お兄を一途に想い続けている女の子に…チャンスを挙げたいの」



【風前の灯】


和也「…なあ、三里亜ちゃん。俺いつまでこの悪行に加担を続けなきゃいけないの?」


放課後の「風前のおにいのバイトさき」…珍しくあたしと和兄だけ。

…そりゃそうだ…あたしたちがやっているのは、盛大な嫌がらせだ。


「うるさいです、和兄。恨むならおのれの所業を恨んでください」

和也「ほんと反省してるよ~」

「…反省してるのはあたしにバレた軽率さでしょ?…この女の敵が。流石にこれを五月おばちゃんにチクったら…どうなるかな~」

和也「ほんと!かんべん!!」


和兄があたしにバレた女の人は…母親である五月おばちゃんの大学病院の医局の…。


和也「ねえ…どうしたら俺を解放してくれるの?」

「そんなの…最初から言ってるじゃん」

和也「…あれ…冗談じゃないの?」

「…そろそろ女の敵は廃業して、年貢納めても良いんじゃない?」


あの人と和兄…お似合いだったし。



和也「それはそれとして…まだ続けるの?優もほとんど元に戻ったじゃん」

「うん、それは同意。和兄にもみんなにも感謝」

和也「だったら…」


「でも…あの女が…お兄に告白しようとしているなら…話は別」

和也「それは!…本当なのかい?」


「これ以上、お兄を傷付けたくない。あの女には、資格しょじょまくが無いと…あたしは思っている」


あたしと和兄は、お兄と深雪姉が決して二人きりにならないように共同戦線を張ってきた。

和兄には特に大学の医学部の先輩後輩繋がりで。

だけど…いよいよ深雪姉がお兄に告白するって噂が深雪姉の周りに起こっている。

春先に…一度はあっさりとお兄を捨てた深雪姉が…



【フェ⚪ス女学院中等部第二音楽室】


南「うん!良いんじゃないかな。新バンド名『ツーリーブス』!」

秀世「…それだとわたくしたち、事実上バックバンドですわね…」


南先生の目論見は今のところ大成功だ。

イケメン二人のボーカルもさることながら、完璧超人けんしゅうにいさんは、ベースまで受け持ってくれるそうで。


「ここまで来たら、パパに頼み込んでドラムを叩いて貰えば、もう普通のバンドの形態になるんじゃないかな」

南「み…三里亜ちゃん!あなた天才!!」


「…ねえ…ほんとに反省してる?南先生!」

南「…はい」


例の秀世への同人誌セクハラ事件


三月「ああ、南ちゃんには刻み込んでおいたから」


…パパ…ほんと言い方…何を刻み込んだやら


「この間ママがウィーンから帰ってきてさ」

南「…へ?」

「言っておいたよ。パパと南先生、まだ繋がっているみたいだよって」

南「アワアワアワアワ」



放課後、あたしたちは、拳秀兄さんの待つ明家のお屋敷に練習に行った。

まあ、パパのドラムはリズムボックスで代用出来るし、ボーカルだけのお兄は…いてもいなくても(笑)


「ねえ、秀世。ピアノ調子良さそうね」

秀世「それは…優さまと同じ舞台ですもの。嬉しくって!」


本当に…わんちゃんみたいに分かりやすいやつ。

…可愛いな…


「ねえ、秀世…いっそもう、告っちゃわない?お兄に…」


秀世「な!なななな何を!」

「…多分、上手く行くと思うんだよね…ねえ?拳秀兄さん?」

拳秀「むう…そうだな…ここで玉砕するのもありだな」

「玉砕ありきかよ…ほんとシスコンだね拳秀兄さん!」


秀世「どどどどうしたのですか、いきなり」

明美「…」


「実はさ…明日の土曜日の朝10時に、お兄を港の見える丘公園に呼び出したんだ。秀世が大事な話があるみたいだよ…って」

秀世「…なっ!」

「…行く度胸が無いなら、あたしが代わりに行くけど」

秀世「…きゅ~~っ」

明美「…お嬢様?…お嬢様~っ!」


拳秀「…どうしたのかね?三里亜くん、ずいぶんと性急だな」

「…ええ、バカな女が動くみたいなんで」

拳秀「…深雪くんか」

明美「…」

「お兄に教えてあげたんです。あんたの周りには一途な娘がいるんだよって…本気なんたよって…失礼、電話出ます」


(かちゃっ)


「もしもし?深雪姉?うん…うん…そう…明日の約束お兄に断られたんだね…そうだね、深雪姉の思った通り…え?今から?」


拳秀「三里亜くん?」

明美「…三里亜?」


「お呼び出しが来ました~今から話し合いですっ」






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