第6話

その後、礼は週に一回、明の体調が良くない時は二週に一回見舞いに来て、明から室内楽やオーケストラのスコアの分析の仕方や取り組み方について礼に教えるようになった。


ミカエルがその噂をリチャードから聞きつけ、様子を病室の外から見ていると、二人がなぜかこちらに向かってやってきたため、ミカエルは慌てて近くの壁に隠れる羽目になった。


明は病室を出るまでは歩いていたが、礼に促され車椅子に乗った。車椅子は礼が引いてくれるようだ。


「今日は調子良いから歩いても大丈夫だよ。足が悪いわけではないし。」


「でも、、肺?が悪いんですよね?肺炎が重いならあまり歩かない方が良いですよ。私のせいで無理されてるんですし。」


礼には明は心臓が悪いのは話しておらず、リチャードからも話していないようで、礼は様子から体調を想像して訊ねる。


「少し体調が安定したからね、許可が出た日は院内の散歩とか30分以下で楽器に触れても良いって言われたんだ。、、実演しないで指導するのもやりづらいし。

小児科の近くに子どもたち用の多目的室みたいな場所があって、ピアノがあるよ。使う許可は取ったからさ。」


ミカエルが壁からようやくはっきりと見た明は、本人の話通り以前より体調は良いらしく、青白かった顔色は白いくらいに、体調が悪いせいで殆ど食べなくなりげっそりしていた頬はまだ窶れているが痛々しくない程度に、目の下のクマはまだあるが前より濃さが薄まっている。


(リチャードの提案を聞いたときはどうかと思ったけれど、、やることがあるほうが張り合いになるのか。。なるほど、、)



「、、そんなとこで何してんの?」


「!!!あっ、、明!?、、いや、見舞おうとしたら出てきて、」


「、、、お前容姿が目立つから隠れてても無意味だよ。ハイドンのやつ、きちんと吹いたの?」


「え??」


「俺が回復しないなら2度と吹かないとか、アホみたいなこと言ってただろ。、、代わりのヴィオラ、俺が依頼したんだから主役のフルートはしっかりしてほしい。」


「、、吹いてますよ。来週コンサートですから。」


「、、暇そうだからちょっと手伝ってくれる?

リチャードの生徒なんだけど、ピアノが苦手みたいで。教えたいんだけど、体調もまだ不安もあるからね。

あ、伴奏ピアノを特に教えたいからさ、なんか吹いてよ。」


「、、、わかりました。何を持ってます?」

ミカエルは、この1ヶ月間互いに気まずくなり話さなかった明からあちらから話を振られて歯切れ悪く話しながら、礼が持っている楽譜を見せてもらいに近づく。

礼は、ミカエルのことは知っているらしく恐縮しながら緊張して固まっている。


「、、あ、名乗っていなかったですね。私はリチャードや明と同じ楽団のフルート首席のミカエル、」


「シュルツさんですよね!!存じています!!有名なフルーティストのシュルツさんにお会いできてその、、緊張してしまって。、、今日はこんな感じです。。」


「なるほど、、、メンデルスゾーンの歌の翼ならこれはヴァイオリンとピアノのデュオ譜ですがフルートでもやれますね。」


「ピアノ久しぶりだからな、、まともに弾けるかな。最初に音階練習くらいはさせてね。」


「前に大学で伴奏してもらったとき上手かったじゃないですか。」

ミカエルは鼓舞したが、明は渋い表情だ。


「何年前の話だよ、、ピアノ科が病欠で仕方なく引き受けたやつだろ?」

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