第23話 旅立ち

 団長のトラリウス様が消えてから数分経過した頃だろうか?

 ここにきてようやく彼らも姿を現す。



「すまんレオッ!みんなを集めていたら遅くなってしまった」



 後ろに数人の大人を引き連れてやって来たのは、もちろんカタリス双翼騎士団の”名誉団長”レクスだった。

 そんな彼の引き連れて来た大人達の顔ぶれも、中々に濃いメンツが揃ったものだ。


 ────まずは彼女。



「おい先生!出発するなら前日から言っといてくれよ!!俺の部下全員連れて盛大に見送ってやったのにさぁ!」



 かつて私が開いていた剣術道場の生徒であり、現在は騎士団の【火】部隊隊長でもあるアルドルだ。



「隊長は忙しいだろうアルドル。無理して来なくても大丈夫だよ」

「バカ言え。先生よりも優先する事なんてねぇよ。先生あっての今の俺なんだからさ」



 そう言いながら彼女はセナの頭にポンと右手のひらを置き、顔を近付ける。



「お前も行くんだなセナ。いいか?先生の横ってのは、世界中の剣士が憧れる場所なんだ。そこを任せてもらったんだから、強い女になれよ?」

「アルドルおねえちゃんはこないの?」

「俺は……やる事が沢山あるからな。お前に任せる」

「うんっ!わかった!レオはまかせといて!」

「だってさ先生。セナがいるから安心だな」



 するとアルドルは私の方を見上げ、ニヤニヤとした表情を浮かべていた。

 相変わらず生意気で、可愛らしい子だ。


 ────そして次に口を開いたのは彼。



「レオ様。もう少し旅立ちを遅らせる事はできないのですか?僕に剣術の真髄を教えてはいただけないのですか!?」



 そう、騎士団の【雷】部隊隊長・ラーナ君だ。

 私が王都に到着にした日に模擬戦をした事でも記憶の新しい高身長の彼。

 この集団の中でも文字通り頭一つ抜けている彼の作り出す影は、私の全身を覆い尽くしてしまう程だった。



「いや、君は十分に強いよ。あとはレクスと共に鍛錬を積み重ねれば良い。継続こそが君の力となり自信となるんだよ」

「でも……いや、僕如きが止めたとて、アナタのような強き方は進み続けるのですよね。レオ様に頂いたお言葉、一生忘れないよう胸に刻んでおきます」



 そう言って彼は片膝を地面につき、私に対して深くこうべを垂れるのだった。


 相変わらず真面目で、少し不器用な青年だ。

 だが間違いなく持っているポテンシャル自体は騎士団内でも随一。

 きっとこの先の騎士団は、彼とアルドルが引っ張っていく時代がやって来るのだろう。



 そして見送りに来てくれた他のメンバーの中には、行きつけだったバーのマスターや剣の手入れをしてくれる職人、あとは王都冒険者ギルドのギルドマスターなどがいた。


 さらにはレクスとルミナーレの息子・ペスキア君も、ルミナーレの腕に抱かれてやって来ている。



 それにしても皆が見送りに来てくれたのは非常に嬉しかった。今はそれに尽きる。

 私の人生も、多少は報われたような気すらしていた。


 きっとレクスが旅立つとなれば、数千人、いや、数万人の人が集まる大規模な見送りパレードが行われるだろう。

 もちろんそれは素晴らしい事だし、レクスにはそれだけの価値がある。


 だが私が思うに、人との関わりから得られる幸福は人数だけでは計れない。

 自分にとって大切な人との関わりが最期まで続けば、それはとても幸せな事なのだと私は思う。


 きっとジイちゃんも、そう言うと思うな。



「それじゃあレオ、気をつけてな。セナちゃんの件は困ったらいつでも連絡してくれ」

「そうだよレオ。私もレクスもお互い年寄りだから出来る事は限られているけど、それでも少しぐらいは役に立てると思うわ」



 そう言って最後にレクスとルミナーレが一歩前に出て、私達と握手をかわす。

 ルミナーレは息子を地面に降ろしたあと、セナをギュウっと抱きしめていた。

 相変わらず大きな胸に埋もれたセナは、息をするのも大変そうだ。



「突然の訪問だったにも関わらず何から何まですまなかったね、レクスとルミナーレ。本当に助かったよ」

「気にするな。魔王を封印した仲だろ」

「フフ、そうだな。でもいつか借りを”返す”ようにするよ」

「その前にまず、セナちゃんを元の世界に”返さ”ないとな?ガッハッハ!」

「……レクス、最後に呆れさせないでくれ」

「……もう年なんだ。許してくれ」



 そう言って最後はお互い鼻で笑い合っていた。


 もちろん後ろの人達にこの会話は聞こえていない。

 セナが異世界から来た件、レクスが下らないギャグを言うようなジジイである件は世間に知られてはいけないからね。


 最重要機密、というやつだ。



「それじゃあそろそろ私達は行く事にするよ」

「あぁ、元気でなレオ」



 そして私は改めて見送りの人達へと向き直る。

 皆私達の方を見て優しい笑みを浮かべ、最高の旅立ちを演出してくれているようだった。


 ああ、そうだ。

 最後に確認しておかなくてはならない事がある。



「セナ、何かみんなに言っておく事はないか?」



 私は隣にいたセナに問いかける。

 すると彼女はさも当然のように答えた。



「ばいばい!またね!いってきます!!」



 ”またね”、か……。

 また会う事があれば、それはセナが元の世界に帰れなかったという事にもなりかねないが────



 まぁ、あえて訂正する必要もあるまい。

 また会えないと決まった訳でもないのだから。



「それじゃあ行こうか」

「うん!しゅっぱーっつ!!」



 こうして私達は王都を背にして一歩を踏み出す。

 見送りをしてくれる仲間達は、その姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれていた。



 この旅路が幸せな結末を迎える事を強く願うばかりだ。


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