第3話

リチャードが演奏活動と並行し、レッスンを行っているドイツでもトップレベルの音楽大学の門付近を歩いていると、後ろから聴き慣れた声がした。走っているのも毎回のことだ。


「先生!!レイノルズ先生!!」


「礼、怪我してるんだし駆けるのはやめとけ。いつも君は駆けずり回ってるけど、私も他も瞬間移動はできないんだから。」


「すみません、そうでしたね。。癖なのでなかなか直らないです。

、、あの、先生にレッスン、」


礼がレッスン、と言葉にすると、リチャードは普段は気さくな優しい瞳を釣り上げ、厳しくこちらを睨む。


「何度も言わせないでくれ。治るまでレッスンはしないと言っただろ。」


「あ、言葉が足りなかったですね、ヴァイオリン弾かなくても良いレッスンして頂きたいんです。それか、右手だけで練習できることで。弓遣いや他を勉強する良い機会かもです!

お願いします。」

礼はリチャードに懸命に説明しながら頼み込む。


「、、、そうか。感情的になって済まなかった。君がまた焦って突っ走っているのかと思ったよ。


ところで、私に訊くのも良いけど、自分で考えはしないのかい?何をすべきかを。

、、知ってると思うけど、自ら問題意識がない奏者に、人のアドバイスが響くと私は思ってないんだ。」


リチャードは、礼が明の言葉を素直に取ってやる気を出していることは分かっているが、礼自身が自分に足りないものを考えないと伸びは期待できないだろうと、敢えて意地悪な言い方で問いかけた。

リチャード自身、演奏活動が忙しいのもあり、技術的に優れているのはもちろんだが、その中でも教える生徒は選ばざるを得ない。


「はい。、、弓に関しては、細かい表現や強弱をつけるための繊細な扱いが苦手です。圧のかけ方も自在ではありません。右手だけで練習できることがあればアドバイス頂きたいです。


楽曲分析に関してはですね、、私はオケでは1stをよく弾きますが、2ndはやったことがなく、あと、オケとソロばかりで室内楽はあまり経験を積んでいません。


レイノルズ先生は、自分のパートだけでなく他のパートもスコアでよく見て弾き方を考えるよう、あとは室内楽のキャリアも検討するよう仰っていましたね。


そもそも日本では室内楽は勉強する機会がなく、あまりわからなくて。特に聴いた方が良い曲や楽譜を読み込むと参考になる作品はありますか。


オケは、、」


「ありがとう、よく君の考えはわかった。

弓についてはレッスンで指導しよう。

、、、日本で室内楽の経験が学生の時に得られにくいと言うのは、君が病院で会った明からも、、中本明からも聞いたことがある。


、、室内楽やオケについては、」


リチャードは更に踏み込んで話すために、礼を手招きして一緒に門から出て話を続けた。

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