第27話 ゴーレムの目覚め


 どうやら石のゴーレムは村外れの草原にいるらしい。


 なぜか日中は動かずに草原の真ん中で座っているらしく、時折村から直接の討伐依頼を受けた冒険者などが攻撃をしかけてきた。

 だがランクの低い冒険者にはかなり硬いようで、動きもしないゴーレムにすらマトモなダメージを与えられた事はないそうだ。



 そしてとうとう私もそんなゴーレムの元へと到着していた。

 思っていたよりも一回り大きいゴーレムは、座っているにも関わらず高さ三メートル程はあった。


 それにパッと分析した限りでも相当な硬さも併せ持っているな。

 魔法に対してもある程度の耐性はありそうだ。

 低級どころか中級の冒険者でも攻撃を通せるかは怪しそうだな……。



 だがよくよく見ると、石で出来た体の至る所に苔や草が生えており、大きな体の割に顔はかなり小さかった。

 アゴも少し出っ張っているし、全体的なフォルムで見れば何だか”優しそうなゴーレム”に見えてきたな。


 何より”攻撃特化”というよりは”防御特化”のようなフォルムにも見える。



「とても子供を襲ったようには見えないね」



 私は風の音だけが流れる草原で一人呟いた。

 この優しそうなゴーレムも、夜に動き出せば少しは怖そうな印象に変わるのだろうか?


 ────だがそんな事を考えた時の事だった。



「ガゥッ」



 少し離れた場所でオオカミのような鳴き声が響く。

 そしてその一秒後には、普段から聴き慣れた声も続く。



「ちょっとマシュー!レオにきこえちゃうでしょ!」



 そう言ってセナは”シーッ”と自分の口に人差し指を当てながらマシューに注意する。


 だが残念ながら既に私にはバレバレだ。

 ”危険かもしれないから村で待っていてくれ”と言ったはずなのだが、奴らは一体ここで何をしているんだ……。



「おい、そこの二人。なんで付いて来たんだ」

「あっ、みつかった!もー!!マシューのせいだよ!!」

「どうせセナが行きたいと言ったんだろう?」

「それは……」



 セナは口をモゴモゴして黙り込む。

 何と分かりやすい子だ。


 ……はぁ、もう来てしまったモノは仕方がない。

 今から村に戻るのも時間が勿体無いだろう。



「セナ、マシュー。そこからこれ以上近づいちゃダメだぞ?それが約束できるなら村には帰さないでおこう」

「分かった!マシューうごいちゃダメよ?」

「グゥッ」



 マシューは小さな声で返事をすると、セナの指示通りその場で大人しく座り込んでいた。


 んん?なんかセナとマシュー、意思疎通が出来ているんじゃないか?

 私といる時のマシューは、何とか私の身振り手振りで多少の意味を汲み取ってくれる程度の親密度なのに、セナにはもうそこまで心を開いているのか?


 まったく、子供という生き物はいつでもこちらの想像を超えてくるものだな。

 その成長スピードには目を見張る。



 いかんいかん、今はゴーレムに集中しなければ。



「さて、問答無用で斬ると汚い岩の残骸だけが残ってしまうからね。綺麗に斬り分けて通行人の邪魔にならないようにしないとな」



 そう言って私は左腰から剣をヌラァ……と抜く。

 いくら硬いゴーレムとはいっても、全ての結合を否定する私の剣にかかれば硬さはほとんど意味をなさない。

 とにかく問題は”どの角度で斬るか”だけなのだ。


 私は剣を色々な角度に向けながら、どこを斬るかの思考を巡らせる。


「よしっ」


 そして自分の中で答えが出たと同時に、いよいよ剣に魔力を流し込んで斬る構えへと入っていた。


 ここから私の剣の刃に触れたものは問答無用で分裂する。

 砂漠で放った遠距離攻撃である解離の放撃ディソキエーテとは違う、常時発動型の解離の斬撃ディソキアートだ。



 だが何か違和感がある。

 何かが少しずつ変わり始めているのを体が察知していたのだ。



「これは……魔力の流れが活発になったのか」



 ────だが私がそう呟いた直後だった。



 何とゴーレムの小さな顔についた目が赤く光り始め、下を向いていた顔がゆっくりと上がり始めたのだ!


 こちらの魔力を感じ取ったのか、はたまた殺気を感じ取ったのかは分からないが、とにかく夜にしか動かないはずのゴーレムが動き出したという事実。


 長年色んな敵と戦って来た私は瞬時に脳内で状況を整理し、そしてスグに答えを導き出していた。

 なぜなら、こういう時に私が出来る事は決まっているからだ。



 それは”とっとと斬る”。

 ただそれだけだ。



 私は剣の柄を強く握り直し、そしてそのまま剣を振り下ろそうとした。



【ビュオンッッ】



 ……だが私の剣はゴーレムまで残り数センチの所で止まる。

 それは突如としてゴーレムから発せられた”言葉”が、私の鼓膜を揺らしていたからだ。



「聖ナル……チカラ……感知。守……ル。マダ、昼。ドウシテ」



 しゃ、喋った?

 まさかこのゴーレムは喋れるのか!?


 私は剣を構えて警戒を解かず、そのままゴーレムに問いかけてみる事にした。



「な、なぁ。君は意思疎通が出来るゴーレムなのかい?」

「意思疎通ハ……可能。質問ノ意図ガ分カラナイ」

「意図は特に無い。確認しただけだ」



 これは話が早いぞ。早速気になる事を聞いてみよう。

 村側の事情は聞いたが、ゴーレム側の事情は何も聞いてないからね。



「ゴーレムよ。なぜ君は夜間にミスファッテ村を襲うんだ?子供にも手を出したと聞いた。君の目的を教えてくれ」



 すると座ったままのゴーレムは、なぜか少し首をかしげながら私の質問に答えた。



「襲ウ?私ハ、ミスファッテ村ノ守護ヲ任サレテイル警備用ゴーレム。襲ウ事ハシナイ」

「警備用だと?」

「ハイ。子供ヲ襲ッタ記憶ヲ呼ビ出シテミル。……イヤ、私ニ子供ヲ襲ッタ記憶ハナイ」



 ゴーレムは淡々と自身の記憶の真実を述べる。

 こうなってしまうと、村の住民かゴーレムのどちらかがウソをついているという事になってしまうぞ?



「村の人達は、君が少女を押し倒したという目撃情報を私にくれた。これらは全てウソだというのかい?」



 とりあえず敵意を感じないゴーレムに対し剣を下ろした私は、対話で様子を見る事にした。

 するとこの対話によって、このゴーレムによる襲撃事件における”予想外の真実”を知る事になる。



「少女ヲ押シ倒シテシマッタ記憶ナラ……アル」

「じゃあやっぱり……」

「イエ、アレハ”襲ッタ”ノデハナイ。夜間ニ少女ヲ家ヘ帰ソウトシタ、ダケ。シカシ、私ノちからハ子供ニハ強スギタ。私ハ少女ヲ優シク触ル事ガデキナカッタ」

「……なるほど、詳しく聞こうか」



 私はそこからしばらくゴーレムの話に耳を傾けた。

 やはり最初の印象通り、コイツが悪いゴーレムとは到底思えなかったのだ。


 そして私は知る事になる。

 話を聞いて分かってきた真実は、実に可笑しく、いかにゴーレムが可哀想なのかという事に。



「セナ、こっちにおいで。このゴーレムさんを助けてあげたくなった」



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