基幹世界11.LOG IN

 伴奏だけが、カラオケボックスの中で響いていた。

 ガイドメロディが流れ始める。誰も、歌おうとはしない。

 問、燈里、イブは、入口に視線を奪われていた。


 理空が、立っていた。

 左手には大きめの箱をぶら下げていた。肩が軽く上下して、視線は下に向いていた。

 曲は、サビに入っていた。誰も口を開こうとはしない。


 燈里は、タッチパネルを押す。曲が、フェードアウトして消えた。


「ま、間に合ったね」

「いや」


 理空は俯いたまま口を開く。


「間に合わなかったよ。結局、間に合わなかった」


 理空は、俯いたまま、噛み締めるように言った。

 じゃあそのケーキは、と燈里は口に出せなかった。理空は無表情を装っていたが、その奥から凄まじいほどの悔恨が滲み出ていた。


 隣の部屋の歌声が聞こえる。それがより一層、この部屋の静寂を際立たせる。


「なあ、理空、この前はごめ——」


 理空は、問の言葉を遮るように、テーブルの上に箱を置いた。すぐに、背を向ける。


「問、誕生日おめでとう」


 理空は、呟くように言った。


「ごめん、やっぱり、私は友達にはなれない」


 ドアが開け放たれる。理空は、飛び出して行く。


「おい、待てよ!」


 問が、弾け飛ぶように追いかける。

 理空は店の入口を出て、大通の横断歩道に入る。ちょうど青信号だった。理空は駆け抜ける。


「理空待てよ!」


 振り返る。問が、そこにいた。


「何かあったかくらい教えろよ! 私らともだ——」


 光。問を照らした。目が眩むほどの強い光が。足が止まる。大型トラックが、迫っていた。


「問!」


 理空は、一歩で駆け寄った。手を掴む。トラックは、速度を落とさずに突っ込んでくる。

 ヘッドライト。眼前に迫っていた。

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