異世界11.爆速で人類に反旗を翻したロボットを鎮圧する【不死身】女子高生
——これが「恐怖」か。
ジョーティ・エレファンターは、初めて芽生えたその「感情」の正体を悟った。
ジョーティは、戦闘用に造られた
工業用・商業用に造られた機巧擬人と違い、機構の全てが、戦闘に特化している。
その脚は敵を追うためにあり、その腕は敵を屠るためにある。
ジョーティは、自分が「狩る側」だと思っていた。驕りではなく、ただの事実として。
「ひ、ひいいいいいい!」
ジョーティは悲鳴を上げる。自尊心が、恐怖に打ち勝てない。
女が、真っ直ぐにこちらに向かっていた。
生身の人間の女である。
機関銃をありったけ放つ。銃弾は、女の目に、腕に、足に当たり爆ぜる。しかし、女は一切怯むことなく迫ってくる。弾け飛んだ部位が、次々と再生していた。
ジョーティの脳裏に浮かんだのは、昔観た映画に出てきた、銃もナイフも効かない怪物——
女は、左腕を振り上げる。
「テンペスト・クロー!」
ジョーティの首が、宙を舞った。
断末魔を上げる間すら無かった。
女の左腕は、猛禽類を思わせる、鋭い鉤爪に変形していた。
ジョーティの躰が、仰向けに倒れる。
ケーキ屋の扉に手をかけた。その瞬間に呼ばれた。予想通りだ。
懐中時計を確認する。16時1分を指していた。閉店まで59分ある。しかし、理空には
【不死身】
今回与えられた
好都合だ、と理空は思った。1秒でも早く攻略したい。そういう時、力任せにゴリ押し出来るチートはありがたかった。
左腕から通知音が鳴る。本部からの通信だ。
『リク! 敵の本拠地の場所が判明したよ! 今、座標を送るね!』
「ああ、ありがとう」
理空は、左腕についてる銃型デバイス「リック・バスター」に、送られてきた座標を入力し、ワープする。
反乱軍の八機神将を全て倒し、残るは首謀者のオメガだけだ。ここまでで経過した時間は89秒。攻略は順調に進んでいた。
雪原が、まだらに赤黒く汚されていた。
オメガの本拠地があるマザーグランド高原は、既に激しい戦闘の最中であった。
銃弾やレーザーが飛び交っていた。
理空は、その中をひたすらにまっすぐ走った。銃弾は、当然理空にも当たるが、少しも速度を緩めることはなかった。
目の前に分厚い鋼鉄の扉が見える。基地まで到達するのもあっという間だ。
「サンライズ・ハンマー!」
理空の声に反応して、左腕の銃口から、直径1メートルほどの鉄球が飛び出す。鉄球は、通り道にあるものを粉砕しながら転がり、扉を破壊する。これは八機神将のひとりから奪った武器だ。
ジョーティ・エレファンターを屠った「テンペスト・クロー」もそうだが、現在の理空には、倒した敵の武装を取り込む能力が付いていた。ここまで、8種類の武器を獲得している。
直線の長い通路が伸びていた。下には、底が見えないほどの深い穴が広がっていた。
穴の上は、立方体の足場が浮かんだり、消えたりしていた。この足場の出現パターンを覚えて、進むしかないのだろう。普通であれば。
「フリーズ・ブレイド!」
理空は氷の刃を出し、自らの首を切り落とした。床に転がる首。理空の躰はそれを拾い、投げた。首は唸りを上げて飛び、向こう岸に到達した。
首だけになった理空から、躰と服が再生する。今回のチートは、厳密に言えば「自分が思い浮かべる完璧な自分の状態を保ち続ける」というものなので、躰はもちろん、衣服など身につけているものも再生する。決して作者が「いくら小説とはいえ女子高生を全裸で行動させたら怒られるのでは?」と、怖がったからではない。
銃撃がいっそう激しくなる。理空は気にすることなくひたすらにまっすぐ駆ける。
理空はとにかく急いでいた。今回ばかりは遅刻するわけにはいかない。
少し進んだところで、理空は足を止めて真下に銃口を向ける。本来は、螺旋状の道を降って、オメガのいる部屋まで向かう。
「ブレーズ・アックス!」
真下の床を破壊する。マグマが、そこに広がっていた。理空は躊躇せずに中に飛び込む。【不死身】のチートは、痛覚が無くなるわけではない。しかし、理空には関係が無かった。それよりも重要なことがある。
マグマの海を少し泳ぐと、部屋の前に出た。反乱軍の最高幹部オメガのいる部屋だ。
扉を壊し、間髪入れずに中に入る。
オメガの背中が見えた。反撃する
「サンダー・トライデント!」
三叉に分かれた雷の槍がオメガの躰を貫く。理空は至近距離まで近づく。とどめを、確実に刺しにいく。
光。視界を覆い尽くす。理空は、反射的に目を閉じる。熱が、襲ってくる。オメガの躰が爆発していた。
「かかったなリク! それは私に擬態した爆弾だったのだよ!」
本物のオメガは高笑いした。
理空の上半身が、消滅していた。残った下半身が、力無く倒れる。
「まさかこんな単純な罠に掛かるとは思わなかったが、私の勝利だ!」
本物のオメガは、理空を足蹴にして、操作盤の前に座る。巨大なモニターには世界各地の映像が映し出されていた。
「後は、プログラムさえ入力し終えれば、世界中に核が落ちる。人間の時代が終わり、我ら機巧擬人の時代が始まるのだ!」
オメガは、自身とコンピューターを接続する。モニターに文字と数字が迸る。
「……よし完成したぞ。多少時間はかかったが、これで人類は滅亡する」
「ほう、誰が滅亡するって?」
龍造寺理空。真後ろに立っていた。左腕に、エネルギーの奔流が逆巻いていた。
「な、貴様は死んだはずでは!?」
理空は、銃口をオメガの頭に向ける。
「頭だけじゃなくて、全身くまなく木っ端微塵にするべきだったな」
「くっ!」
刀。オメガが抜き放つ。同時に、オメガの腕が真上に跳ね上がっていた。理空の蹴りが、刀ごと跳ね飛ばしていた。
「くそおおお! この私の野望があああ!」
理空はフルチャージのリック・バスターを放つ。閃光が走る。オメガは、跡形もなく消滅した。
理空は細く息を吐く。
「危ないところだったな。完全に不意を突かれてしまった」
自爆用のダミーに巻き込まれたことは完全に蛇足だった。いつもなら、あんな見え見えの罠は看破してた。理空は自戒する。焦りは、あった。
理空はメインコンピューターにコードを入力する。起動させると、すぐに基地の自壊が始まった。
この世界に、平和が訪れたのだ。
「……えっ?」
理空は何が起きたか理解出来なかった。
夜の街にいた。
異世界の別な場所に飛ばされたのか。いや、そうではなかった。間違いなく、そこは神居市であり、理空は「ケーキショップ水色の街」の前にいた。
理空は懐中時計を見て血の気が引く。時計の針は23時を指していた。
「そうか、あの時」
理空は異世界の行動を思い返した。偽物のオメガの自爆に巻き込まれたとき、上半身が消し飛ばされた。脳が無い状態から元通りに回復するまで、膨大な時間がかかってしまっていたのだ。
ケーキ屋の扉には、CLOSEDの札が掛けられていた。
「う、うああああ……」
理空は泣いた。うずくまって泣いた。人目を憚ることもなく泣き続けた。
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