第5話

「、、受けられない。まず、俺はこんな体調で安定して毎日起き上がって元気にしてもいられないし、専門もちがうじゃないか。

リチャードなら今言った全部を彼女に指導できる。俺と違って健康で楽器を持って指導できる。


万一、仮に俺が指導するとして、リチャードと同じキャリアでもないのにそんなにもらえない。ましてや楽器を教えるんじゃなくて、譜読みやオケスタとかだけでそんなには。

、、それか、俺の知り合いの室内楽に強いヴァイオリニストでも紹介しようか?」


明は微笑みが表情から消え、リチャードの目を見て身振りもつけて、口調を強くして反論する。長く話したからか、息切れを起こしてから咳するので、礼は心配になり見守ったが、リチャードは明を黙って見つめ、話を聞いている。


「レッスン代については、私の独断で決めたんじゃない。礼にはもちろん話したが、その前にお前もドイツで師事したヴィオラ奏者や、私ともお前とも知り合いのヴァイオリニスト達にも見解を頂いた。

、、礼が私以外に師事している先生とも、礼の指導については共有してるから相談した。

本当は私のレッスン料の7割以上が相場と思ったがお前が五月蝿そうだから6割に下げた。これ以上は下げられない。

、、私はソリストばかりやってきて、コンマスとしては新人だ。、、お前の方がアンサンブルには詳しいし、お前がヴァイオリンがめちゃくちゃ上手いのは知っている。」


「、、、そもそも、楽器も弾けないこんな状態でレッスン料取ってレッスンなんかできない。

、、、これがそのためのものなら返すよ、神崎さん。、、神崎さんのことは応援はしている。でも俺が指導することはできない。」


リチャードは明が反論してきそうな全ての点にいて事前に埋めてきたので、明の強い拒否にも引き退らずに反論したが、明も退かず、先ほどのインスタント日本食セットを礼の方へ押して返す意志を見せた。


「凄い!!中本先生は本当に素晴らしい方ですね!!!」


明が礼を説得する気でいると、これまでのリチャードと明のやり取りを1番重く受け止めるべき礼が、引き続き明るい表情なだけでなく感激した様子で叫ぶため、明は理解ができずに礼を見つめる。


「え??あのさ、だから俺は、」


「ヴァイオリンでレイノルズ先生と一緒に弾かれるほど活躍されているのに、ヴィオラもお弾きになられるんですか!!素晴らしすぎます!!!やっぱり中本先生に師事させて頂きたいです!!あと日本食はそれとは別のお見舞いでして。

お願いします!!私、下手くそかもですが頑張りますので!!もちろん体調がよろしい時のみで、金額は先生がご希望の金額をお支払いしますので!」


「おい、礼、あのな、、」


「レイノルズ先生!!ありがとうございます!!こんな機会滅多にないですよ、凄いなあ、、。」


「あのな!!だから君は突っ走るなといつも言ってるじゃないか。

明は!!ヴィオラ奏者だよ!ヴァイオリンのほうがサブだよ。専門はヴィオラだ!ヴァイオリンも上手いが、、、いくらなんでも、同じ日本出身で、日本でも初めてうちの楽団の首席に通って話題になった30代以下の奏者なんだから、、顔は分からずとも名前とヴィオラなことくらい、、知ってるかと、、はあああ。。もう、、もうなんか馬鹿らしくなってきたな、、。」


リチャードは深くため息をつきながら、見舞い客用の椅子に頭を抱えて座る。


「えっ!?ええええ!!も、申し訳ございません。。大変失礼いたしました!!

でも、師事したいのは本当です、どうかお願い申し上げます。」

礼は恐縮して日本流に頭を何回も下げて、反応に困りながら礼を見つめる明に頼む。


「、、、まあ、、まず、ヴァイオリンかつソリストな奏者以外の音楽にも関心を持ってみよう。

、、俺のことはさ、ヴィオラのオケ団員なんて、地味だし??知らないのは分かるけど、、。」


明の方でも、楽団のヴィオラ首席のオーディションに通ったのは日本人としては快挙で、国内外で話題になった手前、病気でクビになりそうなことに非常に悩んでいたが、礼の反応を見てそんな自分が馬鹿らしくなりながら呟いた。

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