第4話

リチャードは、礼を連れて明の見舞いに来たが、病室の前に立つと咳込む声が聞こえてノックをするのを躊躇う。


(今日も体調悪いのか。。この三日面会禁止だったくらいだし、な。)


「、、お見舞いですか?」

リチャードが躊躇っていると、後ろから看護師の声がした。


「あ、ええ、、そのつもりです。」


「ナカモトさんですが、今日は入って頂いて大丈夫ですよ。まだ胸水は出ていますが、だいぶ回復されたので。」

看護師に促され、リチャードは頷く。


「、、そうでしたか。ありがとうございます。

明、入って大丈夫か。」


リチャードは言ってノックする。


「どうぞ。」

明の声がドア外のインターホンから聴こえて、リチャードはドアを開け、中に入る。


「、、あれ??貴女は、、。」

明は、今日まで三日ほど面会禁止で寝込んでいた。看護師が言ったように、心臓の病気で血流が悪いために肺に水分が溜まり、呼吸状態も良くなく、今日は鼻からカニューレを装着している。そんな体調でも柔和に微笑んだが、礼に驚いてアジア人らしい切れ長な黒い瞳を見開く。


「お、お久しぶりです!!

、、私、レイノルズ先生に大学で師事している神崎礼と申します。ヴァイオリン科の2年です。横浜出身です。、、先日は、ご丁寧なアドバイスを頂きありがとうございました。

お加減が良くないところ、突然すみません。

、、こちら、お見舞いです。」


「、、ありがとう。中本明です。レイノルズと同じ、、レイノルズとはたまに一緒に弾いていて。まあ、室内楽やいろんなオケで弾いてるかな。」


明は、レイノルズと同じ楽団、と言おうとしたようだが、言い直す。微笑んではいるが、心境と言い直した意図を考えるとリチャードはなんだか悔しい気持ちになった。


「知ってると思うが、私と同じ楽団で弾いてる。彼が弾くだけで何人もが弾いてるくらいの力量だ。私も助かってる。だからしっかり治してまた弾いてくれないとな。」


リチャードは礼に紹介をしてはいたが、明の自己紹介を否定する気持ちを込めて話す。


「褒めても何も出さないからね、リチャード。

、、へえ!ふりかけとお茶漬けインスタントだ!日本のメーカーのやつだし。

ドイツで見つけづらくなかった?よく見つけたね。神崎さんのチョイスだよね?リチャードじゃ他の欧米人の日本食の感覚は変すぎるからこんなのきちんと選べないよ。ありがとう!」


リチャードを軽くあしらった上、日本食への認識まで貶されてしまいリチャードはため息をつく。


「私も金は出したんだけど?

それに、日本食を提案したのも私だから。」

リチャードは言い返したが、明と礼は早速ドイツの日本食への批判で盛り上がりリチャードは蚊帳の外だ。


少し癪ではあったが、明は体調が悪化して楽団の試用期間から強制離脱、楽団事務局で試用期間終了と解雇を検討され始めてからは落ち込んでいる様子だったので、これで元気付くならと願った。


「盛り上がってるとこ悪いが、褒めて機嫌を取った理由はまあ、あるんだよ。

、、礼は室内楽やオケの経験や、勉強はまだ足りなくてさ。

あと、副科ピアノの成績も壊滅的で、ピアノとデュオするのにこれは考えものだ。。

お前の体調が良い時だけで良いから、定期的に室内楽やオケの譜読みや、副科ピアノの取り組み方を指導してやってほしい。

レッスン料もきちんと払わせる。1時間あたり、私のレッスン額の最低でも、、6割程度は払わせる。」


リチャードは、礼には合意済みだが明には今話した中、一方的に説明する。

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