第18話

明は電話を切ってから、携帯電話をテーブルに投げ出し、両手で顔を覆っている。

ミカエルは不審に思い、明を覗き込んだ。


「?どうかしたんですか。」

ミカエルは、また体調でも悪いのかと懸念したが、明の耳が少し赤くなっているのを見て、察しがついて安堵し、食後のコーヒーをすする。


「いや、、可愛かったなあ。あの子、、。

すぐ感情が表に出て、人懐っこくて。顔も可愛いし、全部可愛い。。、、動揺しやすいのも可愛い。。」


「そんなに可愛いならアプローチすれば良いじゃないですか。、、リチャードの話だと、礼もあなたが気になるようですし。」


ミカエルは淡々と話しながら、先ほどこのレストランで、明の回復祝いに和食を食べたばかりだったが、追加で注文したらしい餡蜜を食べようとスプーンを取る。


「そんなことできないよ!!、、8歳も下の若い子だし、今は年上で自分より弾けるから尊敬してくれてるだけだろ、きっと。。

俺が無難に接し続ければきっともっと若いかっこいい健康な人に目移りするよ。その方があの子にとって良いはずだ。。

好きだから、幸せになってほしい、、だから俺なんか早く忘れて欲しかったのに。。」


「じゃあ、冷たくあしらってこのまま無視すればよかった。口ではそう言っているが行動と齟齬がありすぎる。」


ミカエルは餡蜜をすごい勢いで食べ、もう既に半分も食べてから、明の考えを聞いて呆れ顔で返す。


「可哀想じゃないか、、もちろんこのまま無視する気だったけど、リチャードからあの子が泣いてるなんて聞いたら、、しかもコンクール控えてるなんて、俺が話すだけで泣かないなら話してあげなきゃと。。」


明がミカエルに仕方がなかった、今回はこうするしかなかったのだと説明すると、ミカエルは首を振り、明を軽く睨んだ。

餡蜜を食べる手も止めたようだ。


「でもレイが日本に来てくれたら会うんですよね。

付き合う気がないのにそんなことをするのは弄んでいますよ。、、付き合わないし女性として見るつもりがないならきちんとはっきり言うべきで。

、、レイが傷つく姿は見たくないのでしょうが、あなたは自分が悪者になりたくないだけに見える。

彩華のときもはっきり別れもつけずに居なくなったのに、反省が足りないのでは。


、、これまでは体調が酷そうだったから、心労になってもと言わなかったけれど、女性に対してだいぶ失礼ですよ。」


「、、だって、体調のことで引け目を感じて別れたいって言っても彩華が全然わかってくれないからさ。、、もう嫌なんだ。彩華に大事な本番をキャンセルさせてまで看病させたり、そのせいで彩華まで疲れて体調を崩したり、、こんな厄介な身体で嫌な思いするのは俺1人で十分じゃないか。。」


「、、なんでレイとも同じ事態になると決めつけるんです?彩華は彩華で、レイはレイで私から見ても人柄が全く違う。

、、レイは若いので今は未熟でも精神的に成長して行くはず。

ヴィオラをオケや大学でやっているときみたいに積極的に他者と話して意見をきちんと交換しようと思わないんですか。」


「ミカエルにコミュニケーションを指導させる日が来るとは。」


「茶化さないで下さい。私は真剣に言っている。好きで病み上がりの友人に説教していない。、、病気のことが絡んでくると、今回の退団騒動も恋愛もそうですが逃げ腰ですね。」


ミカエルは明が、話題のせいで重たい空気になって行くのが嫌で茶化して言うと、しっかりとそれを見抜いて更に明を睨み、指摘する。


「、、、そうだね。否定できない。、、今まで、ヴィオラや音楽は自信を持って頑張ってきたし立ち向かってきたと言えるけど、、ドイツ社会でやっていくより、首席のオーディションを受けるより、病気や死に向き合うほうが怖い。、、だって頑張っても、楽器練習とは違っていずれきちんと成果が出るとは限らない。

、、でも怖いからって人の厚意を拒絶して、、全て手放して殻に篭って、これでいつ何があっても平気だって状態にした気でも、、実際はそれって虚しいだけだ。

、、、ドイツに戻るか、日本に居るかも、、そろそろきちんと考える。」


「、、、すみません、みたらし団子?を下さい。

これ、あなたが好きですよね。いつまでも湿っぽいのは勘弁なので、食べて景気づけましょう。」


ミカエルは、明が弱気に困ったように微笑むのを見て、ヴィオラを弾いている時の落ち着きや堂々とした態度とは違いすぎて見ていられず、元気づけようと以前好物だと言っていた日本の菓子をメニューから見つけ、店員を呼び注文した。

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