第24話 モフモフな乗り物
「さすがは神級魔道士ルミナーレ。見送り方も派手だね」
おそらくルミナーレが放ったと思われる”見送りの花火”は、辺り一体の景色を全てピンク色に染め上げてしまうほどに大きく、美しいモノだった。
彼女の花火を見たのは、魔王討伐の旅に出ていた時に”戦闘開始”の合図として放たれた赤色の花火以来か?
あの時の荒んだ土地で見た血の色の花火とは違って、今回の一発は心温まる芸術性を感じる花火だった。
……王都への攻撃だと勘違いされていない事を祈るばかりだ。
◇
「レオ!ハナビすごいきれいだったね!」
もちろん私の隣を歩くセナにも花火は届いていた。
最初こそ爆発音に驚いた様子を見せてはいたが、しばらく空中に漂っていたピンク色の火花に気付いてからは、それはそれは大層喜んでいた。
だがそんなセナだが、これまでとは大きく違う点がある。
それは今の彼女が自分の足では歩いていないという点だ。
「レオみて!もふもふ〜!」
そう言ってセナは”自分が乗っているオオカミ”の背中の毛を優しく撫でていた。
そう、セナは新たに旅の仲間に加わった灰色の毛を持つオオカミの背中に乗りながら移動していたのだ。
まさか王都にやって来た時にセナが言い放った「乗り物はあるのか?」という質問が、このような形で実現してしまうとは。
そもそも始めはセナを王都に置いていくつもりだっただけに、人生とは全く予想できない事の連続だと再認識させられる。
「セナ、疲れるまでは自分の足で歩きなさい。歩く事は健康につながるよ?」
「セナはレオとちがって、わかいからだいじょうぶ!」
「やはり王都に置いて来るべきだったかな」
「なんでぇ?」
そう言ってセナは本当に理解できない様子で首を傾げていた。
まったく、若さゆえの純粋さほど恐ろしいものはない。
大人になった時に彼女が恥をかかないように、色々な事を教えていかないとな……。
だがそれにしても、このオオカミは本当に人馴れしているな。
王都の城壁内へと違法に運ばれていた動物達の内の一匹だが、まさかここまで躾のされている個体と出会えるとは思っていなかった。
おそらく裏の世界で高値で取引する為に、質の良い環境で育ったオオカミなのだろう。
動物に詳しいレクスの知り合いによると、元々人になつきやすい種でもあるらしいし、あそこで出会えたのはナイスタイミングだったと言う他ない。
「なぁセナ、そのオオカミの名前は決めたのか?」
「なまえ?うーん、そうだなぁ。あのね、このオオカミさん、やさしいニオイがするの」
「ん、んん?うん、そうか。それは良かった」
「だからね、やさしいナマエがいい」
「優しい名前か。意外と難しい条件だね」
思い返せば、私は今まで名付けという行為をした記憶がない。
幼少期には家畜や虫やモノに名前を付けていたのかもしれないが、そんな昔の記憶など覚えてはいない。
「そうだねぇ……。ラフィーとかはどうだい?パッと思いついただけだけど」
「うーん、ふつうでつまんない!」
「うッッ」
私の胸に太いトゲが刺さる。
そうだよ、私はつまらない人間なのだよ……。
「うーん、なにがいいかなぁ。モフモフだからモフモフみたいなナマエがいいなぁ」
「さっき優しい名前がいいって言ってたじゃないか……」
「やさしくてモフモフなナマエがいいのっ!!」
なんとワガママな理論なのだろうか。
だがセナは唇を尖らせたまま思考を巡らせ、とうとう結論へと辿り着く。
「よし、決めた!”ましゅまろ”にする!」
「ま、まし……なんだって?」
「ましゅまろ!知らないのましゅまろ!?」
「恐らくこの世界には無いと思うな」
するとセナは白くて、柔らかくて、フワフワしているというマシュマロの特徴を教えてくれた。
柔らかいとフワフワは同じでは?とは思ったが、おそらく細かなニュアンスの違いがあるのだろう。
気付けば私はそのマシュマロとやらを食べたくなっているのだった。
「セナ。一つだけ提案してもいいかい?」
「いいよぉ」
「マシュマロだと、少し長くて緊急の際に呼びづらいと思うんだ。だから短くして”マシュー”というのはどうだろう?」
「ましゅー?ましゅー。うーん」
セナは再び唇を尖らせる。
だが思っていたよりも早く結論を出してくれた。
「いいよ!マシューね!!」
大きな声で許可を出したセナは、そのままマシューの背中を激しく撫でまわし、その後に自身の顔を毛並みの中に埋めるのだった。
ちなみにセナの突飛な行動対して、マシューは特に変わった様子は見せない。
やはりこのオオカミ、相当落ち着いた性格のようだ。
こちらとしては助かるし、今後の旅でも役に立ってくれる事を願うばかりだ。
さて、そんな私達の次の目的地だが、実はレクス達と相談した上で決まっている。
それは北部地方の”ランヘーヴェン高原”。
なぜ厳しい自然環境でも知られるような場所へと向かうのか?
その答えはただ一つ。
「さて、エルフに会いにいくか」
そう、ランヘーヴェン高原に建国された長寿族エルフの国へ行き、転生についての情報を集めるのだ。
”長く生きているのならそれだけ博識だろう”という、何とも安易な発想なのは否定できない。
────だがこの目的地で得る情報が、紛れもなくセナの未来を大きく変える事に繋がろうとは、まだ今の私は知る由もなかった。
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