第17話

ちょうどレッスンが終わったタイミングで、礼の携帯電話が鳴った。礼が携帯電話を取ると、中本の番号だ。


「!!!」


「、、私は自室にいるから、電話が済むまで居てもいいよ。ヨハンもここに入れないようにしとく。」


レイノルズは礼の反応を見て微笑んでから、立ち上がり、部屋を出た。


「、、もしもし。神崎さん?」

「中本先生!?あっ、、あの、、お電話、、体調が良くない中すみません。」


「いいえ。、、俺の方こそ本当に申し訳ないことをした。、、本当にごめん。


ドイツに居たときに良くしてくれた人たちと連絡取ると、ドイツに戻りたくなる気がしたから、楽団の退団処理が終わってからは全員着信拒否にしていたんだ。


、、神崎さんのことをレッスン、、って言えるほどのものじゃなかったかもしれないけど、レッスンもどきをさせてもらうのは、俺も勉強になったし楽しかったよ。神崎さんは、リチャードも褒めていたけどとても熱心で向上心があって、、人一倍吸収力がある。

そんな神崎さんにいつも刺激を受けていたよ。

俺の体調のこともいつも気遣ったり励ましてくれて、本当にありがとう。


神崎さんなら、きっとどんどん上手くなるよ。自信を持ってね。今月末コンクールなんだって?」


携帯電話越しに、懐かしい、ハイバリトンが聞こえる。柔らかいがハキハキとしている口調もそのままだ。この1ヶ月、聞けずに寂しかった愛着のある声が今、きちんと礼に届いている。


礼と二人だけの会話なので日本語で、ドイツ語を話している時よりは早口なようだ。

まずは電話をくれ、あちらから歩み寄ってくれたわけなので、礼も勇気を出して失礼を詫びようと口を開く。


「私も、先生と最後にベルリンの病院でお会いしたときに、大変失礼なことを言って申し訳、」


「失礼なこと?、、、父さんのことかな?父さんは確かに強引な人ではあるからね。神崎さんが嫌なやつだなって感じても無理はない。俺もたまにびっくりするくらいだから。

、、お見舞いに来てもらってとても嬉しかったよ。体調が悪くて一人で寝てると気が滅入るから。神崎さんはいつも一生懸命で明るくて、見てると励みになる。」


「、、、あ、、いや、その、私、目上で私なんかと比べ物にならない優れた奏者である先生に、日本に帰らないでほしいとかヴァイオリンよりヴィオラやってほしい、なんて偉そうに色々言ってしまったから、、怒らせたかなと。私のこともうレッスンで見たくないって言っていたので。。申し訳ありません。」


礼は中本から予想外の反応ばかりが返ってきて困惑しながら、とりあえずは引き続き、謝罪を受け止めてくれるまで失礼を詫びる。


「目上でも言うことは言うべきだよ!


、、って言う感じにならないとドイツでやって行きたいなら大変だよ。目上も何も、彼らは言いくるめたら勝ちと思ってたりもするし。ミカエルなんか口下手なのに議論は凄く強い。


、、って俺はドイツに9年いて学んだりもして。、、神崎さんが俺に意見を言ってくれるなら、同意するかは別にして聞きたいとは思ってる。


、、レッスンしたくないとは言った記憶はないな。

俺よりも、良い先生は、いると思うよ、とは言ったけど。、、あのときは俺も、、神崎さんが泣いちゃって正直頭が真っ白で、、上手く伝えられなかったみたいだね。

、、その、、短い付き合いだから、って言うのも泣いてほしくなくて、言ってしまった。

傷つけてしまったみたいで不甲斐ないや。。」


中本は、礼の言動から、礼の理解と中本の意図が悉くすれ違っていたのを察して、礼が気にしていた言葉について補足して行く。


「、、そうだったんですね。

、、お身体は、いかがですか?

、、あの、私は、先生に2度と会えないままもし何かあったら悲しいんです!、、なので、もし宜しかったら日本で、でももちろん問題ないので、、レッスンしたりお話しして頂けませんか。」


礼は中本から言葉の意図を聞いて、嫌われてはいなかったのだと安心して、中本が自分から話さないため体調について訊ねた。

すると、中本は別に話す気がなかったわけではないらしく、詳細に近況を話し始めた。


「体調は、こうやって元気に話してるように、かなり良くなったんだ。

神崎さんも言ったように、やっぱり演奏したほうが俺には良いみたいで、、カールのことは

さすがにトラウマにはなりそうだったけど、日本で入院していた病院でも演奏をしてみたんだ。

、、ミカエルにも混じってもらったり、日本で俺が友人だったり仲良くしてる人にも演奏してもらったり、、それだけで大人しく臥せってるときより、張り合いがあって、体調が上向くようになった。

日本では2週間入院予定だったけど、大幅に短くなって1週間と二日で退院できたんだ。

今は東京の自宅にいる。


ただ、、父さんの意向も問題だし、俺自身、またドイツで頑張ってるとぶっ倒れないか不安があって、、次倒れたらちょっとやばいのでドイツに戻るかは約束できない。

、、そんな感じだよ。なので、、もし神崎さんが来日することがあればレッスンは全然できると思う。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る