ゴーレムさんは守りたい

第25話 剣聖という称号

 セナ・マシューとの旅が始まって早数日。


 王都郊外を歩く私達はたまに馬車に乗り、また歩き、そして馬車に乗り……。

 そんな事を繰り返しながら北部高原へと向かっていた。


 ちなみに旅の道中では、主にセナの質問攻めにあうのが習慣になった。


 レクス達との魔王討伐旅の思い出や、私の持っている装備についての質問。

 特に剣についてはセナの来た異世界では珍しいようで、毎日飽きずに興味を示していた。



「レオはなんで剣でたたかうの?あぶないよ?」

「大丈夫だよ。それこそ私はセナぐらいの年齢の時から祖父に剣を教えてもらったからね」

「そふー?」

「あー……。おじいちゃんの事だよ」



 残っている記憶では、私は幼少期の頃からジイちゃんに剣術を教えてもらって来た。


 「いつでも危険な魔族と戦えるように」

 「いつでも大切な人を守れるように」


 ジイちゃんは私に口癖のようにそう言い聞かし、小さな村の中でほぼ毎日”優しく”剣を教えてくれたのだ。


 そしてジイちゃんが持っていた剣は、今では私の腰元にささっている。

 そういえば最初にこの剣の正体を知った時は、なぜジイちゃんがここまで強力な剣を持っているのか理解できなかったな。


 だが王都でジイちゃんのルーツを探れば、ほんの一時間で正体は判明した。

 それは今の私と同じく、ジイちゃんは”元剣聖”だったのだ。


 剣聖という各国唯一の称号は、先代の剣聖に任命される事で受け継がれていく。

 どうやらジイちゃんは剣聖の称号を私の父、つまりはジイちゃんの息子に受け継がせるつもりで厳しい修行をしていたようなのだが、知っての通りその修行に耐えられなくなった私の父は、力を求めて魔人へと堕ちた。


 その結果剣聖の称号は受けるがれる事なく、ジイちゃんは父に殺されてしまったのだ。



 そこからしばらくはカタリスに剣聖が不在という期間が続いていた。

 だがその後、魔王封印という快挙がなされた帰国後にレクスは世界の英雄として祭り上げられ、なぜか私は王から剣聖の称号を授けられた。


 どうやらカタリスの王は、昔ジイちゃんに助けられた事があったらしい。

 その血を継ぐ勇者パーティーの私こそが、剣聖を継ぐにふさわしいと考えたようだ。


 最初は”勘弁してくれ”という気持ちで一杯だったように思うが、今となっては大好きなジイちゃんに少しでも肩を並べられたというのは光栄だし、喜びも感じている。


 もうジイちゃんと話す事は出来ないが、意志だけはシッカリと受け継いだつもりだ。

 剣聖の先輩でもあるジイちゃんに恥じないような人生を送らないといけないとは常に思ってはいたのだが、やはり人間は色々と難しい。


 事実私はこの剣で大切な人を守れなかったのだ。

 今のままではジイちゃんに合わす顔がない。



 もしかしたら人生最後になるかもしれないこの旅で、私なりの人生の答えを導き出さなければならないのかもしれないな……。



 だがそんな昔の事をセナに話している内に、日が大分沈んで来ていた。

 そろそろ泊まる宿を探さなければならない時間だ。



「街までは遠いな。今日は村を探して泊めてもらおう」

「むら?大きなふとんあるかな?」

「さぁ、どうだろうね。貧しい村じゃなければあるんじゃないか?」



 そんな会話を交わしつつ、私達は少しだけ歩くスピードを上げる。

 息の上がり始めたセナは、気付けばマシューの背中に乗っていたようだ。



「……見えてきた」



 そして視界の先に映ったのは、中規模程度の村。

 緩やかな斜面に建った石レンガの家の屋根には、風車が付いていたり派手な色彩の絵が書かれていたりと、非常に自然と人工物の調和が取れたキレイな村だった。


 村の下部には牧草を食べる家畜などが七・八匹いるな。

 おそらく木も多く生えている斜面の向こう側には、さらに村が広がっていると思われた。



 非常に平和な土地だ。

 今夜はここでゆっくりと過ごせる事を願う。


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