第7話 犯人との対峙
氷川光一警部とその部下たちは、南山宗吾の死の真相に迫るため、遂に邦方竜紀を取り調べる場に臨んでいた。取り調べ室の薄暗い照明の下、緊張感が漂っていた。
邦方竜紀は椅子に座り、冷や汗をかきながらも毅然とした表情を保っていた。氷川は資料を手にしながら、彼に向き合った。
「邦方さん、我々は調査の結果、あなたがインターネットで青酸カリを購入していた記録を見つけました」と氷川が冷静に話し始めた。「そして、現場のゴミ箱から発見された青酸カリの瓶から、あなたの指紋が検出されました。」
中原が証拠品を取り出し、邦方に見せた。「これがその瓶です。あなたの指紋がここに残っています。」
邦方の顔に動揺が走り、目を伏せた。しばらくの沈黙の後、彼はついに口を開いた。「はい、私がワインに青酸カリを使いました。」
その言葉に部屋の空気が一変した。氷川は続けて質問した。「なぜそんなことをしたのですか?動機を教えてください。」
邦方は深い息をつき、重い口調で話し始めた。「南山さんは私に『お前はそんな料理しか作れないのならお前に作る資格はない』と言い続けました。毎日が辛くて、その言葉が心に刺さって離れませんでした。」
田宮が静かに聞き入る中、邦方は続けた。「一方で、新人の高岡には特別扱いしているように見えました。彼にはいつも優しい言葉をかけ、贔屓しているようでした。その不公平さに耐えられず、恨みが募っていきました。」
氷川は邦方の目を見つめながら言った。「しかし、あなたは誤解していました。南山さんはあなたを認めていたのです。」
邦方は驚いた表情を見せた。「何を言っているんですか?」
氷川はフライパンを取り出し、その取っ手の裏を邦方に見せた。「ここを見てください。」
取っ手の裏には「よく頑張ったな、竜紀」と書かれていた。邦方の目に涙が浮かんだ。
「南山さんはあなたを誇りに思っていました。フライパンはその証拠です。あなたが一人前になったことを示すために、毎年弟子に贈るものです。」
邦方は泣き崩れ、声を絞り出した。「私は何てことをしてしまったんだ…。南山さん、すみません…。本当にすみません…。」
氷川は静かに立ち上がり、邦方の肩に手を置いた。「今は反省し、罪を償うことが大切です。南山さんもきっとそれを望んでいるはずです。」
邦方は涙を流しながら、深く反省の意を示した。取り調べ室の扉が開き、中原と田宮が邦方を連れ出した。
氷川は静かに立ち上がり、芝岡と目を合わせた。「この事件は弟子の誤解が生んでしまった悲劇か、南山さんは弟子たちを厳しく大切に育てて送り出すそんなスローガンがあったと佐野さんが言っていた。」
芝岡は頷き、部屋を後にする氷川を見送った。事件は解決に向かっていたが、その背後にある人間関係の複雑さが浮き彫りとなり、氷川たちの心に深い印象を残したのだった。
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