第23.5話 派手にいこう
「あら、こんな時期に珍しいわね。ケルンブルーセムの花びらなんて、まだ咲くには早いわよね」
俺の妻・ルミナーレは不思議そうに呟いた。
どうやら息子のペスキアの頭の上に、ピンク色の花びらが落ちていたようだ。
確かに彼女が親指と人差し指でつまんでいるのは、ケルンブルーセムの花びらにしか見えないな。時期外れなのにおかしな話だ。
いや待てよ、確かその花って……
「あぁ、そうか。あの人もレオの見送りに来てくれたんだね」
「あの人?……あーっ!そういう事ねっ!!」
きっと俺達は共通の景色を思い浮かべたはずだ。
それはスラープ地下墓所にある、ヘルドーの丘。
そう、ケルンブルーセムが大好きだったレオの奥さんが眠る場所だ。
「本当に愛されてるのねレオ。はぁー、どこかの旦那にもこれぐらいパートナーを愛しなさいって言ってあげたいぐらいだわ」
「ずっと愛してるじゃないかルミナーレ!!」
「ふん、どうだか」
そう言って彼女はペスキアを抱き上げ、橋を渡った先にある王都の城壁へと歩き出していた。
そしてレオの見送りに来てくれていた面々も、レオの姿が見えなくなったからか帰る雰囲気へと変わりつつある。
「それじゃあレクス名誉団長、俺らは先に帰ってるぜ?」
「あぁ、分かった。わざわざ来てくれてありがとうなアルドル、そしてラーナ。午前の訓練にはギリギリ間に合うだろう」
「そうですね。急いで戻る事にしましょう。それではお先に失礼いたします」
こうして俺の部下であるアルドルとラーナも城壁の中へと戻っていく。
すると見送りに来ていた他の知り合い達も、律儀に俺に向かって深々と頭を下げてから城壁内へと戻っていった。
「じゃあ俺も帰るか」
大きく深呼吸をした後にそう呟いた俺は、少しだけレオ達の方向へ目をやり、そしてゆっくりと城壁の方へと歩き出していた。
進む方向こそ反対だが、レオとは一生切っても切れない縁で繋がっていると思っている。
だからきっと、この歩みも再びどこかで交差するのだろう。
俺は空を見上げ、心の中でレオに強いエールを送るのだった。
◇
みんなの流れと同様に、俺も城壁へと繋がる橋を渡っていた時の事だった。
なぜか一人、流れと逆行するようにしてこちらへやって来る人の姿が目に入ったのだ。
「ちょっとレクス!やっぱりさぁ、もうちょっと派手見送らない!?」
そう息を上げながら言い放っていたのは、まさかのルミナーレだった。
腰に手を置きながら息を整え、少し顔を紅潮させている。
……コイツ可愛いな。
いや違う違う、そうじゃなかった。
「もっと派手って、どうやって?花火でも上げるつもりか?」
「え、何で分かったの?」
「……え、ホントに言ってる?」
だがルミナーレは俺の意見を聞く前に、既に右手から一瞬にして魔法の杖を発現させていた。
彼女の身長よりも少しだけ長いこの杖は、世界で必ず三本しか存在しないと言われている、いわゆる”古代魔道具”の杖だ。
大抵の事はこの杖があれば解決すると言っても過言ではない、まさにレオの持つ古代魔剣”デヴィシオル”に並ぶような規格外の性能を持つ杖なのだ。
「おいおいルミナーレ!?まさかここで撃つつもりじゃないだろうなぁ!?」
「それ以外ある訳ないじゃない。最近思いっきり魔法を使えなくてストレス溜まってたのよねぇ!さぁ思いっきりいくわよぉ〜!」
ダメだ。もうこうなってしまっては彼女を止める手段は存在しない。
ただただ”王都が滅びないように”と、天に願う事しかできないのだ。
「赫なる光、星の如く天を駆け巡り、闇払いし輝きを示したまえ……」
うわ、まさかの口上ありバージョンですか。終わった。
「
────彼女がそう唱えた直後、晴天の空にそれはそれは大きなピンク色の花火が打ち上げられていた
【ドドォンッッッッ!!!!】
これ程にまで大きく美しい花であれば、必ずレオ達にも届いただろう。
ルミナーレの考える”派手な見送り”にふさわしい、なんとも華やかな演出だった。
もうそれはそれは大きく、それはそれは強大で、それはそれは王都の上空を守る神級魔法で作られた魔法壁の至る所に穴を開けるような、とても美しい花火だった。
だが城壁内では”魔人が襲来した!”と勘違いした人々で、それはそれはパニックになったそうな……。
だけど、それらを全て打ち消すルミナーレの満面の可愛らしい笑みを見てしまうと、やっぱり俺はこの人が好きなんだと嫌でも分からされる。
「まったく。この立場で始末書か……」
なぜか俺は嬉しそうな声で呟いていた。
レオの旅路も、この美しい花火のように強く輝いていく事を切に願っているよ。
なぁ親友、また会おう。
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