第1話

礼は、携帯電話の画面で時間を左手で確認しながら、背中にはヴァイオリンケース、肩にはカバン、右手には傘を持ち師の家まで走る。

レッスン開始5分前につき、入り口ドアまでの短いが段差が大きい階段を駆け上がったが、雪が所々凍った階段につまづき、転倒してしまう。


「あああっ!!」

礼は大声を出して傘を投げ出し、左腕を下にして倒れたが、左腕が動かせないほど痛み、涙目になる。


「ううっ、、痛い、、。」


「礼??凄い音がしたけど、、おい!!大丈夫か!?腕が痛むのか!?礼!!、、、すまないけど触るよ。」


礼がドア前で呻きながら動けなくなっていると、ヴァイオリンの師であるリチャードが礼を軽々抱き起こして、いわゆるお姫様抱っこで家の中まで運んでくれた。ヴァイオリンケースとカバンもリチャードが運んでくれている。


「先生、、申し訳ありません。。ううっ!!」


「、、左手を打ったのか。。骨折や脱臼じゃないと良いけど。

階段は雪かきはしたし、なるべく氷もどかしたんだが、足りなかったな。。私のスケジュールのせいで急がせてしまったね。」


リチャードは心配そうに礼の左腕を見ながら、礼をそっとソファーに寝かせる。


「すぐ病院に行こう。左腕を見てもらわないと。その痛みようは良くなさそうだし、、ヴァイオリン弾くのに手を痛めたらダメじゃないか。私のスケジュールなんかより君の腕が大事だ。今後は怪我なんかしたら破門だぞ。」


「えっ!?は、破門はやめてください!!」

「なら雪や雨の日に走って手に怪我なんかするな。」


「あと、、病院よりレッスンを、、来週コンクールがあるから、、うっ!!痛っ、、。」

礼は起き上がって、礼を病院に連れていくためか車のキーを出したりコートを羽織っているリチャードに言ったが、大声を出すと左腕に激痛が走り涙が出てきた。


「冗談も大概にしろ!そんな状態で無理して弾いたら一生故障するぞ!弾けなくなっても良いのか??コンクールなんてまた有るけど君の身体は一つだ。

レッスンは今日は絶対にしない。君がやるべきは治療だ。毛布で髪についた氷を取って。

少し温まったら病院に連れていく。」


リチャードは礼を有無を言わせない鋭さで睨んで、怒鳴って黙らせてから、声のトーンを普段の調子に戻してこちらに近づき、毛布を渡す。

リチャードのレッスンは今まで礼が習ったどの教授や師より厳しいが、言葉は厳しくても怒鳴ることはなかった。本気で睨みつけられたこともなく、礼はそれで自分が考えているよりも怪我が大問題であることを認識した。

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